芹香と社会とウィンドウズ 投稿者:takataka
「わ、わりぃっ! ……大丈夫か!?」

 そんな声が、聞こえました。
 私はいったいどうなってしまったのでしょうか?
 何かひどい衝撃を受けて、気づいたときにはぺたんと地面に腰掛けてしまっていました。

「……ごめん、怪我はないか?」

 男子生徒の人が心配そうに私を見おろしています。

 ………………。

 前後の関係から考えて、この人が私を突き飛ばしたのでしょうか?
 見れば、ずいぶん怖そうな目つきをしています。

 それはそれとして。
 怪我はないですが、痛いです……。

「あの…、もしもし?」
「……」
 投げかける、無言の視線。
「な、なに?」

 なにではないです。
 ガン付け、です。下級生に負けては、示しがつきません……。

「とにかく、……ホレ、掴まりな」

 向こうが先に折れたようです。
 ガン付け合戦、私の勝ち。

 しかたないので起きてあげましょう。
 彼の顔から視線を外したとたん、おどろくべきものが視界に飛び込んできました。

「ホラ?」

 社会の、窓。
 いわゆるソーシャルウィンドウです。
 それがおもいきりよく全開に。

「………………」

 格子柄。
 ビューティフルチェッカーです……。
 私は……。


	A、このままの状態を維持する。
	B、「今日は急いでるから」とか言って別れる


A、このままの状態を維持する。

「ホレ、掴まれってばっ!」

 強めの呼びかけに、はっとしてそのまま従いました。
 ぐぐっと引っぱり起こされます。
 ……もうすこし眺めていたかったのに。

「あ、そこ、汚れてるぜ」

 なにがでしょう? 一瞬わけが分からずぼうっとしてしまう私。

「あ〜っ、もうっ、気になるっ!」

 スカートをぱたぱたとはたかれました。なるほど、地面にぺたんと座り込んでいたので、
スカートがほこりだらけです。
 それにしてもこの人、人のスカートの心配をしている場合なのでしょうか?

「……あの、もしかして、怒ってる? 怒ってるから、口聞いてくんねーの?」
 そう訊かれると、私は首を横に振りました。
 ふるふる。
「べつに怒ってないって?」
 こくん。
 怒るわけがありません。あれだけ結構なものを見せて頂いて。





「わっ、わりぃっ、ごめんっ! 大丈夫か!? ……って、あれっ、またあんた!?」

 昨日に引き続き、私はショックとともに地面に座り込んでいました。
 そして、目の前には昨日と同じ人。
 藤田浩之、さん。

「…………」
 無言のまま見返す私。
 社会面はやはり、今日もバリバリ全開。
 縞柄です。
 一応毎日取り替えているようです……。

「見た感じ、怪我はしてねーみたいだな」

 私の足をなめまわすように見ながら言います。
 だからこの人は、人の世話を焼く前に自分のズボンの世話を焼けないものでしょうか……。

「それにしても、ちょっと運命的なものを感じるよなー」
「運命的……?」

 私の運命は縞柄なのでしょうか?





 退屈な授業中、色のない時間。
 いつもなら魔法爆弾で世界を滅ぼす熱くねっとりした妄想にふけるところですが、今日
は違います。

 気にかかるのは今朝の事。
 昨日と今日、藤田さんは二日間にわたって社会の窓を解放していました。
 しかも、それが私との運命だとすら言い切りました。

 もし。
 もしも、運命であるなら。
 明日もきっと、なにかある。
 格子柄か、縞柄か。
 あしたは、どっちだ。

 きゅぴーん。
 唐突に私の全身を予感めいた衝撃が貫きました。
 もしも。
 もしもの話です、落ち着いて聞いて下さい。
 浩之さんがパンツをはき忘れてきたなら、いったいどんな事に?



	 どんっ

	「わりい先輩、大丈夫か?」

	 もちろん今日の浩之さんもオープン・ザ・ソーシャルウィンドウズ98。
	 そして。

	「起きられるか? 先輩」

	 笑顔とともに手を差し伸べる浩之さん。
	 ですが私の視線は一点に凝縮したままです。

	「先輩? そんな目をして見つめちゃ照れるぜ」

	 ぞーうさん ぞーうさん
	 オラはにーんーきもーのー。




 うわあ…………。

 夢見るようにあおむいた私の唇の上に、かすかな違和感。

「……………………」


	たり


 あ。
 鼻血。


 がたたっ
「先生、来栖川さんが鼻血です」
「保健委員、連れてってやれー」





 そうときまれば、さっそく研究です。
 私は家に帰るなり、魔道書の棚がひしめく書庫に入り浸りになりました。
 廊下でセバスチャンが気をもんでいましたが、いまはそれどころではありません。


 …………。


 徹夜しました。
 完徹です。
 結局、どんな魔道書にも『意中の男の子におパンツをはき忘れさせる魔法』はありませ
んでした。
 がっかり。

 そうだ。こんなときのための綾香です。
 メリケン帰りの進んだ妹。男の子のおパンツを引きずり下ろすくらい平気の平左です、
きっと。

「やーよそんなの! なんで私が姉さんの学校の子の……パンツなんか……」

 綾香は赤くなっています。
 純情ぶっているのです。
 ウブなネンネじゃあるまいしー。

「とにかく! 絶対に! イ・ヤ!!」
「………………」
 綾香。
 何のために今日の日まであなたを生かしておいたと思っているのですか?

「男のパンツおろさせるためかーーーーーーー!」

 迷わず、こくん。




 格闘家のパンチは思った以上に痛かったです……。





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