悪の瑠璃子 − 零03 − 投稿者:Tago
悪の瑠璃子 − 零03 −
◆閉鎖的な空間、際限なく繰り返される毎日、その中で、私は、私の大切なモノを
見付けて行く。そして大切なモノを守るために生きる。私は掛け替えのない大切な
日々を生きているの巻◆
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掲載したもの
 − 零01 − − 零02 −
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掲
載  ◆ − 零(ゼロ) − ◆ − 霸(旗頭) − ◆ − 需(求め) − ◆
予  ◆ − 霪(長雨) − ◆ − 霓(女虹) − ◆ − 霽(晴れ) − ◆
定
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「じゃ、帰りますか?」

「うん!」

 香奈子の問いに満面の笑みで答える瑞穂。
 何の事はないただ二人で下校する。それだけの事であり、それも毎日当たり前の
様に繰り返されてきた行為であった。
 偽り無き満面の笑みも常にその行為に付いて回るものだった。

「えへへ、今日こそヤックだからね」
「あんみつなら付き合ってやるよ」
「えーーっ、昨日も、一昨日も、その前も、その前の前も同じ事言ったよ」
「昨日はてむやで天丼、一昨日はそと卵で親子丼、その前は…」
「そーじゃなくて、どうしてヤックじゃ駄目なの?」
「女二人で向かい合ってハンバーガー食べるのってちょっと嫌…」
「そ、かな…」

 珍妙な会話を交わしつつ、渡り廊下を進む二人。
 丁度、階段の手前まで来たときだった。
 身長が180cmはあろう大柄な男子生徒が勢い良く駆け上がって来た。

「危ないよ、瑞穂ー」

 危険を察知した香奈子は瑞穂より数歩前で立ち止まり、男子生徒と瑞穂が衝突す
るのを見計らって正にタイミング良く忠告を入れた。

 瑞穂は、忠告の声が終わる頃には既に突き飛ばされていた。

「よっと」

 突き飛ばされた瑞穂を後ろから受け止める香奈子。

「ドラマチックな出会いだね、瑞穂」
「はうう〜〜っ」

 やれやれといった表情で瑞穂に声を掛ける香奈子、対し目を回しており声になら
ない返事を返す瑞穂。

 瑞穂を突き飛ばした男子生徒はそれと気付いた様子もなく更に上へと階段を駆け
上がって行った。

(瑞穂が軽量だとしても、人一人突き飛ばして何もなかったみたいに歩みを止めな
い余力はさておいて。普通じゃないわね。まるで何かに取り憑かれた様な目をして
いた…)

 香奈子は男子生徒が過ぎ去った登りの階段に目をやる。

(…ほっとけないか…駄目ね、私は…)

「瑞穂ちょっと待っててね」

 香奈子は瑞穂を壁際に寄り掛かるように座らせると、そのまま男子生徒を追いか
けた。

(多分、屋上だ…彼はただ上だけを見つめていたから…)

 自分を愚かと思いつつも、歩みを止める事が出来ない香奈子。

 ハァハァハァ…

 屋上に着いた頃には、息が荒くなっていた。

(バカだ私は…)

 自分が予想していた以上の勢いで階段を駆け上がって来た事に気付く香奈子。
 一瞬顔を強張らせる。




 男子生徒は屋上の丁度真中辺りに立っていた。
 背が高く、狐目が特徴の端整な顔立ちをした少年と呼ぶよりは青年と呼ぶ方が相
応しい貫禄に満ちた風貌の持ち主である。

(何処だ、何処に行ったんだ…)

 落ち着き無く、居るはずのない人物の姿を求めて首を左右に動かすが、誰の姿も
その眼に映る事はなかった。
 焦りに歪んだ顔で、俯く男子生徒。
 自分の足下を通過する人の影を見る。

 影はスカートを穿いてる。

(女子か…)

 影の髪は肩の辺りで切り揃えられていた。

 男子生徒は瞳を大きく見開いた。影と探し求める人物の特徴が一致したのだ。
 表情は一転して明るいものに…
 男子生徒は勢い良く振り返った。

「きゃあっ」

 抱きかからんとばかりの勢いの男子生徒に影の女子生徒である香奈子は僅かに身
を竦ませ短い悲鳴を上げた。

(違う…)

 男子生徒の探し求める女子生徒は香奈子ではない。
 二人は互いに顔に見覚えが無く、全くの初対面であった。
 見ず知らずの女性に対しいきなり脅かすような態度をとった男子生徒は流石にば
つが悪いといった態度を取る。

