初音と神経衰弱 投稿者:takataka
 初音ちゃんと遊ぶことにしたはいいが、トランプのゲーム内容で紛糾していた。
 うーむ、俺バクチ関係しか知らないしなあ。

「神経衰弱!」
「あっ、それいいな! それなら二人でも、そこそこ盛り上がるか」
「うん、じゃあ、やろう」
 初音ちゃんはにっこりと微笑んだ。
「よっしゃ! んじゃ、二人でいっちょ、神経を衰弱させっとすっか!」
「……」
 初音ちゃんは、なんだか複雑な顔をした。
 ニヤリと笑ったように見えたのはきっと気のせいだろう。


「じゃ、わたしからね」
 こういうのは先手が不利だ。初音ちゃんはそれを見越してか、わざわざ自分から先手を
買って出た。
 ううっ、つくづくいい子だぜ。
「えへへ、やっぱりだめだね」
 めくって出たのはハートの3とダイヤの6。次は俺だ。
 適当でいいよな。まずはある程度オープンにしないと進まないし。
 一枚目はスペードの2。
 そんで二枚目。

 俺は目を疑った。
 札に書かれていたのは人物画。
 キングとかクイーンとかジャックとか、そんなハイカラなもんじゃない。

 僧侶。
 純和風。
 なぜに!?

「お兄ちゃんボウズー」
 蝉丸のかかれた札を持ったまま固まった俺を置き去りに、初音ちゃんがあとを続ける。

「えっと、これでどうかな?
 あ! わあい、中納言ゲットだぜ」

 中納言?
 いつのまにやら百人一首が混入していたらしい。
 しかもゲーム内容が坊主めくりに移行しているのか!?
「つぎお兄ちゃんだよ、ねえ早く早く!」
 とりあえずめくる。

 あ、M:TGのセラエンジェル?
 おお、野村義男のキラカード!?

「すごいよお兄ちゃん、野村だよ! 激ヤバ二枚買い必至の超レアものだよ」

 ……そうなのか?
 つうか、もらっていいんですか? この組み合わせ。
 たしか最初並べたときはトランプのカードしかなかったと思うんだが……。


 すべてが謎のままゲームは進行する。
「ぐはあっ、志保15枚目」
 いちじるしい精神疲労で俺はもうボロボロだ。
 いかん……このままでは本当に神経が衰弱してしまう……。
 そんな俺に追い討ちをかけるかのように、初音ちゃんがなにか四角いものを渡す。
「はい、じゃあお兄ちゃんダイス振って」
 ダイスと来たか!?
 ……まあいい、受けて立とうじゃないか。
 なんかバクチっぽい雰囲気になってきたしな。
 これならいける! こういうのなら俺の独断場だ。
 
 ん〜ダイスの神様、たのむっス。うりゃ!
 出目は?
「3と2で5だね。あ、お兄ちゃんGO TO JAILだよ」
「そういうことだ、柏木耕一」
 圧倒的な殺気。この気は……同族?
 そこにいたのは柳川だった。
「てめえ何しに来やがった!」
 とたんに俺の手にはめられる手錠。
「お前を逮捕する」
「おい待て! 俺が何をした? 初音ちゃん、これは一体」
「ううっ、お兄ちゃん、しっかりお勤めしてきてね」
 ハンカチで目頭を押さえる。
 待ってくれ、この状況に何にも疑問を感じないのか?
 よく分からんうちに連行されてしまった。


 長瀬刑事はあいかわらず飄々としていて、カツ丼なんぞすすめてくれたりする。
「そりゃ災難だったねえ」
 取調室で俺は涙ながらに無実を訴えた。
 無実もくそも俺は何にもしていない。ただ初音ちゃんとカードゲームにいそしんでただ
けじゃないか。
 何のゲームか不明だったが。
「どれ、手札見せてごらん」
 言われるままに見せる。抵抗してもしょうがないし。
「お、JAIL FREEあるじゃないか。耕一君ラッキーだねえ」
 がちゃーん。
「もう戻ってくるんじゃないぞ」
 長瀬刑事の声に見送られて警察を出た。
 何で出れたのやら……。

「耕一さん、どうなさったんですか?」
 千鶴さんいいとこに来た! 実は……。
「まあ」
 千鶴さんは心底気の毒そうに俺の手をとった。冷たい手のひら。
 手の冷たいひとって心は温かいって言うよなあ。
「よかったら鶴来屋で少し休んで行かれますか?」
 俺は一も二もなくうなづいた。
 とにかく落ち着いて考える時間が欲しい。

 鶴来屋の玄関前で、千鶴さんがふと立ち止まった。
「それじゃあ耕一さん、レンタル料のお支払いをお願いします」
 レンタル料?
「えーと、ここホテルになってますから800ドルですね」
 千鶴さん、おれ金なんか持ってないよ。
「なんですって……?」
 即鬼化。
 周囲の気温が三度さがる。屋外なのにすごい冷却力。
「それなら、ここで破産してもらうまでです!
 耕一さん、全財産家屋敷もろとも頂きます!」
 うっわあああああ!
 オレ猛ダッシュ。
 さすがに同じ鬼とは言え、男女の差でオレは千鶴さんをどんどん引き離していった。

「あれ、耕一?」
 梓、助けてくれ! 千鶴さんに追われてる!
「なんであの千鶴姉に追われるんだよ? はーん、さてはなにかエッチなことしたな?」
 そんなん怖くて出来るか!
「んー、分かった分かった。耕一にチャンスをやろう」
 梓はオレの前にカードの束を付きつけた。
 また何か引くのか?

『チャンスカード 水門へ行く』

「水門だって。行かなきゃだめだよ耕一」
「おう、恩に着るぜ」
 鬼の力を体に変化を及ぼさないぎりぎりまで解放して、山のほうへと走る。
 しかし山岳ゲリラじゃないんだから山に逃げんでもよさそうなものだが。

「耕一さん!」
 楓ちゃん! どうして君がここに?
「会いたかった……」
 ひしっとしがみつく楓ちゃん。ううっ、いい子だぜ。
「レンタル料500ドルです」
 なにいいいいいーーーーー!?
 よく見ると、周りには鶴来屋グループのペンションが三軒建っている。
「逃がしません、耕一さん」
 オレの胴体は楓ちゃんにしっかりつかまれている。
 俺、破産。
「ごめんなさい耕一さん……耕一さんの持ってるB&Oとリーディング鉄道を入手すれば、
わたしは鉄道王になれるんです……」
 俺の手から札を取り上げながら、楓ちゃんが申し訳なさそうに言うのがどこか遠くで聞
こえた。


「強いな、初音ちゃんは。いろんな意味で」
 ゲームの名前通り神経をすり減らした俺は、それと同時にギブアップ宣言をした。
 もうなんか、何もかもしぼりとられた感じだ。
「なんつーか、すごい力だなー」
「えへへ……」
 初音ちゃんは照れながら後ろ頭を掻いた。


「根本的に頭が……ヘンなのかな……」
「そ、そんなことないよー」