「雫」Another Story〜祐介の受難〜 第三章 投稿者: TNT

第三章 〜沙織〜




キンコンカーンと終業のベルが鳴った。
僕は頭を振り払い、頭の中から加奈子のことを追い払った。
さあ、調査の始まりだ。
僕はとりあえず帰り支度をするとかばんを机の上に置いたまま席を立った。
さて、何から手を付けようか。
全く叔父も厄介な調査を頼んでくれたもんだ。
ただ、調査を行うだけなら夜まで待つしかない。
その方が僕には楽だが、叔父は絶対許すまい!
と、なれば捜査の基本聞き込みだな。
僕は、ため息を一つ吐くと叔父から目撃者の名前を聞きに職員室へ向かった。
教室から廊下へ出たときのことだった。
「あのぉ・・・」
見知らぬ女生徒が声をかけてきた。
「なにか・・・?」
「君、B組の生徒でしょ?」
その子は澄んだまっすぐな瞳でそう言った。
「そうだけど?」
「あ、じゃあさ、長瀬君って、まだ教室にいる?」
「え、いないけど・・・」
「えー、いないのー! じゃあ、もう帰ったのかなぁー?」
「いや、帰っていないけど」
「えーじゃあ、どこにいるか解る?教えてっ!」
両手を合わせてお願いのポーズをする。
いったい誰だろう? 見覚えが無い子だが。
「廊下にいるよ。」
「えっ、どこの廊下?」
「ここ」
僕は会心の笑みを浮かべて言った。
「へっ?」
「僕が長瀬だけど・・・」
「えぇぇぇぇーーー!! そ、そうだったんだー!!」
くるくると実に表情のよく変わる子だ。
彼女は自分の胸の辺りを指差して名を名乗った。
「あたし、沙織っていうの、新城沙織」
「はあ、そうですか・・・」
なんなんだろうこの子は?
「でも、長瀬くんって長瀬先生に似てないねー。わたし馬面の人を想像しちゃった。」
そういっててへっと舌を出す。
「新城さんっ!! 君は何て良い人なんだぁぁぁー!! そうだよな!! 僕は奴等には似てないんだ!!!
 ルーラララ・・・今日は何て素敵なびゅーちふるでい!!」
僕はだくだくと目から涙を流しながら新城さんの手をぶんぶん振りまわした。
その瞬間!!
異様な殺気が背後を貫いた。
背後を振り向くと誰もいない・・・。
まさかな・・・脳裏に馬面のあの人たちの顔が浮かんだが・・・頭を振っていやな映像を払い落とした。
新城さんは僕の一連の行動をきょとんとした顔で見つめていた。
僕は冷や汗を吹きながら会ったときから思っていた疑問を口にした。
「なんで、赤毛なの?」
「えっ、やだな。長瀬君。わたし、普通だよ。きっと夕日が当たっているからそう見えるんだよ。」
そう言われてよく見ると夕日が出ている。
たしかまだ4時ぐらいの筈なのに・・・
釈然としないまま僕は次の質問を口にした。
「ところで、新城さんはなんで僕を探していたの。なにか用があるの?」
「あっ、そうそう。長瀬先生に頼まれたの・・・」
叔父さん?
いったい何のようだろう?
まさかまた『コミケで千鶴さん本をGETしろ』というわけのわからんお願いじゃないだろうな?
わけがわからず夏コミでLeaf系の同人誌を買ってきたら『これはあかり本だぁぁぁーー!』
とローリングクレイドルをかまして僕の部屋を半壊させたっけ。
そのあと紙袋の下に忘れていた『怪奇○蝕』というサークルの『朝な夕○』というオフセット本を見て
狂喜の高笑いを上げながら『勝った!勝った!俺は隆山の兄貴に勝ったぞぉぉぉぉぉぉ!』と叫んで
僕の部屋の窓から飛び降りマッハの速度で自分のアパートへ帰っていったけ。
途中、通行人が何人か巻き込まれたみたいだが、僕の知り合いはいなかったのでよしとしよう。
ぼくが、眉間のしわをもんでいるのを無視して新城さんは猫背気味になり方をだらんと倒して言った。
「あー、新城さん。悪いけど、さっきとおんなじ話を私の甥っ子にも聞かせてやってくれないか。昨夜の怪しい
人影の件、今晩あいつに調べさせるんで・・・」
どうやら叔父の物まねをしているらしい。
ちっとも似てないが雰囲気は良く伝わる。
って待てよ!ということはこの子が事件の目撃者?しかも、僕が今晩調査することも知らされている?
嫌な予感がした・・・
「ってね!」
「そうだったんだ。ところで新城さん・・・僕が調査をするってことは・・・」
「解ってる。誰にも言わないよ! これってやばいことがからんでいるんだよね! ね、そうでしょ?」
「え、いやそんなことは・・・」
「そんな風にごまかしても無駄よ! わたしにはわかるんだから・・・
うーんとてつもない事件の匂いがするわねー! でも、君も大変ねこんなことに巻き込まれるなんて・・・」
なんだか自己完結している新城さんを見て嫌な予感が徐々に膨れ上がっていった・・・
「そ、それよりも聞きたいんだけど・・・」
「ちょっと待って!」
いきなり僕の口を抑えて辺りをキョロキョロ見回す新城さん。
「ふぅー! 怪しい人影はいないようね・・・壁に耳あり、障子に目ありってね、ちゃんと周りを確認しないと
どこで誰が聞いているか解らないよ!」
なにか勘違いしている。すっかり、ドラマの登場人物のノリだ。
「どうやら、今は誰も聞いてないようだけどね。」
「はぁ」
「じゃあ、いいよ。聞きたいことってなに?」
「そうだなぁまずは・・・」
「いいわよ・・・なんでも聞いて!」
「昨夜の不審人物を見たときのことを教えて欲しいんだけど」
「いいわよ、あれは・・・」
彼女の話を要約するとこうだった。
昨夜10時に後輩達と待ち合わせていた彼女が体育館の近くの桜の木の下に二人の女の子が立っていたの
を見た彼女が後輩と思い込んで驚かせたが間違えたのが解って慌てて謝って逃げたとのことだ。
ここに、3個の不明点があったらしい。

