「雫」Another Story〜祐介の受難〜 投稿者: TNT
第一章 〜加奈子〜



カチカチカチとシャープペンシルの芯の音が無意味に教室に響く・・・
やがて芯はポトリと落ちて、カスッカスッカスッとシャープペンシルの尻の部分をノックする音が空しく響いた・・・
僕はニヤリと笑いながら出てきた芯をつまみパキリと折ると・・・
右手で新しい芯をつかみシャープペンシルの尻から入れる・・・
カスッカスッカスッという音が次第にカチカチカチという音に変わり・・・
やがて新しい芯がシャープペンシルの先から出てくる・・・

「ふふふふふっっ!! はぁっはっはっはっはっはぁっ!!」
思わず笑い声が漏れる・・・
「これで、もう僕を邪魔するものはないっ!!」
そう・・・これで・・・途中で折れたり、出なくなったりせず・・・
思う存分ノートに落書きが出来るというものだっっっっっっっっ!!
これから描く落書きに思いを寄せて僕は至福の表情を浮かべた・・・
まずは、いやみな僕の叔父をデフォルメしてやるぅぅぅ!!

僕は落書きに没頭していった・・・・

そのときだった・・・
「くすくすくすくす・・・」
そういうかわいた笑い声が教室中に広がった。
不思議なことに、その笑い声はヘッドフォンを付けてCDを聞いていた僕にもはっきりと聞こえたのだ。
「くすくすくすくす・・・」
クラス中の生徒達がノートを取る手を休め、不気味な笑い声の主に視線を集めた。
笑い声の主は僕の斜め前に座っている女生徒だった。
僕はもちろんその女生徒の顔は知っていた。
だけど名前は思い出せない。
「たしか・・・ガー子と言ったような・・・」
「加奈子よっ!! 大田加奈子よっ!!」
僕の呟きに敏感に反応した彼女は裏拳を放ちつつ叫んだ。
もちろん僕は頭をスウェーバックさせて彼女の拳を躱した。
「で・・・なんで笑っているの・・・」
はっとした彼女はそれまでの行為を思い出し、また笑い出す。
「くすくすくすくす・・・」
「・・・・・・」
彼女は焦点の合わない眼で窓の外をみつめ呼ばれたわけでもないのに、くすくすと笑いながら、ゆっくりと
立ち上がった。
西日に照らされた彼女のシルエットが淡い影絵のように向こうの壁に写っていた。
「どうした大田」
黒板にミミズの這ったような文字を書いていた教師Aが、チョークを持った手を止めて聞いた。
「うふ、うふふ。あは、あははははははははははは・・・」
首を窓の外に向けたまま愉快そうにガー子は笑い続けた。
クラス中のみんなが薄気味悪そうに彼女を見つめた。
「ちょっと、何あれ? 加奈子どうしちゃったの」
「気持ち悪い・・・」
ガー子の笑い声に混じって、生徒達がひそひそと声を交わす。
そのときガー子が両手で思いきりバーンと机を叩いた。
一斉にシーンとなる教室。
「だからぁぁぁぁーー!! 私はガー子じゃなくってぇぇぇーー!! 加奈子よっっっ!!!」
うなりをとばし音速の蹴りを放つガー子・・・
それを、瞬時に張り巡らした電波の網で防御する祐介。
蹴りと電波が衝突したとたん眩い閃光が辺りを覆い尽くした。
その中でガー子の蹴りと祐介の放つ電波が衝突する際に起こる音が空しく響いていた。
バチッッ!! バチッッ!! バチッッ!! バチッッ!! バチッッ!!・・・
「何で、昔付き合ってた女の名前を忘れんのよぉぉぉー」
「あれぇ? おっかしいなー。 じゃぁガー子って誰なんだろう?」
「知るかっっ!! ボケ!! 殺す!! 殺す!! 絶対殺す!!」
「ひどいなぁ、まるで僕が人非人みたいじゃないか」
「そういっとんじゃぁぁぁー!! ぼけぇぇぇぇぇ!! あたしのバージン返せぇぇぇぇーー!!」
「あははははは。 いくら僕でも処女膜を再生することはできないよ。」
「さわやかにいうなぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!」
「もう、困ったチャンだねー。 えいっ。」
「うぎゃぁぁぁーー!!!!?」
祐介の掛け声とともに電波の壁が一瞬のうちにガー子改め加奈子を覆い尽くす。
「さてと、とりあえず加奈子ちゃん(?) の方はいいとして他の生徒達はと・・・」
祐介が辺りを見回すと祐介と加奈子の戦いの巻き添えをくらってみんなブラックアウトしていた。
「ふーん、まいっか。」

