『To Heart』PC版>PS版差分 7(志保篇) 投稿者:takataka
「志!!」

 ちゃきーーーーーーーーーん(マイク装備)

「保!!」

 しゅぴーーーーーーーーーん(メモ帳開頁)

「ちゃん!!」

 きゅぴーーーーーーーーーん(目発光)
 
「にゅーーーーーーーーーーーーーっっっす!!!」

 ずがどぎゃあああああああん(キメポーズ&背後で大爆発)



「またかよ……」
 志保のニュース好きにはここのとこさらに磨きがかかってきている。
 いいかげん飽きろよ、まったく。
「でも浩之ちゃん、何か打ちこめることがあるっていいことだよ?」
 あかりがとりなすように笑う。
「ふっ、そんな口が叩けるのも今のうちよアンタたち。今日の志保ちゃんニュースのトッ
プ項目は……、
 なんと! 以前予告していた志保ちゃんホームページ、いよいよ大公開!」
 なんだと?
 志保の奴、ピッチだけじゃあき足らずいよいよインターネットに手を出しやがったか。
「ほほほ、これには強力な助っ人が手を貸してくれたからね」

「――こんにちわ、皆さん」

 この独特の間は!?
 やはりというか、セリオだった。
 マルチと一緒に帰った時に会った優等生ロボ。
 やはり試験中のロボだけあって、優秀でも人にダマされやすいらしい。志保にうまく担
がれたんだな。気の毒に。

「さ、じゃあまずテストページだけでも見せたげるわ。中身まだないんだけど」

 用意のいいセリオが携帯とラップトップパソコンをセットしていた。
 モニターの画面のWWWブラウザ。
 アドレスが『http://kurusugawa.serionet.ne.jp/~sihochan/』となっている。
 ちっ、小生意気な。
 若干のタイムラグの後、パッと画面が表示される。

「ほう……」

 シンプルながらそれなりによくまとまったメニュー画面。『志保ちゃんのページ』とい
うタイトル以外は画像を使っていない、低速モデム使用者にもやさしいページだ。
 
「へっへーん! どうお? この志保ちゃんニュースページは世界に志保ちゃんニュース
を発信する情報のホットステーションなのよん」

 まあ、たいしたもんだといっておこう。
 だが志保よ、世界に向かって『あかりが大怪我した』だの『山岡先生が交通事故』だの
いうニュースを流してどうするつもりだ?

「んで、1発目はこれ!」
 リンクをクリックする。
 じわじわと現れてくる写真。

『藤田浩之、下校途中に謎の大回転を披露!』

 あ、これオレがあかり追っかけて転んだ時の写真じゃねーか!!
「何でお前がこの写真持ってるんだ? いなかったじゃねーかよあの時!」
 志保はちっちっと指を振り、
「だから、協力者」
 セリオの両肩をポンっと叩いた。
「だってセリオだってあの時いなかっ……」

 もう一度写真を見返す。
 かなり上からの俯瞰のアングル。変に画像が荒い。まさか。
 初めて会った時のセリオのセリフを思い出す。

『人工衛星からデータを……』

 まさか。

「――サテライトサービスには、こういう使い方もあります」

 ぞくぞくと表示されるオレの写真。
 葵ちゃんのキック受けそこねて倒れるところ。
 芹香先輩の薬飲んでぶっ倒れるところ。

「――志保さんのホームページのこれからをお楽しみに……」

 あっけに取られるオレを残して、すっと去っていくセリオ。
 くっ……おのれえ。




「さあ! 志保ちゃんニュースよん」
 休み時間に入るなり、いきなり教室に飛びこんできた志保。
 くそう、最近調子に乗ってやがる。オレの安眠を妨害しやがってー。

「ホームページに取っておきの秘密画像をアップしたのよ、まあ見て!」

 ページを開かずに、ノートパソコンの中のAVIファイルを開いた。

 緑が目にまぶしい林の中、セリオが歩いている。おそらく来栖川研究所の中のグリーン
ベルトかなんかだろう。
 こずえで鳴きかわす小鳥たちが、やがてセリオに気づき、その回りを飛ぶ。
 鳥たちはセリオを怖がらない。生き物の気配がしないからだろうか?
 うすい肩や、ゆるやかに差し出された白い手の先に止まるものもいる。
 小鳥とたわむれるセリオはまるで森の妖精のようだ。

 やがてもう少し大きめな鳥もやってくる。
 カラスだ。
 肩に止まってガアガアいっている。
 セリオちょっと迷惑そう。
 やがてそいつはセリオの耳カバーをつんつん突っつき始めた。
 ああ、カラスとかは光りもん好きだからね。

