お助け瑠璃子さん 投稿者:takataka
 晴れた日、屋上を風がわたる。
 白い雲が、いろいろにかたちを変えながら流されていく。

 今日はとってもいい天気。
 電波びよりだね、長瀬ちゃん。

 私は長瀬ちゃんの電波をさがした。
 今はまだ授業中。
 私もほんとうはそうなんだけど。

 下の教室に閉じこもって勉強しているみんなの電波が届いてくる。
 いらだちがちくちくと胸を刺すもの。
 授業そっちのけで誰かのことを考えている、甘い感じのもの。
 ノートに爆弾をこしらえてるのもあるよ。
 長瀬ちゃんだけじゃないんだね。

 でも、その中でひとつだけは、はっきりとちがう。
 私の知っている電波。
 私の大好きな電波が。
 長瀬ちゃん。

 とびぬけて強く、ちりちりと頭の中をくすぐって、私のこころをあったかくしてくれる。
 私の大好きな長瀬ちゃんの電波。
 他のと間違えるわけないよ。
 長瀬ちゃんだもの……。

 ちりちりちりちりちりちりちりちり…………。

 気持ちが、電波の粒になる。
 空中を伝わって、コンクリートの壁を通りぬけて、私の頭にとどいてくる。
 くすくすくす……
 つたわってくるよ。長瀬ちゃんの思いが。
 いろんなこと考えてるよ。授業がよっぽど退屈なんだね。

 長瀬ちゃんを助けてあげたいな。
 退屈な授業から。
 私は長瀬ちゃんの電波に耳をかたむける。
 何を考えてるのかな。


	『週末は沙織ちゃんとデートかあ……。
	 女の子ってどんなところに連れてくのがいいんだろう』


 ………………。


	『あ、そういえば瑞穂ちゃんに、太田さんのリハビリに付き合ってあげるって約
	束してたっけ。あれは再来週だ。ここんとこ忙しいなあ』


 ………………………………。


	『なんていうのかなあ、もてる男はつらいというべきか。
	 貧弱なボウヤと呼ばれていた僕が電波でみるみるモテモテに!
	 テキストもバインダー式で使いやすいんだニャー』


 くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす…………。




 がたん!!

「どうした長瀬?」

「ファックス」

 ざわざわざわ……。

「ファックス、ファックス、ファックスの仕組みが分からないんだよ!
 どうやったら電線の中を絵が伝わるんだ!? やっぱアレか?! 実はあの電線の中は
空洞でこより状にした書類がゴムの被覆の中を通って相手に届くのか?! それともなん
かある意味魔法!? ファックスファックスファックスファックスファックスふぁっくす
ふぁっくすふぁっくすふぁっくすふぁっくす…………」




 ぴーぽーぴーぽーぴーぽー……。
 黄色い救急車で運ばれていく長瀬ちゃんを、屋上から見送った。

 これで退屈な授業に出なくてすむよ。
 よかったね、長瀬ちゃん。

 明日からは長瀬ちゃんと一緒。
 ずっとそばにいて、看病してあげる。
 長瀬ちゃんのこと、助けてあげるよ。

 長瀬ちゃんが正気に戻っても、
 事の次第に気づいても、
 本気でいやがっても、
 泣いて土下座しても、

 ずっとずうっと、助けてあげるよ。

 大好きだよ、長瀬ちゃん。
 くすくすくすくすくす…………。