「済まない、君。ちょっとした勘違いなんだ」
「いえ、いえ、気にしてませんから…」

 取り敢えず謝る男子学生に対し、『それにしても、デケーなこの人…』等と思い
つつ手をパタつかせて気にしていない事をアピールする香奈子。

「それじゃあ、悪いけど急ぐから…」

 男子生徒は、可成り焦った口調でそれだけ言うとその場から立ち去ろうした。

「あの、待って下さい」

 香奈子は焦る男子生徒を引き留めた。

 男子生徒は足を止めて香奈子の方に顔をやる。

「何か?」
「誰かお探しでしたら、私も手伝いましょうか?」

 疑問似たいし疑問で返す香奈子今度はこちらがばつが悪いと愛嬌で頬を掻く。

「妹を、瑠璃子を探しているんだ!」
「はあ…?」
「今日は一緒に帰る筈だったんだ。でも急に生徒会に呼ばれて…」
「え…と、失礼ですけど三年の方ですよね?」
「否、二年ですが、一年の後期から役員をやっているんだが、お前は使えるとか言
って事ある毎に引っ張り回されている…」

(使える人か…色々大変なんだろうな…)

「それで、その妹さんとは、屋上で待ち合わせだったんですか?」
「否、直ぐ終わるだろうと思ってね…少し待っててくれとだけ…」
「先に帰ったんじゃないんですか?」
「それはない筈だ、待てと言えば絶対待ってる瑠璃子はそういう奴なんだ」
「筈…ですか…」

『なんか、いらんもんに関わっちゃたな…』といった顔で相づちする香奈子。

「申し訳御座いませんが、お名前頂戴出来ますか?妹の瑠璃子さんでは情報少ない
ですし」

「ああ、僕の名前か…失礼、忘れてました。月島拓也と申します」

 社交辞令的に挨拶をする拓也に対し、一瞬『ああ、あの○○か…』という表情を
する香奈子。

 それを感じ取ったか狐目を更に細める拓也。

(此奴も同類か…)

「悪いけど、剰り迷惑を掛けるのも嫌なんでね、一人で探すよ」

「待って下さい!」

 拓也が向き直る前にもう一度引き留める香奈子。

「なんだい?もう君には関係ないはずだが…」

 拓也は明らかに不愉快だと言わんばかりの態度を示すが、香奈子はそれといって
気にとめることもなく右手の親指を立ててクイクイと後ろを指し示す。

 拓也は念のため香奈子の指し示す先に目をやる。

(正門…居た!瑠璃子だ!!)

 香奈子が指し示した先は正門、そしてその先に探し求めた妹の姿を見る拓也。

「瑠璃子だ、確かに瑠璃子だ。でもどうして…」

 香奈子は少し困った顔をすると、

「月島さん達有名ですから」

と答えた。

「…瑠璃子さんなら同じ階ですから顔見た事ありますし、一時間程前からああして
ましたしね。嫌でも気になります」
「ああ、なるほど。初めから名乗っておけば直ぐに済んだようだね」
「でも、あまり名乗るの好きじゃないんですよね?」

 香奈子はニッと笑って見せた。

「ふふ、そうだね、きっとそうなんだと思うよ。自分で幾ら馴れようとしても駄目
なんだ。他人の別の生き物を見る様な目が怖いんだ。だから自分から名乗ることを
嫌厭してしまう。性癖みたいな物なんだ」
「でも、きっと居ますよ。そうでない人も一杯」

 沈みかけの夕日をバック両手を一杯に広げてみせる香奈子。

「…有り難う色々と…」

 少し間を置いてそれだけ言うと拓也はその場から走り去った。
 その場にいるのが恥ずかしかった、一瞬でも『此奴も同類か…』と香奈子を決め
つけた自分が恥ずかしかった。

 拓也の去った空間を呆然と眺める香奈子。

(あのね…月島さん。私まだ名前も言ってない…)

「まっ、いっか!」

 香奈子はその場で『うんしょっ!』と伸びをした。

(ふう…、夕日が沈む瞬間、世界が夕闇が落ちる瞬間。この匂い…無臭だけどこの
鼻孔を擽る感触、いつまで感じることが出来るだろうか…)

 香奈子の背後で夕日が沈んだ瞬間だった。

「じゃ、帰りますか!」

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瑞穂:香奈子ちゃん、どこ〜〜?!!(涙)<チャンチャン♪

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 詮索するなぁ〜、詮索するなよ〜。