『しっぽせりおの大冒険』第二話 投稿者: takataka
 私のしっぽ、ふわりとなびき。
 私のお耳、ぴんとたって。
 いつにもましてごきげん良好です。

 なぜかというと、私がとってもごきげんですから。

 そんなわけで、キツネです。

 ですがセリオです。
 セリオなのです。
 昔の名前で出ています。

 さて、ご主人探しはますます佳境です。
 緑の森をゆく私。
 今日は天気も晴れやかで、お日さまが私の背に照りつけます。
 耳の先からしっぽの先まで、お日さまの暖かい手にふわりふわりとなでられているよう
な、そんな気分。
 くろい前脚、まっくろ後ろ脚。
 さわさわ揺れる草の野をよこぎり、私を運んでいきます。
 耳をくすぐる風、夏にちかづく森の匂い。

 なんだか素敵なご主人様に出会えそうな、そんな予感がします。

 走ってみましょう。ぴょん、ぴょん、ぴょん。

 四つ足で走るのにはコツがあります。前脚ついて、背中丸めて、後ろ脚で前脚おいこし
て、そのままぐっと背中をのばすと――。

 ぴょんっ。

 ざっとこんな具合なのです。ぴょん、ぴょん、ぴょん。

 と、前方に不思議なものを発見。急ブレーキかけて見下ろします。
 目の前に黒い行列。
 ありさんの一隊です。

 そう、ありさんをご主人様に選ぶというのはどうでしょうか?
 働き者の方々ですから、仕事は山とあるでしょう。きっと働きがいがあるはずです。
 夏の仕事でたくわえ増やせば、冬場の暮らしも安心です。

 …………。

 ちょっと思考実験。


	「もしもし、せりおちゃんせりおちゃん」
	「はい、ご主人さま」
	
	ぷち
	
	「あ」


 いつかは別れが来るとしても、あんまり悲劇的なお別れではないでしょうか。
 この案、却下。

 ぶるっと体を揺すぶって、私は歩みをすすめます。

 ご主人様の第一条件、私と変わらぬ体格で。
 まっすぐ目と目でつうじあう、そんな自然で無理のない主従関係が理想です。
 さあ、前に進まなければ。




 来栖川邸は広い。
 そりゃもうアホのように広い。

「少しちぢめろ! いやむしろオレにくれ!」
「嫌」

 浩之はちょっとむかついていた。
 セリオが逃げこんだ来栖川邸庭園。
 ちょっとした自然公園並みの広さである。固定資産税ちゃんと払ってんのか。
 こんな中でどうやって探せというのだろう。

「いーじゃねーか、有効活用するから!」
「どうやって」
「不動産担保ローンとか」
「人の地所を勝手に質入れしないでよ」
「じゃ住んだる! 住み着く!」
「世間ではそれを不法占拠というのよ」
「うぬぬぬぬ」

「まあまあ二人とも」
 長瀬主任が割って入った。
「とりあえず状況から説明しておこうか」

 セリオの現在位置は衛星から追跡できるという。しかし、セリオをコントロールするこ
とは不可能。
 できるだけ近づいて、説得するなり力づくでとっ捕まえるなりするしか手はなさそうだ。
「そこで浩之をネゴシエイターに選んだって訳」

 そうはいわれてもなあ。主人である綾香の言うことすら聞かないのに。
 浩之は以前綾香と河原で勝負した時のセリオを思い出した。
 あいつはちょっと難しそうだぞ。
 天真爛漫なマルチと比べて、セリオはいかにもロボットロボットした態度で……。

「そうか! ロボじゃん!」

 浩之はぽんと手を打った。
「電源切れるまで待ちゃいいじゃねーか! なんでこんな簡単な方法思いつかなかったん
だ?」
「それがだねえ」
 長瀬主任は困ったように苦笑した。
 ここの庭を手入れするために大量のメイドロボが働いてて、仕事中に電源が切れてもい
いように各所に充電用のボックスが設置してあるのだ。
 電源警報の出たメイドロボは各自勝手に充電ボックスで充電し、再び働きに出るのである。
「じゃ、とりあえずセリオつかまえるまで送電止めるってのは?」
「ダメよ!」

 綾香が乗り出した。何だか真っ青な顔色をしていた。

「浩之、あんたはうちの庭がどんな場所か知らないのよ。
 ひとたび庭の手入れを怠ったが最後、姉さんがあっちの世界から呼び出したぬるぬるの
ずるずるのびるびるが大行進なのよ!
 大量のメイドロボを投入することによって何とか押さえてる状態なんだから」

 …………。
 世界の終わりは来栖川の庭から来る。
 そう確信した浩之だった。

「どうすりゃいいんだよ……」
「どうもこうもないわよ。普通につかまえればそれでいいの」
「だーから、それができなくて困ってんじゃねーか」
 しばし沈思黙考。
「しかたない……」
 浩之は腕組みをとき、重々しく顔を上げた。
「奴を呼ぶか」


 ぷるるるるるる。
 がちゃ
「はい、藤田ですぅ。ただいま留守に……あ、浩之さん!」
 留守番のHMX−12マルチはぱっと顔を輝かせた。



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