「くすくすくすくす・・・」
加奈子が笑っている。やはり不気味だ。よく祐介はこんな女を抱く気になったものだ。
「顔とアソコのぐあいかな?(きっぱり) おや? 誰かの電波に勝手に答えてしまった。」
「ちょっと、何あれ? 加奈子どうしちゃったの」
「気持ち悪い・・・」
加奈子の笑い声に混じって、ブラックアウトから解放された生徒達がひそひそと声を交わす。
そのときガー子が両手で思いきりバーンと机を叩いた。
一斉にシーンとなる教室。
目を丸くして見つめる生徒達の視線のなかで、彼女は笑いを含んだ声でひとこと、
「ちっちゃい」
と言った。
一拍おいて教室はどっと爆笑の渦に巻き込まれた。
そう、彼女の視線はチャックを全開にした教師Aの股間に注がれていた!!
「キャハハハハ!! やだ、加奈子、見て見ぬふりをするのが普通でしょー!」
「そうだよ! みんな、ずぅぅぅっーと見てみぬ振りをしてたのにさー!!」
教師Aが必死にジッパーと格闘しつつ赤くなったり、蒼くなったりするのにもかかわらず、生徒達の弾ける
ような笑い声が教室を突き抜けて響き渡った。
「うふ、うふふ。ちっちゃい、ねえ、ちっちゃいよ。ちんちん、ちっちゃい。 わたしもう我慢できないの。ねえ、
ちっちゃいでしょ。ちっちゃいのよ。ちんちんが。ちんちん! ちっちゃいちんちんなんていらないの!
切って、ねえ切ってよ鉛筆のようなちんちんを!! ちんちん切ってよ!! したい!したいしたいのよー!
ちんちん切りたいのぉぉぉ!! 切りたいのよー!! 
切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい
きりたいキリたいキリタイキリタイキリタイキリタイキリタイキリタイキリタイキリタイキリタイキリタイキリタイ
キリタイキリタイキリタイキリタイキリタイキリタイキリタイ・・・」
生徒達の笑い声が次第に立ち消えていく。
大田さんはまるで壊れたCDプレイヤーように「きりたい」という単語を連発し続けた。
全人格を否定された教師Aは白いあぶくをはいて失神しているし、男子生徒の殆どが「あれで・・・ちいさい・・・
じゃあ俺は・・・」というような顔をして股間を見つめ、蒼くなっていた。
女生徒達は「加奈子もしかして黒人としてしまったの?」というような顔をして羨望の眼差しで太田さんの顔を
凝視していた。

まずい、非常にまずい。太田さんと僕が付き合っていたことがばれると黒人並みのアレを持つ男として校内で
噂されてしまう。
もし、そうなったら貧弱なアレしかもっていない叔父のことだなんくせをつけてまた恐怖の山篭もりに連れて行
かれるに決まっている。
もう、二度とあんな人間離れしたじじいといっしょにカナダの山奥で灰色熊(通称:グリズリー)と戦う日々なんて
ごめんだ!!
いくら小さい頃から父さんと比較され続けて憎んでいるからといって、いくらアレのせいでいままで結婚出来な
いとはいえ、それを甥の僕に向けることはないのに!
とはいえ、そんな正論が長瀬一族である彼に通じる筈が無いのも頭では理解していた。
なぜなら、長瀬一族の人間は僕も含めてとてつもなく『理不尽』なのだ。
僕がこんな諦観した考えに到ったのも山篭もりの際に爪楊枝一本で灰色熊を倒し、まだ息のあるそいつを頭
からがぶりと喰らいつき暴れまくる熊を見ながら、
「これが熊の踊り喰いじゃ。祐介もそんなところでじっと見てないで喰え。」
といってもう一匹しとめた熊を軽々と片手で投げる。
僕が覚えているのは、失神する前に見た血の海のなかで豪快に笑う祖父の笑顔とボリッ、ボリッ、ガリッという
異様な咀嚼音だけだった。
・・・・ああ、僕にもこの血の1/4が流れているんだな・・・・
狂気の扉を開けて毒電波という恐ろしいものを手に入れたと思い込んでいた僕だったが現実の方がもっと狂気
じみていたことに、そのとき気が付いた。
・・・・ああ、もうあのころの僕には戻れない・・・・
何となく汚された感じがしてその夜は枕を抱きしめて泣いた。

