姉妹たちの相克 投稿者:takataka
 俺は今、楓ちゃんと二人、向き合っている。
 感情の高ぶるままに求めあった二人、でも、後悔はしていない。
 俺たちはきっとこうなる運命だったのだ。

 しかし、楓ちゃんはまだなにか言い出せないことがあるらしく、俺の方を見てはしきり
にもじもじと絨毯のけばをちぎっている。

「楓ちゃん、いいたいことがあるんだろ?」
「耕一、さん……? どうして……」

 楓ちゃんは恐怖に凍りついた目で俺を見た。
 俺は何か悲しくなった。何だか、俺が楓ちゃんを傷つけているようだ。
 しっかりしろよ耕一。楓ちゃんの不安は俺が受け止めてやらなきゃならない、そうだ
ろ? こんなことじゃ、親父に申し訳が立たない。
 精一杯の笑顔で、笑いかける。

「なんでも言ってくれよ。俺、おどろかないから」

 すると楓ちゃんは意を決したように俺をまっすぐ見つめた。
 漆黒の黒髪が揺れて、ふいに止まる。
 重く口を開いた。




「実は私……ウソしか付けないウソツキ族出身なんです……」




 …………。
 なんですと?

「クイズとかでよく見かけませんでしたか? 小学生むけ雑誌のおまけクイズブックでお
なじみの、あれなんです」

 そりゃー、見たことはあるが。

「ごめんなさい、耕一さん……。
 今まで耕一さんを避けていたのもそのせいなんです。私が口を開けば、きっと耕一さん
にウソをついてしまう。そんなこと、したくなかったんです……」

 目に涙をいっぱいにためて、楓ちゃんはかぶりをふった。
 ふるふると可愛いおかっぱ頭が揺れる。
 俺はそんな楓ちゃんがたまらなく愛しくなった。
 楓ちゃん……そんなに俺のことを思っていてくれたなんて。
 ごめんよ、今までその気持ちに気づかなくて。

 いや。
 待てよ?
 ウソしかつけないんだろう?
 ということは今言っている内容もウソということで……
 そうか!

「顔を上げて、楓ちゃん」
「……え?」

「君はウソツキ族なんかじゃない。オレはそう信じてるよ」

 確信をもって言いはなった。
 考えてみれば簡単なことだ。楓ちゃんの言うことが全部ウソなら、つまり『自分はウソ
ツキ族だ』といってるのもウソということになる。
 少なくとも論理的には、楓ちゃんはウソツキ族ではありえない。

「もう大丈夫だよ楓ちゃん。おいで……」
「耕一さん……うれしい……」

 ひしっと抱きあったそのとき。

「お兄ちゃん!」
 初音ちゃんだ。

「楓おねえちゃんはウソツキ族なんだよ……悲しいけど、それは曲げられない、ほんとう
のことなの」

 なんだって!?
 初音ちゃんがオレにウソをつくはずはない。いわばホントしか言えないホント族だ。

 畜生! いったいどういうことなんだ?
 ウソツキ族とホント族が同じことを言ったら、いったいウソなのかホントなのか!?

「おーい初音ぇ、悪いけど夕飯の手伝いを」
「梓ああぁぁ!!」
「な、なんだよ耕一、急に……」

 俺がすがりつくと、梓はびくっと肩を震わせた。
 顔が上気してるみたいに赤かったのが気になったが、今はそれどころじゃない。

「教えてくれ! 楓ちゃんはウソツキ族なのかそうでないのか!?」

 梓はそのことを聞いた途端ショックを受けたように目を見開いて、そっと伏せた。


「耕一……ごめん。楓はウソツキ族じゃない。あたしからはそれしか言えない」


 梓の寂しげな背中。
 部屋を立ち去る時、ふいにふり返った。

「あたし……あたし、ウソもホントも言う、ウソホント族だから! じゃあ!」

 止めるまもなく走り去ってしまった。




 …………。




 千鶴さーーーーーーーん!!
 早く帰ってきてくれええええええええ!



http://plaza15.mbn.or.jp/~JTPD/