リーフひみつシリーズ『ことわざのひみつ』 投稿者:takataka
 みなさんコンバンハ。窓辺のマーガレット宮内レミィデス。
 実はワタシ、日本の文化についてたいへんな発見をしてしまいマシタ!

 case 1
「浩之ちゃ〜ん、一緒に帰ろうよ」
「わりいなあかり、今日ちょっと用があるんだ」
「そうなの……でも、何だったら用事がすむまで待ってるよ」
「いやいいって。遅くなるんだ、待たせちゃ悪いしな」
「いいよ。浩之ちゃんの行くところだったら私どこでもついていくし、用事が終わるまで
じっと座って待ってるから。浩之ちゃんのこと見つめながら」
「いや、だから帰っていいって」
「でも……」
 アカリはまだまだあきらめマセン。口元に手をやって、目の開きたての仔犬みたいにヒ
ロユキにぴったりくっついてマス。

「『犬の川端歩き』ネ……」

 えさのない川端を犬が歩くこと、つまり無駄な骨折りのことを言いマス。今のアカリに
うってつけのことわざデスね。

 ぴくっ
「レミィ、なにか言った?」
「エ? な、なにも言ってないワヨ」
「ならいいけど……」

 今のアカリちょっと怖かったです。後ろに両手を上げて吼えかかるグリズリーが見えた
気が……。


 case 2
「いーやっほぉー今日の志保ちゃん情報〜〜〜〜〜〜〜〜せつめい!
 実はねえ、山岡先生がまた事故で」
「うるせーよオメーは!! また見え透いたウソかましやがって!」
「なあんですってえ? この最新情報のホットステーション志保ちゃんの情報収集能力を
甘く見むぐぐ!?」
「おら! これやるから黙って食え!」
 シホの口にアメ玉を突っ込んだヒロユキの判断に、ワタシ感心しました。

 『口は以て食うべし以て言うべからず』なのデス。

 口は物を食べるためのもので、無駄なおしゃべりするためのものじゃないというコト
ですネ。


 case 3
「……なんやの、アホくさ」
 自習時間。
 みんながおしゃべりしたりふざけあったりしているというのに、トモコは一人真面目に
プリントを解いていマス。
 終わったら見せてもらえないカナ……。
 そのとき、がたっと音を立ててトモコは席を立ちました。
「トモコ、どこ行くんですカ?」
「図書室や。うるさくてかなわんわ」
 あっけにとられるワタシをおいてトモコはすたすたといってしまいマシタ。

 む〜〜〜〜〜、
『知恵者一人馬鹿万人』ですネ。
 意味は説明するまでもないですヨね?

 ……あ、プリント持ってかれちゃいました。


 もう気づきましたですネ! そう、毎日毎日かならずなにかのことわざ通りのことがワ
タシの身の回りに起こっているのです。
 さすが日本のことわざはすごいワネ〜。

 アレ?

 という事は、逆に考えれば、ことわざがすべてのことを予言しているといえるんではな
いでしょうか?
 日本には『コトダマ』と言って、口に出されたり文に書かれたりした言葉がパワーを発
揮して、その書いているとおりのことが起きるという言い伝えがありマス。
 これもことわざ辞典のおまけに書いてありマシタ。

 するとアレですね。ワタシが買い集めたことわざ辞典。
 アレは『諸世紀』みたいな予言書なのカナ?
 Oh! 日本のことわざ、とってもミステリアス! エドガー・ケイシーもびっくりです。




「このように、ことわざには不思議な力があるのデース!」
「ほう」
 オレは頬杖をついて聞いていた。
 レミィはまるで子供みたいにはしゃいでいる。

「だから、ワタシも新しいことわざ作りマシタ!」

 また突拍子もないことを……。オレは苦笑する。
「ことわざ通りのことが起こる、だから逆に新しくことわざを作ればそのとおりのことが
起こるという寸法ネ! 願い事、バッチリかなうデース! It’s great!」
 えっへん、とばかりに胸をそらす。
 お前なあ。
「そんなわけあるか」
 ぺしっ
「ouch!」
「ことわざってのは日常よく起こる事柄をパターン化して短い文章にまとめたもんだろ?
 それはことわざ通りのことが起きてるんじゃなくて、よく起きるような事がことわざに
なってるんじゃねーのか?」
「ふにゃー?」
「分からんか?」
「ナントナーク、分かるです……」
「ほれみろ」
「でも、コトダマが……」
「そりゃ迷信だって。まあ、自己暗示くらいの効果はあるかも知らんけどな」
「No!」
 レミィは目にみえて落胆する。
 でえい! その淋しげな立ちポーズはよさんか、大げさな。

「せっかく新しいことわざ考えたのに……」
 オレはふと、気になったことを口に出してみた。
「何だよ、それ」

「エ……」
「言ってみ」
「エット……その……」
 もじもじと指をもみ合わせ、赤面するレミィ。
 うーん、こういうところ変に日本人っぽいんだよなあ。
「ほれほれ」
「mu〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
 ニャハハハハハハハハハハハ!」
「笑ってごまかすの禁止」
 あっち向いたりこっち向いたり、こめかみに指あててみたり、頭をかかえたりした末、
レミィはばっと顔を上げた。
「ヒロユキ、ホントに聞きたい?」
「おう、ぜひとも頼むぜ」

 レミィはふいに目を閉じ、開いた。
 真剣なまなざし。
 いつのまにか笑いは消え、蒼い瞳が刺しとおすようにオレを見つめていた。
 それはなにか現実ばなれした世界の湖の色、神秘的に輝き、こころの奥底をうつしだす
水面。
 空の色をはね返して澄みとおるきれいな碧の――。

 ピンク色の唇からつむぎ出される言葉。



『藤田ヒロユキは、宮内レミィをスキになる』



「…………」
「…………」
「…………」
「…………はは」
「…………ニャハハ」
「ふっ、あはは、わはははははははははっ」
「ニャハハハハハハハハハハハハハハッ」

 必要以上にそっくり返って笑いあう二人。
 恥ずかしくておたがいの顔なんかまともに見られねーって!
 どうしてくれるよ、この状況。

「レミィ……」
 オレはゆっくり口を開いた。
「今日、一緒に帰るか!」
「Oh!」
 ぱちんと手を打ち合わせる。
「ヒロユキ! ゲーセン寄って行こうヨ!」
「おう! 今日という今日はシューティングゲーの真髄を叩き込んでやるぜ!」
「お手柔らかにお願いシマス」
 手を合わせて片目をつむってみせる。かわいいじゃねえか、まったく。
「よっしゃー、オレについて来い!」





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