「はぁーいっ毎度おなじみの志保ちゃんニュース!」 「いらねえ」 すたすた立ち去るヒロ。 きー、何だってのよ! この志保ちゃんが最新情報を持ってきてやったってのに! 「ちょっとアンタ何様だってのよ!」 「オレ様」 「ぎぎぎぎぎぎ」 「歯ぎしりが趣味か?」 「ぐぐぐぐぐぐ」 「鬼太郎の主題歌歌い出さんうちに先行くからな」 「あ、ちょっと待ちなさいよヒロー! このやろー!」 「だいたい失礼だと思わない!? この頭脳明晰にして眉目秀麗しかも尿道結石な志保ち ゃんがわざわざホットな情報をお届けしてやってるってーのにさ!」 「えっとね、浩之ちゃん、飽きちゃったんじゃないかな?」 「飽きる? なんで!? このエキサイティングでセクシーダイナマイトでサイコパスな 志保ちゃんが新鮮な朝ナマ情報を」 「だからね」 あかりのいうには、要するにわたしの行動がワンパターンなんだって。 「同じニュースでももう少し言い方に工夫してみるとか」 「あんただって毎朝定期便のワンパタ娘じゃないのさー。いっつもちゃんちゃん呼んで起 こしてるくせに」 「えー、そんなことないよ」 「じゃなんか工夫してるっての?」 「んー……あんまり何度も呼んでも起きないときはオクターブ低い声で、 『――っ野郎……』 とかつぶやいてみるんだ。舌打ちとかまじえながら。 最近はこれでばっちり遅刻なしなんだよ♪」 「そ、そうっスか……」 「あとね、志保」 「なによ」 「みっつめの、ほんとなら両方とも病院行ったほうがいいよ」 「……あんたって子は〜」 みょーん。 「いひゃいいひゃい、はなひてひほー」 まあとにかく、ニュース内容よりも言い方にこだわってみろってことね。 よしよし。 「よしあかり、このオレについて来い!」 今日もいい天気だぜ! 気分は最高だ。 ……ヤツさえ出なければな。 オレはきたるべき第一種接近遭遇に身構えた。 と、電柱の影からしのびよる黒い……影。 「ふ……」 オレの目の前に立ちはだかる志保。 ゆったりとしたシルバーフォックスのコートに身を包み、けだるげな笑みを浮かべつつ、 長煙管からふーっと煙を吐き出した。 たとえるならば銀座二丁目の夜の蝶といったそのたたずまい。 全身これ校則違反のかたまりだ。 「ふふ……ヒロぉ。いい志保ちゃんニュースと悪い志保ちゃんニュース、どっちから聞き たい?」 目をあわせないようにして足早に立ち去るオレ。 「ああっちょっとヒロ! お待ち〜」 イヤだ。死んでも。