あ、いけない。いけない。みんなのことをすっかり忘れていた。
まだ、くすくす笑っている太田さんを祖父直伝の覇王拳で沈め、教室で蒼白になっている男子生徒には侮蔑の
視線を浴びせ、羨望の眼差しで太田さんを見つめる女生徒達にはちょっとはにかんで見せて、

「忘れろ・・・」

と命じた。
電波が僕の周りから放出され全員の頭を侵略する。

しばらく電波の余韻が醒めるの待って、先生にこう言った。
「太田さんが気分が悪くなったみたいなので保健室に運んでいきます。」
「あ・あ、そ・う・か・悪・い・な。長・瀬。じゃ・あ、頼・んだぞ!」
教師はカクカクと顎を動かしながら言った。
ちょっと電波が強すぎたかな?と思いながら
「いえ」
と答え気絶している太田さんを保健室に運んでいった。

太田さんを運びながらやけに軽い彼女の体重に涙が出そうになった。
あの日、山篭もりから帰ってから恐ろしい長瀬一族の血の秘密を語り涙を浮かべながらそれでも良いと
言ってくれた彼女に
「電波で君の記憶を消す・・・」
と言った僕。
錯乱してスカイツイスターを繰り出した彼女。
それを黙って受け、電波を放った僕。
ドアの鍵を締め、帰り道で力尽き救急車で運ばれた僕。
全身複雑骨折を3日で直した僕が教室で見たものは初めて会ったあの頃のように醒めた目をした彼女
だった・・・
もう、あの頃の二人には戻れない・・・・
いびきがうるさくて、からかってガー子と呼んでいたあの日々はもう僕の記憶の中にしかない・・・

ただ、彼女の記憶がこの「ガー子」という言葉に反応して戻ってきてバーサク状態になるという現象を残した。
「もう、ガー子とは呼べないな・・・加奈子」
真っ白いシーツの上でスヤスヤと眠る加奈子の髪をなでながらそう呟いた。
突然、ガラッ!と扉が開くと小柄な少女が現れた。
「加奈子ちゃぁぁぁぁーん!!」
と泣き叫びながら加奈子に飛びつき襟首をブンブン揺する。
「瑞穂ちゃん。落ち着いて・・・」
僕は苦笑しながら瑞穂ちゃんの手から加奈子を奪い頭にやさしく手を置いた。
「はっ、わ、私ったら・・・すいません! ・・・でもなんで私の名前を・・・」
そうだった。加奈子の記憶を消した後、瑞穂ちゃんの記憶も消したんだっけ。
「僕は彼女のクラスメートの長瀬祐介。よく太田さんと一緒にいるから覚えてしまったんだ。
ごめん、初対面の人間が瑞穂ちゃんって呼ぶのは失礼だったかな?」
「あ、いいえそんなことはないですっ! あ、私は藍原瑞穂です。宜しく長瀬さん。」
「こちらこそ、瑞穂ちゃん。それじゃ、あとはまかせて僕は教室に戻るかな。」
「あっ、はいっ! ありがとうございました。」
自分のことでもないのにお礼を言う瑞穂ちゃんを苦笑しながら手をふり、僕は教室に戻っていった。

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どーも、TNTです。皆さんおはようございます。
樹さん、ムックさん、ホームページなんとか更新しました。(爆)
妹の美術館は更新せずに・・・(笑)
あの、このSSは出だし本編と似てますが内容はちょっと違います。ニヤリ
ちょっとハードっぽい祐介と加奈子ちゃんのラブストーリーにしようと思って
ます。
ああっ、もう時間じゃないかっ!それではまた・・・

http://www.interq.or.jp/www-user/tenagai/