耳の秘密 投稿者:takataka
 オレは腕組みして事態を見守っていた。
 目の前には下を向いて申し訳なさそうにしているマルチ。
 降りしきる雨。季節は六月だ。
 じめじめとうっとおしい季節。露にぬれたアジサイの花もこのやりきれないけだるさを
吹き飛ばすことはできない。

「なあ、マルチ」
 オレが何の気なしに聞いたのはいつのことだったか。
「耳カバーの中身ってセンサーなんだよな」
「はい、そうですよ」
「何のセンサーなんだ?」
 オレにはマルチが一瞬びくっとしたように見えた。
「たしか前に無理やりはずさせたときは、耳カバーつけてない状態でもちゃんと音聞こえ
てたはずだ。という事は聴覚じゃないよな。
 人間以上の能力は備わってないから、当然人間にない感覚器官もないよな。セリオみた
いなサテライトサービス用のアンテナもないし……
 なあ、それ、中身何なんだ?」
 マルチはおろおろして黙り込んでしまい、顔を真っ赤にして『ごめんなさい……』とつ
ぶやいたまま黙り込んでしまった。
 そんなだからオレもそれ以上追求はしなかったのだ。

 そして季節は六月。
 オレの前にはマルチ。真っ赤な顔をしてうなだれている。
 ぬらぬらと壁に残る、銀色の軌跡。
「ごめんなさいっ、ごめんなさい……浩之さあん、ううっ、ほんとは……」

 壁を這う二つの耳カバー。

「こういう形のカタツムリなんですうー!」

 がばあっ!!
 ぜえぜえぜえぜえ……
「なんだいまの、なんだよ……」
 ものすげー変な夢を見た。よりによってカタツムリってなあ。
「浩之さんどうしたんですかー」
「おうマルチ、いま変な夢見たんだよ……って、ぎゃー!!」
 マルチの顔面を這う耳カバー。
 オレはふたたび深い眠りに落ちた。

「セリオー、また耳カバー逃げてたわよ」
「申し訳ありません、綾香さま」
「元気がいいのはいいけどねー、こないだなんかあたしのウレタンパッドん中に住んでた
わよ。危うくつぶすとこだったわ」
「以後気をつけます」

 キミんちのメイドロボは大丈夫か!?