リベンジャー弥生 投稿者:takataka
 ADの仕事中、久しぶりに由綺に会った。
「忙しいんだって?」
「うん、急に仕事がいっぱい入ったの」
 少し疲れた様子ではあるが、由綺はうれしそうに答えた。
「へえ、で、どんな番組なんだ?」
「えっとね、『ヤンヤン歌うスタジオ』でしょ、『たのきん全力投球』でしょ、『ヤング
おー! おー!』でしょ、『凸凹大学校』でしょ」

 ちょっとまて。

「……由綺」
「なに、冬弥君?」
「俺の記憶するかぎりではそりゃ全部かなり昔の番組で、しかも放送終わってるぞ」
「ええっ?」
 由綺は驚いている。
 つーか、気づけ。番組表見れば分かるだろう。
「そ、それじゃあ『見ごろ食べごろ笑いごろ』も?」
「当たり前だ!」
「そんなあ……徹夜で電線音頭の練習したのに……小松の親分さんの横で太鼓たたく係に
決まってたはずなのに……」
 するな。
 アイドルの仕事かそれ?
「じゃあ、あれもダメなんだ……『どんなもんだいQてれび』」
 ……しらねえ……。
「どんQポーズの練習もしたんだよ! もちろん完徹で!
 ほら『ど〜ん、Q〜』って感じで!」
 するなよう……。

「大体だれがそんな仕事入れたんだ?」
「弥生さん」
 がたんっ!
 突然ロッカーが倒れ、扉が開いた。
「弥生さん!?」
 ぐるぐる巻きに縛られたうえ、猿ぐつわまで。
「一体だれがこんなことを? じゃあいままでの弥生さんは一体……」
「罠です」
 氷のような弥生さんの口調に、やや怒りの熱が感じられる。
 ウラミハラサデオクベキカ、とその冷静な顔に書いてあった。


「ただいま戻りました」
 激しいトレーニングの手を休めた綾香は、声に振りかえる。
「ご苦労だったわね。首尾は?」
 感情のかけらも感じさせない声で、篠塚弥生は答えた。
「完璧です。森川由綺の出演スケジュールを大幅に狂わせました」
 答えながら耳カバーを装着し、流れる黒髪をひきはがす。
 その下からあらわれる、朱色のロングヘア。
「これで本来森川由綺の出演する予定の番組はすべて中断、タイムテーブルの変更で深夜
枠に組みこまれたエクストリーム大会の中継がゴールデンに移動します」
 HMX−13セリオは完璧な働きをしめした。
 綾香は満足そうに笑う。
「ふふふ、完璧ねセリオ。森川由綺には悪いけど、今回は泣いてもらうわ。
 この『エクストリーム放送をゴールデンに持ってって一気にファン層拡大しちゃおう計
画』の犠牲になってもらうのよっ」
 ぐぐっと拳をにぎりしめる綾香。
「そしてエクストリームは全国的に大流行……幼稚園児から老人ホームのお年よりまでブ
ラウン管に釘付けで、そんでもってあたしのトレカやらクレーンゲー人形やらが女子高生
を中心にそりゃもうバカ売れ……」
「トレーニングお疲れさまです。スポーツドリンクはいかがですか?」
「ん、気がきくわねセリオ」
 受け取って飲む綾香。とたんに表情が変わり、床に崩れ落ちる。
「……セリオ!? これは一体……」
「はい。筋肉弛緩剤などを少々」
 がたん。
 ロッカーが倒れ、中から特殊ワイヤーで亀甲に縛られたセリオがあらわれた。
「はっ!? セリオが二人?」
「残念ですが、由綺さんの仕事を妨害した方を放置しておくわけには行きません」
 ばっ。
 耳カバーと朱色のロングのカツラを取り去る。
 百合系ジャーマネ篠塚弥生、参上。
 タイをほどき、ブラウスのボタンを外しはじめる。
 するっとストッキングを下ろすと、綾香は見る見る青ざめた。
「見たところ経験はおありのようですが……」
 黒い下着姿になった弥生は口の端をつり上げて笑った。
 綾香の震えるあごをくいっと持ち上げ、
「女性のほうは初めてですか?」
「ひいいいいいいいいいいっ」


「気を落とすなよ由綺。おかげでどうにか仕事のほう間に合ったんだし」
「シラケ鳥の着ぐるみ、着たかったのにな……」

 だが、あのメイドロボのとってきた仕事のうち、ひとつだけは本物だった。
 『探偵ナイトスクープ』のレポーター。
 ナゾのパラダイスの取材だ。

「やいやい言うなー! 気ィ悪いわー!」

 よかったな、由綺。