パン屋の名 投稿者:takataka
 お食事中の関西方面出身者は読み飛ばした方がいいかもしれません。
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「よっいいんちょ、今日はパン食か? めずらしいな」
 学食に行こうとしたところを藤田くんに呼びとめられた。
「んー、朝寝坊してん。おかんも今朝早かったし……作るひま、なかった」
「じゃあいっしょに行こうぜ、いいだろ?」
「別に悪いなんて言うてへん」
 わざと、つん、とそっぽ向いて見せたりする。私の悪いくせ。
 藤田くんは気にする様子もなく笑ってる。

 少し前までは本気で無視しとったけど、今は違う。
 ……藤田くんのこと、前とはちがうふうに考えてるから。

「そう言えば委員長ふだん弁当だからカンケーないだろうけど、なんかパンの業者が代わっ
たらしいぜ。今度のはどんなパンか楽しみだな」
「なんやタイミングいいなあ。人がめずらしくパン食しようって日に」
「なあ、もしまずかったら蹴るか? 業者」
「おー、そりゃもう極上の下段キックを……って蹴るかいな!」
「うお、本場のノリツッコミ」

 藤田くんはなにが楽しいのか知らんけど私にしきりに話しかけてくる。
 前はうっとおしいと思ってたけど、今は素直に、ありがとうなって思えるようになった。
 こっちの方に来てから初めてできた友達。自分で言うのも何やけど、あんなにイヤな女
やった私のことかまってくれた、やさしい人や。
 外見コワイけどな。とくに目つき。

「何やゆーたかあ、ワレ」
「なんやの、へったな関西弁……ふふ」

 でも、わたしはそんな藤田くんのこと、いまでは大事に思ってる。
 あの雨の日、私がだれからも必要とされない、いらん子になった……って思ったとき、
藤田くんは私のこと必要や思うてくれたから。


 関東も悪いとこやないな。
 いま住んでいるこの町、この人たち、この学校。やっと好きになれた。
 藤田くんのいるところやしな。

「やったぜいいんちょ! 新バージョンのカツサンドゲットだぜ!」
 藤田くんが包みを投げてよこした。私の分も買ってくれたんか。
 こういう所、やさしいな(ぽっ)。
 えっと、新しい業者言うとったなー。
 どれ。

「なんっじゃああああああああ!」

「お? どうしたいいんちょ」
「何やこれ! 気ィたしかか? こんなん食えるかいな!」

 袋には

『ばばパン店』

 と明記してあった。

「いやあああああああああ!!」
「おい委員長! どこ行くんだ!?」

 はあはあはあ……ここまで逃げれば大丈夫やろうか。
 学校エスケープしてもうたなあ。
 電気屋のウィンドウに目をやる。いま何時やろ。テレビに表示してへんかな。

『……今日のゲストはレスラーのジャイアント馬場さんです』

「いやあああああああああっ!!」

 関東もんって一体……。
 あああ、せやから時間! もう五時間目始まってまう!
 お、なんやあの看板に時計がついてる。どれどれ。

『大学受験のトップコース 高田馬場予備校 PM 12:53』

 高田馬場。
 馬場。

「うっぎゃあああああああああああ!!」

 私は号泣しながら走り出した。
 流れる涙はあたかもバイファムのOP。

 関東もんは……関東もんはみんなス○トロやー! 助けてマイフレンドin神戸!
 もう……はよう神戸に帰りたい……。

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 関西弁で『ばば』とはいわゆる『大』のことです。
 尾篭な話で申し訳ないです。