セリオのひとりごと 投稿者:takataka
 今日もバス停でマルチさんを待っていると、あの人に会いました。
「おう、セリオじゃねーか」
 浩之さん。わたしのようなメイドロボにもわけ隔てなく接していただける方。いつしか
気になるようになっていました。
「なあ、セリオって動力源何だ? やっぱマルチと同じか」

 かくしきれない、思い。

「かく……」

 いけない。思っていることがつい口に出てしまいました。
「……いま何つった? 核とか言わなかったか?」
 浩之さんが何だか青ざめているようでしたが、わたしは頭がぼうっとなってしまってそ
れどころではありませんでした。
 ただ、
「禁止事項です。これ以上は申し上げられません」
 そう言うのがせいっぱいでした。
 いけない。わたしは来栖川電工HMX-13セリオ。人間を好きになんかなってはいけない、
感情のないメイドロボ。
 でも、わたしのどこかにもあるのかもしれません。マルチさんと同じような……、
 こころ、が。

「……ろ、が」

 いけない。また口走ってしまった。
「炉がどうしたんだ?! 調子おかしいのか? 暴走か?」
 浩之さんが慌てている。どうしてそんなに慌てているんでしょうか。
 もしかして、わたしと、おなじ?
 この気持ち……。
 好き、ということ。
「どうなんだセリオ!」
 浩之さんがわたしを見つめている。真剣な、まっすぐな瞳。

「お答え、できません」

 わたしは浩之さんの気持ちにこたえることはできません。それがわたし。感情のないメ
イドロボ。
「よけい怖いじゃねーかっ! はっきりしたところを言ってくれ!」

「いえ、その、ただ……」

 ただ、わたしは動揺しているんです。
 どうして? 動揺するような『こころ』はないはずなのに、胸の奥がこんなにも熱い。
 ときどき夢想します。
 もしかしたらわたしの意識の奥底にもマルチさんのと同じような『こころ』が隠されて
いて、それはただ凍り付いているだけなのではないか、と。
 凍りついた、冷たい、まるで存在しないかのようなこころ。
 でも、もしあたためてくれる人がいたら。不器用なわたしを、やさしく包み込んでくれ
る人がいたら。
 ……そうしたら、かたく凍りついたこころも、

「とけてしまうような……そんな気がします」

 いけない。また口走ってしまった。
「なにいいい! 炉が溶けるってアレか! メルトダウンか!?」
「いえ……なんでもありません」
 いまあの瞳で正面から見つめられたら、どうにかなってしまいそうで、わたしは浩之さ
んの顔を正視できませんでした。
「セリオ! おい! こっち見て話せ! なんで目ぇそらす!」

「あ、セリオさーん。浩之さんもご一緒ですかー?」
「おうマルチ! 一大事だ! セリオの動力炉がメルトダウンでチャイナシンドロームだっ!」
「わ、分かりましたー!」
 あわてて近くの服屋さんに飛び込むマルチさん。
 出てきたときには真っ赤なチャイナドレスに身を包んでいました。
「これでどーでしょーセリオさん!」びしいっ
「何やってんだアホ社長!」ぺしっ
「あうっ、わかりましたあ〜。それではっ」
 ペンを取り出して耳カバーと目の回りを真っ黒に塗って、
「セリオさんほらパンダちゃんです〜!」
「本物のアホか! アホ部長!」べしっ
「はわわわあ〜、降格されました〜」

「あ」
 そういえば、今日は綾香様の釣り堀に付き合う日でした。
「今日こそあの釣り堀のヌシ、20キロ級カジキマグロをモノにして見せるわよ! タイト
ルは『来栖川綾香 世界を釣る』!」
 綾香様はそう言って楽しみにしていらっしゃいました。急がなければ。
 後ろ髪を引かれる思いで、わたしをその場をあとにしました。

「待てセリオ! いまの『あ』はなんだあああああ!」
「はわわ〜あ、セリオさんがそれほどまでに中国マニアとは〜」

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 セリオで何か書きたい、と思っていましたが、ようやく書けました。
 でもセリオファンに殺されそうな内容です。
 あああ。