ひとつ、なぜこんな遅い時間に彼女たちがいたのか?
ふたつ、なぜ、彼女たちは私服だったのか?
みっつ、なぜ、彼女たちは大きな声で、しかもくらがりで驚かされたのに表情ひとつ変え無かったのか?

また、最近体育館の近くで人影を見たという人が続出しているらしいとのこと。
時間は大体9時から10時にかかって目撃されているとのこと。
そして、その噂が体育館幽霊説になっており。後輩達が恐がって深夜遅くの練習を拒否するようになってきた
ことを教えてくれた。

「まったく、試合が近いのにこっちは迷惑ってもんよ!」
かなりキレている新城さん。
「きっと、そいつらは、こんな風にみんなが恐がっている様が面白くてやっているんだって」
なるほど、愉快犯の可能性もあるな。
「全く、迷惑な奴もいたもんよねー!」
「そうだね。もしそうなら、許せないね。」
まったく、もし本当に愉快犯だったとしたら足腰が立たなくなるまで殴ってやる!
「ねー!」
「うん。ありがとう参考になったよ。」
「本当!?」
「うん、かなり」
「えへへ、よかった、よかった」
腰に手を当てて、嬉しそうに頷く。
「ところで、長瀬君。ひとつ提案があるんだけど・・・」
新城さんは僕の顔をじっと見つめて真剣な表情で言った。
僕は嫌な予感をかなり感じながら聞いた。
「て、提案って?」
新城さんはくすりと笑うと、人差指を立てて
「あたしにもその調査を手伝わせてくれない?」
と言った。
がびーん!!やっぱり嫌な予感が当たった・・・
叔父が言ってた『ビジュアル的に・・・』という言葉を思い出す。
確かに新城さんなら『ビジュアル的に』見るとこの学園の中でもランクは高いだろう。
もし、僕があの娘と出会う前に新城さんに出会っていたら惚れてしまうほど・・・
多分、いや100%間違いなく新城さんは叔父さんが用意したパートナーだろう・・・
叔父さんの趣味に付き合ってられるか!とはいえ表立って叔父さんに表立って反抗でもした日には・・・
ううう・・・ぶるぶる・・・いやな想像をしてしまった。
「だめだよ、これは遊びじゃないんだから」
「失礼ねえ!あたしだって遊びのつもりじゃないわよー!」
彼女はぷうとほっぺを膨らませて睨む。
いかん、逆効果だったか・・・
「危険なことが起こるかもしれない・・・そんなことに女性である君を巻き込むわけにはいかない・・・」
僕はなるべく深刻そうな表情で言った。
「ええー? 長瀬君やっさしいー!私のことを心配してくれるのね!?」
そう、心配してあげるからさっきの言葉を取り消してくれ!頼むから!
「大丈夫よ!こう見えてもわたしバレーボールで鍛えてるから!」
「・・・・」
「ねっ!お願いっ!絶対役にたつからっ!」
絶対、何の役にも立たないと思うぞ僕はっ!!
「ねっ!ねっ!」
そのとき、背後からまたあの殺気が発せられた。
僕は振り返る気力もなかった・・・
「わかったよ・・・じゃあ、早速今夜から付き合ってもらうよ」
「やったー! そうこなくちゃね! 話せるぅー!」
新城さんは大袈裟にぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。
「じゃあ、早速今夜の打ち合わせに入るけど・・・」
「うん、うん」
「集合は体育館の前に8:30、その後各教室を見回って見晴らしの良い場所で待機。10:30から再度
