梓の武者修業 投稿者:takataka
「耕一! あたしは陸上部を辞めるぞ!」
 そう言い残して梓が家を出たのは1ヶ月前。
 陸上部辞めるのはいいが、柏木家まで辞めなくてもいいと思う。
「梓お姉ちゃんまだかえってこないのかなあ」
 梓にかわって家事全般をうけもっている初音ちゃんがつぶやいた。
 たしかに千鶴さんの干渉をかわしながら毎日の料理を作るというのは、梓だから可能だ
ったのかもしれない。
 おかげでいまでは一品か二品は千鶴さん特製のおかずが混入し、食卓はロシアンルーレ
ットさながらだ。

「……来ます」
 湯のみをおいて楓ちゃんがぽつりと言った。

 がららっ
 ばたばたばたばた
「耕一〜っ!」
 おお! あの声は!
 梓!
 なんだその格好は!
 梓は金ラメ入りの悪趣味な水着に身を包んでいた。
「耕一! あたしは生まれ変わって帰ってきたぜっ!」
 はい?
「陸上をきわめた! そう思った瞬間あたしは次なる目標を探した!
 陸上がダメなら地下がある! そう思ったあたしは地下プロレスに入門して空中殺法を
マスターしたんだ!
 これで地下・陸上・空中を制覇したあたしは地上最強! ということでひとつ!」
 おお〜。ぱちぱちぱち。
 拍手するオレたち。ほかにどうしたもんだかわからなかったし。
「んでも、これ以上粗暴になってどうすんだ?」
「決まってるだろ! 狩猟者の一件も片付いたいま!
 あの偽善者! 奴を倒さないかぎり柏木家に明日はない!」
 大きく出たなあ。キノコリゾットのときとはえらい違いだ。
「……聞いたわよ」
 廊下から冷気が流れてきた。
 ふすまにすっと筋が入り、ばらばらに砕け散る。
 例のBGMとともに千鶴さんが歩を進める。その体重は異様に増加し、床がきしみ悲鳴
を上げる。
 また畳はりなおしかよー。
「いいでしょう。梓、相手になってあげるわ」
 どっかよそでやってくれないかな。
「ふ……あんたの天下もこれで終わりだよ。亀姉、いや……貧乳!」
 楓ちゃんと初音ちゃんがちゃぶ台を搬出する。手なれたものだ。
「はああっ! とお! やあ」
「てりゃあああああ!」
「耕一お兄ちゃん、ちょっと鬼になってるよ」
「いけない、いけない、つられちゃったよ」
「モノが鬼だけにおにーちゃん……くすっ」
「ちぇいさあああああ」
「だりゃああああああ」

「くっ……なぜ……」
 千鶴さんの足元に倒れ伏す梓。だから言わんこっちゃない。
「梓、あなたには足りないものがあるわ」
「足りない……もの?」
「海よ!」

 海!
 地球の半分以上を占める大洋!
 月がのぼるし日がしずむ!

「陸のことばかりにこだわって、生命の揺籃たる海を忘れたこと! それがあなたの弱
さ!」
「くっ、そうか。そうだったのかあああ」
「海を制してらっしゃい、梓! そのときまた決着をつけましょう!」
「ちきしょおおおおおおおお!」
 こうして梓はふたたび修行の旅へ。
「さ〜て、ザ・厄介払い完了っと。耕一さん、今日も私の腕によりをかけたおかず楽しみ
にしててくださいねっ」
 ……。
 早く帰ってきてくれ、梓。

 そして梓は七つの海をかけめぐった!

 イルカ!
「ちぇいさああああああ!」
 げしげしっ!
 くけけけけけけっ!
「かわいいイルカさんになんてことを! ……あの、滅殺です……」

 トド!
「だりゃあああああ!」
「ぶも〜」
 ごろんっ。
 ぷちっ。

 クジラ!
「うりゃああああ」
 ぱく。ごっくん。
「ここはいったい……
 はっ! ゼペット爺さん!?」

 ナマコ!
「とりゃああああああ」
 ぐっ
 ぶりゅりゅ
「っきゃああああコノワタがコノワタがっ」

 カツオ!
「♪前はう〜み、後ろ〜は鶴来屋〜の〜」
 びちびちびちっ

 ワカメ!
 とくとくとく
「うわっ、ひゃっこい!」
 ワカメ酒はぬる燗つけてからやったほうがいいらしいぞ。

 タラちゃん!
「ハイです〜」

「こぉういちいいいいい!」
 梓が帰ってきた。
 チビTに短パンという格好だ。普通すぎる。
「おぼえてるかこの服!」
「知らん」
「こんのアホ軍曹! あたしの大事な思い出をおお!」
 殴られた。何かハイだぞ。
「今回水がらみってことで水門で溺れたときの服着てきたのに!」

『水中戦用梓 三大ひみつ』

	水に入ってもおぼれなくなった!
	荒波にもまれてちょっと性格が丸くなった!
	巨乳は水に浮く!(ほんとらしいぞ)

「くやしかったら千鶴姉も浮かせてみろ!」
 ごすっ。
 梓、一撃で撃沈。
 弱くなってないか? 前より。

「梓、あなたにはまだ足りないものがあるわ」
「足りない……もの?」
 千鶴さんはすっと天を指し――。

 梓、宇宙へ!

 さらば宇宙戦士梓! また会う日まで!

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久々野 様
いつもご感想ありがとうございます〜。
最近もう一回一通りプレイしなおしてみようかと思い中。なんかゲーム本体よりも
SSでキャラを把握してしまっているような気がするので〜。