『To heart』PC版>PS版差分 2(琴音篇) 投稿者:takataka
『いちばん変わった琴音はプラス思考がポイント』
                      (爆撃G’s(仮名)1月号)



「わたし……先輩のこと、誘惑してました……」

 夕陽の傾きかける教室。
 何もかもが真っ赤に染まっている。
 長い影が、二人のあいだに横たわる。

「琴音ちゃん……」

 オレは立ちすくむ。言葉をつづけることすら出来ぬままに。
 ついさっきの屋上での出来事が、もう何時間も前のように感じられる。

 オレは琴音ちゃんに笑顔を取り戻してもらうのに夢中だった。今では信じられないが、
命まで賭けようとしたのだ。
 そして、そんなオレに琴音ちゃんはすべてを投げ出す告白をした。
 拒絶したのは間違いではなかっただろうか。
 気弱で、いつも何かにおびえていて、言いたいこともろくに言えなかった琴音ちゃん。
オレはそんな彼女の必死の思いを踏みにじったのではないだろうか?
 違う、と思いたい。
 オレは琴音ちゃんに自分を大事にしてもらいたかった。

 琴音ちゃんが背を向けた。
 ふるえる肩。
 さびしげな、寄る辺ない迷子の小鳥。
 待ってくれ、琴音ちゃん!

「そうじゃない、オレは――」
「藤田さん」
 しずかな声。
 それは夕陽の放つやわらかな光に似て、教室のすみずみにしみこむように――。
「わたし、誤解してました。……当たり前ですよね、今のわたしじゃ、藤田さんにはとて
も……」
「違うんだ、聞いてくれ琴音ちゃん」
「今日は、帰ります」
 にっこりと微笑む琴音ちゃん。
 もしも笑っていなかったのなら、きっと涙を流してしまうから。そうだろう。
「今のわたしじゃ、ダメなんです。もっとがんばって自分を変えていって、藤田さんみた
いな素敵なひとにつりあう女の子になりたい――分かったんです、いま」

 琴音ちゃんは微笑む。
 さっきの笑みとは違う。涙を振りきって前へ進むため、明日へ歩いていくための力を表
情にした、そんな笑み。
 琴音ちゃんは生きている、輝いて見える。
 オレの目の前にいるのは、今までで一番の琴音ちゃんだ。
 そう思えた。
「だから……ひとつだけお願いがあります。わたしがもっと素敵な女の子になるまで、待
っていてもらえますか?」

「琴音ちゃん……」

「わたしがんばります! いつかきっと、藤田さんの前でもっと明るく笑えるように、藤
田さんを幸せな気持ちにさせられるようになりたい……藤田さんが、わたしにしてくれた
みたいに」

「琴音ちゃん!」



「わたし、立派な女帝になります!!」



 ………………。
 ………………。
 ………………。

 はい?

「今日分かったんです! 藤田さんが教えてくれたこの力の本当の意味! 使いようによ
っては世界征服も夢じゃありません!
 そして……いつの日かわたしが世界の頂点に立ったそのとき、きっと藤田さんを迎えに
来ます! わたしの宮殿の第一下足番として雇ってあげます、三食昼寝つきで!」

 えーと。

「しばらくお別れです、藤田さん……きっと、きっと迎えに来ますから!」

 ぱたぱたぱた。
 最高の笑顔を残して、廊下を去っていく琴音ちゃん。
 オレはその後ろ姿をただ茫然と見送っていた。


 プラス思考に転じた琴音ちゃんの行動力はただものではなかった。
 ノート上に爆弾製作する電波少年を倒し、鬼の一族を軽くひねって、二大アイドルを制
して芸能界のトップへ踊り出た。
 そのうえコミケでは初参加なのに外周配置だという。まさに最強。

 やがて世界どころか、宇宙まで制してしまった。
 プラス思考ってすばらしい。

 そしていま、オレを迎えに来た琴音ちゃんが目の前にいる。

 スピネージュ    エルミタ
「  皇帝   姫川  陛下……でも藤田さんだけは特別に」
 ぶわっ(マントひるがえし)


「琴音と呼ぶがよい!!」


 とんでもないッス、陛下。


http://plaza15.mbn.or.jp/~JTPD/