メイドロボウォーズ 投稿者:takataka
 セリオとの比較テストの結果はさんざんなものだった。
 試用期間が終わったら学校に来ないはずのマルチは、なぜかまだ来ている。
 まあ細かいことは気にするまい。
 それにしても、だ。

「100対ゼロか……」
「えへへ、しょうがないですよね。セリオさんはわたしなんかとは出来が違いますから……」
「それでいいのかマルチ」
「へ?」
「100対ゼロってどう言うことだ! おまえはゼロのメイドロボか!」
 口惜しそうに歯がみするマルチ。
「だって……」
「それじゃあどうしたいんだ、マルチ」
「勝ちたいです……セリオさんに勝ちたいです!」
「わかった! じゃあそのために今からおまえを殴る!」
 ぺしっ。
「あっ」
 ぺしぺしっ。
「あっ、あっ」
 ぺしぺしぺしぺしぺしぺしっ。
「あっあっあっあっあっあっあっ」
「あが1個多い!」
 ごすっ
「はぶっ」
 教育の成果は早くも現れた。
「おーいマルチ〜」
「なんですかー」
「ぶつぞ」
「あべしっ」
『あ』と『ぺしっ』をすべて自分で済ますようになった。
 北斗神拳食らったようにもみえるが。
「浩之さん、わたしやります!」
「そうだマルチ、目標は花園だ!」


「いいかマルチ。メイドロボの基本はタックルだ!」
「なぜですかあ」
「屁理屈言うな!」
 ぺしっ。
「あっ」
 スパルタ式は理屈不要なのですごく楽だ。
「ハァイ! 今日はアタシ宮内レミィがUCLAじこみのタックル教えるわヨ」
「このとおりタックル専門家も招いた。さあやれ」
「わかりました〜」
「じゃ行くワヨ。Standup miss Multi. Please after me.『tackle』OK?」
「た、たっこお」
「No! Looklooklook……もっと舌を丸めるような発音ネ」
 レミィ、発音はいいから実技を教えてやってくれ。
「えー。がっかりデス」
 しかたないな。オレは小さなガラス瓶に「実技教えろってば」と書いた紙を入れて木の
下に埋めた。
「Oh! Dramaticネ!」
 早速マルチにタックルの奥義を伝授するレミィ。
 アメリカ人の神経はわからん。

「あたしに教わりたいって? いいわよお」
 志保は必要以上にでかい態度だった。
 この女いつかシメる。
「さあ! それではまいりましょーか志保ちゃんニュース!
 ……ん〜、しかしそう急に言われてもね……今ダウンロード中ってことでひとつ!」
「志保さんサテライトサービス使えるですかー? すごいですー」
「え? あ、ま、まあ当然のことよ。ほほほっ」
 次の日から志保は耳カバーをつけてくるようになった。

「何してるの? 浩之」
 サッカーボールを小脇にかかえた人影が。間違いない。
「イソップ〜!」
「え、あの、どうしたの浩之?」
 突然号泣するオレにとまどう雅史。
「なあ雅史、ちょっとコレ持ってみ。大丈夫だって痛くしないから」
「なにこの刺激臭のする小瓶は」
「馬鹿野郎! 何持ってんだイソップ!」
 げし!
「あいた」
「お前ええええ! シンナーってどういうことだ! 見そこなったぞ!」
 もらい泣きするマルチ。
「雅史さん〜どうせもうすぐ死ぬからってヤケおこさないで、シンナーなんかやめてくだ
さい〜」
「ひどいよ二人とも……」


 がんばり屋の学習型であるマルチはスポンジのようにあらゆる技術を吸収していった。
 葵ちゃんのもとではハイキックと崩拳を。
 琴音ちゃんのもとではスプーン曲げと瞬獄殺。

「いいですかマルチさん、ここで振り返って『今日安全日ですから……』」
「なに教えてるんだ琴音ちゃん!」
「えー、『殿方をソノ気にさせるマル秘テク四十八手』ですが」
「浩之さ〜ん、寒くて安全ですー」
「おまえもやるんじゃない!」
 ぺしっ
「あっ」

 委員長には眼鏡一発芸いろいろ。
 眼鏡をひたいにずり上げて『眼鏡、めがね〜』とうろたえる委員長の姿にはどこか哀愁
が漂っていた。
「しかしもう少し役に立ちそうな芸ないのか?」
「よかったら競艇とセスナ操縦教えたるで。あとタクシーの運ちゃんのシメかた」
「いらん」


「うわあ、きれいですぅ〜」
 こうしてオレたちは念願の花園にたどりついた。
 咲き乱れる野の花々。
 その中でうれしそうにたわむれるマルチはまるで春の妖精のようだ。
 マルチが事の真相に気づいてなくて本当によかった。
 さすがに一人じゃラグビーできないからな。
「浩之さん、わたしついに花園に立ったんですね。感激です〜」
「おうマルチ、今のお前は最高にかがやいてるぜ!」
 なでなでなでなでっ。
「あ、んふぅ……しあわせですう」
 かわいいヤツ。

「でも浩之さん、ラグビーはいったい?」
「屁理屈言うなぁ!」
 げしっ
「あうっ」