『To Heart』PC版>PS版差分 4(葵篇) 投稿者:takataka
 ついに、葵ちゃんと坂下の試合の日がやってきた。
 透き通った青空が、どこまでもどこまでも限りなく広がっている……。
 そんな清々しい朝だった。

「両者、構えて!」
 葵ちゃんのあこがれの先輩、来栖川綾香がすっと手を上げた。
 オレはてっきり、

『ほほほ、松原さん、文句があったらベルサイユへいらっしゃい!』

 みたいなお嬢様然とした感じを想像してたんだが、実際に会ってみると、その気さくで
鷹揚な振るまいといい、自信にあふれた挑戦的なまなざしといい、まるっきり猫科のケモ
ノを思わせる。
 それも、とびきり獰猛なやつを。

 それに、誰かに似ているような……誰だろ。

「……レディ…」

 ……ごくっ。
 オレは、つばを飲み込んだ。
 その音が、やけに耳に響いた。
 ついに……。
 ついに始まるのか。

「ファイトッ!」

 ズザッ!
 ひゅおおおおおおおおおおお。
 二人の間を、乾いた風が吹きぬける。

「葵。あんたとはいつか決着をつける運命だと思ってたわ……」
「私も同感です。この世界にナンバーワンは二人も要らない。そうですよね?」
「あんたが空手を捨ててからこっち、同じ闘いの場にいつかは戻ってくるだろうとは思っ
てたけどね」
 葵ちゃんが人差し指を立て、カウボーイハットをちょいと上げた。
 その下からあらわれる挑戦的な笑み。
「坂下さん……あなたと決着をつけるため、地獄の淵から舞い戻ってきました」
 ちちち、と指を振る坂下。
「私とあんたでそんな呼びかたしても仕方ないわ。そうでしょ?」
 くす、と笑う葵ちゃん。
「そうですね……」

 葵ちゃんのこめかみを、一筋の汗が伝う。
 じり、と動いた。
 それに反応して、腰のあたりに浮いている坂下の手がぴくんと動く。

「――『蒼き流れ星』松原葵。エクストリーマー」
「――『ルガーのヨッシー』坂下好恵。空手家」

 瞬間、両者は腰のホルスターに手を……。

 おや?
 オレは根本的な疑問に突き動かされ、はたと立ち止まった。
 お前ら、格闘は?

「Come on and Get it ――DRAW!」

 空気を切り裂き、ひびきわたる銃声。
 オレのひっかかりなんか気にもせず、二人のガンマンの決戦の火蓋が切って落とされた。

「甘いわね葵! 空手の強さ、思い知らせてあげるわ!」

 いや坂下、空じゃねえじゃん、手。
 むっちゃ飛び道具持ってるじゃねーか。

「だあああああああ!!」
 サイドステップを踏みつつ、ピースメーカーを連射する葵ちゃん。
 坂下は横方向に走りつつ、ルガーを持つ手を胸の前に突き出したもう片方の腕にのせて
ねらいを定め、撃つ。肘撃ちという奴だ。

「やるわね好恵。あんなかっこいいだけで当たりにくそうな撃ち方を……」
 感心したようにため息をつく綾香。
 なんか疑問に思わんのか?
「なあ綾香、ところで格闘は――」
「葵! 残弾数に気をつけなさい!」
 聞いちゃいねえし。

「!?」
 と、葵ちゃんのピースメーカーが空回りし始めた。弾切れか?
 だがこれだけ撃ちまくったら坂下だって……。

 かちっという、撃鉄が空振りする音。
 振りかえる。オレには坂下が笑みを浮かべているように見えた。
 次の瞬間。

 ルガーを投げ捨て、ふところから次のルガーを取り出す坂下。
 制服のスカートをばっとはねあげる葵ちゃん。
 ガーターベルトにはさんだデリンジャーを目にもとまらぬ速さで抜き、構える。

