すごいよ! 足立さん 投稿者:takataka
 東京に戻っていた俺の元に意外な人物から手紙が届いた。
 差出人は足立さん。なんでも鶴来屋を部分改装してリニューアルオープンしたので是非
一度見に来るようにということだった。
 とくに、
「柏木のお嬢さんがたをイメージした部屋を作ってみたんです」
 というひとことが気になる。

 へえ……。
 海に面したツインの洋室。ピンクを基調にした、若い女性にウケそうな明るいインテリ
アでまとめてある。
 これが『初音の間』。
 和室メインの鶴来屋としては思いきった判断なのだろう。
 千鶴さんもなかなかやるなあ。これなら経営者としても安泰だ。
「実は会長には内緒でやったんですよ」
 足立さんが下を向く。なるほど! そうか、そうだよなあ。
 千鶴さんが手がけたとしたらもっとこう……なんつうか……。

 やめよう。こわい考えになってしまった。

 梓の間も洋室だったが、こっちはグリーンがイメージカラー。初音の間に比べて少女趣
味をおさえめにしたシンプルなつくりだ。
 併設のスポーツジムに一番近い部屋だというのもいかにも梓らしい。

 楓の間は一転して鶴来屋本来の和室。端正な書院造りで、落ち着いたなかにもぴしりと
一本筋のとおった緊張感がある。
 しかしどこかなつかしいような、落ち着いた気分にさせてくれる。

 次は千鶴さんか。

『偽善の間』

 表札が……。
 足立さん、あんたチャレンジャーだよ……。
「まあ中へどうぞ」
 お、中は普通だ。和室だけど楓の間とは違って数寄屋風とでもいうのか……
 これなら表札さえ変えればいけそうだ。
 瞬間、エルクゥの本能が俺をしゃがみこませた。

 とすっ。

 俺の頭があったところに、スペツナズナイフの刃が突き刺さってびーんとふるえていた。
 ……いったい?
 と思うまもなくふすまから槍が! 障子から手が百本! 床の間からマシンガンがああ
ーっ!
 どういうことだ足立さん! お客さん殺す気か?
 ああっ、部屋に入ってない!
 しかもなんか楽しそうだ!
「一見おとなしめの美人に見えて実は……というイメージで作ってみました」

 瞬間、固まった俺の頭に金だらいがヒットした。
 足立さんの背後にしのびよる、黒い……影。

「耕一さん、いらしてたんですね……」

 逃げろ足立さん! 殺されるぞ!
「おや、ちーちゃん」
「いやだ足立さん、ここでは会長って呼んで下さい」
 を? 怒ってない。千鶴さん人間ができてきたか?
「それにしても耕一さん、これはいただけませんねえ……」
 千鶴さんは片手で木片を放ってよこした。さっきの表札だ。
 片隅にごく小さく、

『題字 柏木耕一』

 なにいいいいいい?!
「おやおや耕一さん、これは大変だ」
 足立さんがにやりと笑った。目が語っている。
(残念ですねえ耕一さん……偽善者の下で働くものはみんな偽善者になるんですよ)
 千鶴さんの爪が光る。
「覚悟は……いいですね?」
 よくない!
 俺は窓を破って脱出を試みた。千鶴さんから逃げおおせるとは思えない。どこかに身を
隠さねば。

 かくまってくれ! 追われてるんだ。
「耕一さん、こちらへ」
 フロントのお姉さんはカウンターの後ろに通してくれた。
 をを? なぜこんなところに檻が!
「会長が暴れたときのためのものです! 鬼の力でも破壊できません。さあ早く中へ」
 なんか用意周到だ。
 人望あるなあ千鶴さん。

「業務連絡。柏木会長柏木会長、お客さまの柏木耕一様が、
『どっからでもかかってこいやこの偽善女』
 と豪語しております。ただちに一階ロビーまでお越しください」

 全館放送……。
 ぎゃー。
 お姉さんはこちらを振り向いて、足立さんと同じ表情で笑った。

 俺は半死半生で隆山をあとにした。
 病室にあったレディジョイの最新号には、
『リニューアルオープン後の鶴来屋は大繁盛。とくに『千鶴の間』は年末まで予約でいっ
ぱい』
 なぜだ!?

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 初めて書きこみます。
 takatakaと申します。よろしくお願いします。
 ちょっと緊張……。