戦え! ポップアート仮面 投稿者:takataka
 WA本編の英二さんの話を理解できた人なら元ネタ分かると思いますが……。
――――――――――――――――――――――――――――――

「いいものを手に入れたんだ! ぜひ見に来てくれ青年!」
 俺はため息をつきつつ受話器を置いた。
 芸術関係では英二さんにひどい目に会わされっぱなしだった。こないだなんか、

「『泉』に引き続いてあの名作をゲットしたぞ!」

 とか言うから行ってみるとそこにいたのは巨大なカラス。俺よりでかかった。
 あやうく食われるところだ。
 英二さんは残念そうに、
「青年気に入らなかったか、『大ガラス』。芸術なのになあ」
 芸術に食われて死ぬのはごめんだ。


 ここは英二さんのスタジオ。
 床にわっか状になった縄が落ちている。
「青年青年、ちょっとこの輪に足を踏み入れてみるがいい」
「いやですよ、また何かするんでしょ」
「心配するなって青年! ちょっとでいいから、痛くしないから」
「いやったらいやです! こないだもそれでひどい目にあったんだから」
 英二さんはふっと眉根を寄せて、
「そうか……ならしかたないなあ。残念だなあ。
 由綺のこんどの新曲のタイトルは、

『ススキノ赤線ブルース純情編〜オラはずかスー〜』

 でいくしかないなあ! なあ青年! 由綺どうなっちゃうのかなあ!」
「……分かりましたよ」
 由綺をベタなコミックシンガーにするわけにはいかない。
 俺は仕方なく足を踏み入れ……。
 びんっ!
 ほらやっぱりー!
「はっはっは、いい格好だな青年」
 俺は逆さ吊りになってぶらぶら揺れていた。
「だがまだこれで終わりと思うなよ、芸術への道は厳しいぞ」
 俺を吊っているロープが移動する。
 ぼちゃん。視界がまっさおに染まる。頭からペンキの入ったドラム缶に突っ込まれたのだ。
 べっちいいいいん。
 そのうえ反動をつけて白い壁に叩きつけられた。
 いてえええ。
 痛さもさることながら、壁に残った俺の体のあとが実にみっともない。
 まるでお笑い番組の対決コーナーのようじゃないか。
「はっはっは、すばらしいぞ青年! イヴ・クラインもびっくりだ! これぞ芸術!」

「待ちなさい!」

 ……この声は!?
『あか』
「何者だ!?」
『きいろ』
 英二さんがふりかえる。
『みどり』
 スタジオの端、積み上げられたPAの上にカクテルライトを背にして立っている。
『ぐんじょいろ』
 人影は肩にブラウン管を背負っていた。
『きでい』
 ブラウン管を投げ捨て、PAから飛びおりる。
「緒方英二! あなたの悪行もこれまでよ!」
「この声は……理奈ちゃん?」
 やたら派手な色使いのマリリン・モンローのお面をかぶっているため顔はわからないが、
たしかに理奈ちゃんの声だ。
「いいえ! 私は実在の場所・事件・緒方理奈ちゃん等とは何ら関係ない愛と正義と芸術
の使者、ポップアート仮面!」
 ……。
 そうですか。
 この際なんでもいい。助けてくれ。
「くらえ悪の変態兄貴! ポップアート・クラッシュっ!!」
 理奈ちゃんの手から赤いものが放たれる。
 がいんっ
「はうっ」
 頭から血ふいて倒れる英二さん。床にはキャンベルの真っ赤なスープ缶が転がっていた。
 こ、殺す気か?
 わりと平気そうに英二さんはおきあがった。おおっ、けっこう丈夫だ。
「ちっくしょうおぼえてろよ理奈! お前の新曲は

『帰ってきた麦畑〜オラとおよねと神戸牛〜』

 にしてやるっ!」
 そして泣きながら去っていった。不死身か英二さん……。
「さあ、悪は滅びたわ。これからは平和にくらすのよ青年」
「理奈ちゃん、なんでこんな真似」
「ふふ……わたしになんか惚れちゃいけないわ青年。そのかわり、いつもあなたのこと見
ている女の子がいるってこと、忘れないでねっ。ではさらばっ」
 押しきられた。
 そしてポップアート仮面は去っていく。理奈ちゃんのステージ衣装をひるがえして。
 バレバレだってば。


「冬弥く〜ん! 大丈夫?」
 いま明らかにポップアート仮面が去っていったほうからかけて来る理奈ちゃん。
「ごめんね、兄さんが迷惑かけて……私の部屋で休んでって、ね?」
 理奈ちゃんの部屋か。
 きっと女の子らしい、それでいてどこかプロ歌手としての矜持も感じられるようなイン
テリアなんだろうな。
 期待して一歩足を踏み入れると。
 そこにはキャンベルのスープ缶が山積みにされていた。
「それにしてもポップアート仮面ってステキね! 正体は一体だれなのかしら?」
「さあ……」

――――――――――――――――――――――――――――――
 ちと解説。
 本物の『大ガラス』はでっかいガラス絵です。
 昔TVCMで、白髪の老人が肩にブラウン管かかえて、
「あか、きいろ、みどり、ぐんじょいろ、きれい」
 とか言うのがありましたが、あれがアンディ・ウォーホルです。
 マリリンモンローとキャンベルのスープ缶はどちらもウォーホル作品によく使われるモ
チーフです。
 こんなとこでひとつ。