 そして、鼻をつまんで上を向き、うなじをとんとん叩くオレ。
 葵ちゃんのナマ足と坂下の胸元。
 結構なものを堪能させていただきました。

「なに見とれてんのよ!」
 げっしいいいいいいいいい。
 綾香の鉄拳大炸裂。
 オレはまた別の鼻血を出すこととなった。



 二人の動作は同時だった。
 銃をつきつけあい、対峙する二人の戦士。
 しかし、武器の貧弱さが葵ちゃんに不利を招いた。ルガー二丁とデリンジャーでは勝負
は決まったようなものだ。

「決まったわね、葵。降参するなら今よ?」
 唇の端を吊り上げて笑う坂下。
 ピンチだというのに、葵ちゃんは余裕しゃくしゃくの表情で笑う。強がりか?
「――坂下好恵、たしかに女子空手界では一番ですね……
 だが、エクストリームじゃ二番目です」
「なんですって!? じゃあ、一番は誰だって言うのよ?」
 ちちち、と指を振って、

「この――」

 ばきばきばきっ

 突如なりひびく指鳴らしの音。破壊力を秘めた強靭な指を想像させる。
 葵ちゃんは自分に向けかけた指をぐいーんと背後にそらした。

「――綾香さん、です」

 その指し示す方向に立っていた綾香は、うむうむとうなづいて、組み合わせた手を下ろ
した。案外心せまいな、こいつ。

「何ですってえええええ!!」
 逆上した坂下は、両手をクロスさせての横撃ちで葵ちゃんに迫る。
 撃ち方がまるっきり悪役だ。
 葵ちゃんは横っ飛びで低木の茂みに飛びこむ。乱射しながら迫る坂下。銃弾がちゅんっ、
ちゅんっと木の葉をはじきとばす。
 まずい! このままじゃ……。

「覚悟しなさい、葵……」
 坂下は銃撃を止め、茂みに近寄っていく。
 葵ちゃん……あんなにがんばったのに、負けるのか?

「葵ちゃあああああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーん!!」
 オレが叫んだ、そのとき!

 どかああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーんっ!

 衝撃にも似た爆発音が、あたり一面に鳴り響いた。

「……葵ちゃん」
 オレは、葵ちゃんを見た。
 雄々しく立った葵ちゃんを見た。
 カールグスタフ無反動砲を肩に構え、両脚で、地面に立っている、葵ちゃんを見た。

 綾香が呆けたようにつぶやく。
「……にしても、またすごい大砲を用意してたものねー。さすがの私も驚かされたわ」

「――いや、ほんとに大砲用意しちゃダメじゃん」

「でもやったわね葵! 大勝利よ!」
「はいっ、ありがとうございます、綾香さん! わたし、綾香さんに追いつくようにがん
ばります!」

 オレのつぶやきを、綾香も葵ちゃんもきっちり無視してくれた。



 後日、オレは葵ちゃんに練習を休ませ、ヤックへと誘った。もちろんオレのおごりだ。
 ちょっとした祝勝会というわけだ。……まあ、勝ち方に若干疑問はあったけど。
 それでも勝ちは勝ちだ! おめでとう葵ちゃん!

 しかし、エクストリームの話を振ると、葵ちゃんはちょっと不安そうな顔を見せた。

「綾香さんはほんとうにすごいんです。私なんか足元にも及ばなくて……」
 そんなことねーよ、というオレを制し、葵ちゃんは雑誌の開いたページをオレに示した。
 記事の内容は前回のエクストリーム大会。優勝決定戦の写真が大きく載っていた。

 オレは腰を抜かした。
 6号戦車ティーガーTに乗り込んだ綾香。
 サブマシンガン一本の対戦相手にドイツ戦車兵魂を教育しまくっている。

「すごいですよね……私なんかぜんぜんかなわなくて」
 うつむく葵ちゃん。
 オレ、白髪。
 エクストリームって……なんでもありなのね……



<PS版ひみつ情報>
 ミニゲームとしてガンシューティングを収録!
 日活無国籍映画のごとく撃ちまくれ!



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