見回りを行い、11:00頃帰宅ってことでどうかな」
「あのぉーその見晴らしの良いところってどこ?」
「それは、今から僕が校内を歩き回って見つけておくから・・・」
「ふーん」
「ああ、それと遅くなることはご両親に電話しておくこと!」
「それなら、大丈夫!長瀬先生とこで勉強会をしていることにするって・・・」
ハッと気付いたような顔で慌てて口を抑える新城さん。
「ふーん・・・叔父さんがねえ・・・」
思いっきり醒めた表情で言う僕。
「あはははは・・・」
「ははははは・・・」
「ごめんっ!だますわけじゃなかったんだけど、どーしても仲間に入れて欲しくて長瀬先生に頼んだら
長瀬くんに先生の名前を出すと断れるかも知れないと言うから・・・」
いや、それは反対のような気もするが・・・
まあ、いい。
叔父さんがそう思っているならその方が楽だ。
何でも言うことを聞くと思われているよりは100倍ましだ。
僕はてっきり、叔父さんの雇った演劇部の人かと疑っていたぞ。
あの叔父さんなら雰囲気を出すためにそれぐらいする人だからなぁ。
「あとは隠していることは無い?」
「あとは・・・長瀬君はかなり頼りなくみえるけど・・・実は頼りになるから危なくなったら後ろに隠れなさいって」
「はあ・・・」
「ごめん!だますようなことして・・・」
「まあ、いいさ。それより宜しく新城さん。これから僕たちはパートナーだ。」
と言って僕は右手を出した。
「うっ、うん!こちらこそ宜しく!」
新城さんは喜んで僕の右手を握ってぶんぶん回した。
「私のことは沙織でいいよ!」
満面の笑みで言う新城さん。
「わかったよ沙織ちゃん。僕のことも祐介でいいからね。」
僕もつられて笑顔で言う。
「うん!わかった祐介くん!」
まあ、夜の見回りが退屈にならなくなっただけでも叔父の計らいに感謝しても良いかもしれない。
その時4:30を告げるチャイムが鳴った。
「あっ、いっけない!部活のことをすっかり忘れていたっ!」
「ははは、じゃあ行っておいでよ。それじゃまた8:30に!」
「うん、わかった!じゃあ、またねっ!」
沙織ちゃんは、ばたばたと慌てて走っていった・・・
と思ったら赤い顔して戻ってきた。
どうしたんだろう?
「あ、あのね・・・もしよかったら・・・夜食買ってきてくれるとうれしいんだけど・・・」
お願いのポーズをする沙織ちゃん。
僕は破顔しながら
「わかったよ。ヤックの照焼きセットで良い?」
「うん。コーラでお願いねっ!」
沙織ちゃんはパチッとウインクをすると体育館へと走って行った。
「さあ、僕はこれから校内を歩いて見るかな・・・」
と呟いて歩き出した。

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どーも。
駄文を書いているTNTです。
最近PSのソフト『サンパギータ』にはまり込んでいます。(泣)
早くGOODENDING3を攻略したいんですが・・・
だめみたいっす!!(T_T)
どなたか攻略した奇特な人でメールで教えてくれないかなー・・・とほほ
とりあえず、次回は『耕一inサンパギータ』を書くかなぁー(笑)
それでは、また・・・
風気味のTNTでした。

http://www.interq.or.jp/www-user/tenagai/