 次の瞬間驚くべきものを目にした。
 カラスがセリオの耳カバーをくわえて飛び立ったのだ。
 セリオの側頭部のかわいいモノがあらわになる。

 耳カバーくわえたカラスを追っかけて、はだしで駆けてくゆかいなセリオさん。
 みんなが笑ってるお日さまも笑ってる。

「わはははははははははははは」
 オレも笑った。
「ほほほほ、どう? この最新ニュース! 来栖川研に潜入して撮影に成功した決死の映
像よ!」
「志保、たいしたもんだお前! いや、すごいわ。」
 他人から褒められる経験のめったにない志保だ。
 やたらうれしそう。
「ふ、これだけじゃないのよ! この映像を素材にさらにおもしろく編集したものがここ
に!」
 下のリンクをクリックした。
 AVIビュアーが起動する。


	『ちゃっちゃっ! ちゃららららっちゃららららっ!!

	 あーーーーーーーーーーーー、ウッ!!』


 ――マンボNo.5の軽快なメロディとともに、セリオが耳カバーもってかれる決定的
瞬間が何度もリプレイされる。
 飛び立つカラス、あわてるセリオ、光る耳カバー。
 それが何度も行ったり来たり。
 ああ、編集の妙。
 ドッキリじゃねえか、まるで。

 だが、だがこれは!


「ぶわははははははははははははははははは!!」
 バカ受け。
 腹を押さえて、あかりも苦しそうだ。
「志保……これ、セリオちゃんに悪いよ……あははははは」


「ふっ、仕方ないのよ。彼女には真実のため犠牲となってもらうわ」
「――……」
「あははははは……? あ、あれぇ……」
「……おい、志保」


「しっかしいい感じのあわてっぷりよねー。心がないなんて嘘みたい」
「――…………」
 顔面蒼白のあかりは口をぱくぱくさせている。
 オレも緊張ゆえうまく言葉が出てこなかった。


「とくにこの瞬間。いい表情してるわー、もう最高!」
「――………………」
「……あのぅ」
「おい、志保ぉ……」


「なんてーの? このメイドロボらしくもない抜けっ面! マルチ以上よねある意味」
「――………………」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「し……」
「志保ー、志ぃ保おぉーーーーーーー!! 後ろー!!」


「何よ後ろっ……て、のわあああああああああああ」

「――長岡さん、お話があります……」

 どおおおぉぉぉぉぉぉぉぉん。
 HMX−13セリオ参上。
 憤怒の限界を通り越したとき、人は能面のように無表情になるという。

「あっやだゴメンアタシ急用が」
「――お早く願います……」
「いっ!!」

 あかりは気づいていないようだったが、葵ちゃんに格闘技を習うオレには分かった。
 セリオが志保の手を普通に引くように見えながらも、実はかくれて親指の関節を決めて
いることに。
 綾香直伝だな。よけいなこと教えやがって。
「――それでは、長岡さんをお借りします」
「や、あ、ああっ、ヒロ助けてー!」
「志保」
 オレは万感の思いをこめて微笑んだ。
「どこかでまた、会おうな……縁があったなら」
「ひぃええええええええええええ!!」


 づどむっ

「あうっ」


 廊下の物音なんかオレたちには少しも聞こえなかった。
 ああ、聞こえなかったとも。

 ドアの影からセリオがひょこっと顔を出した。
「長岡さんは気分がすぐれないようです。よろしかったら私が保健室までお送りいたしま
すが」
「……おう、頼むわ」
 スタスタ去っていくセリオ。
 しかしセリオよ。気分の悪くなった生徒を保健室につれていく時には、あんまり肩に担
ぎ上げたりしないと思うぞ。




 だが安心して欲しい。志保はその後、ちゃんと学校に通ってきている。

「――おはようございます、ヒロ。志保ちゃんニュースです」

 志保はイメチェンのつもりか、いきなり髪をロングにしてきた。
 すげえや! 一晩でそこまで伸ばすとは!
 なんか分け目も変わってるし、色自体も茶髪だったのがオレンジがかった色をしている。
 だがこれは志保だ。志保なんだ。
 オレは自分にそう言い聞かせた。
 だってほらシャギーかかってるし! 長髪にシャギーだとなんか偽善っぽい感じがする
が、この際よしとしよう!
 こまかいことにこだわる奴は長生きできないぞ!!

「――志保ちゃんニュースは情報のホットステーションなのです」


(以下にせ志保シナリオへ分岐)


http://plaza15.mbn.or.jp/~JTPD/