家に帰るとマルチがマンガを読んでいた。マンガの題名は「愛と○」だった。 「ちょっと待て。ウチに『○と誠』なんて古いマンガがある筈はないんだが」 「あ、ご主人様。ちょうどいいところに」 「何がちょうどいいんだ」 「格好いいんですよぉ、このマンガ」 「格好いいのか」 「はい。特に岩清○さんという人がとっても格好いいんです」 「岩○水う? そおかあ?」 「そうですぅ。『この○清水、君のためなら死ねる』なんて、とても格好いいじゃないですか」 「まあ、そうかもしれんが」 「ご主人様もやってください」 「オレが?」 「お願いします」 「まあ、いいか」 真面目な顔でマルチの前に立つ浩之。 「いくぞ。この藤田浩之、マルチのためなら死ねる」 カコーン きれいな音とともに浩之の頭部に金だらいが命中する。しばらく硬直する浩之。不審な表情で 上を見上げるが天井は何も答えてくれない。 「やっぱり格好いいですご主人様」 「え? あ、そう」 「もう一回お願いしますぅ」 「もう一回ね。いいだろ。この藤田浩之、マルチのためなら…」 右見て左見て前見て後ろ見て、念のため上も見て。 「どうしました、ご主人様」 「OK。この藤田浩之、マルチのためなら死ねるっ」 とたんに家の下を走っていた水道の配管が破裂。浩之は綺麗に宙を舞い、食器棚に激突する。 傾く食器棚。下敷きの危険に晒された浩之は慌てて身を翻し、隣室へ飛び込む。その瞬間を狙っ たように近所の悪ガキが投げた硬球が窓ガラスを割って浩之の頭部に命中。足元のもつれた浩之 が壁に寄りかかると手抜き工事が行われていた壁はあっさりと崩落し浩之は庭に転げ落ちる。ど うにか立ち上がろうとした浩之の目の前に酔払い運転のトラックが塀を壊して突入。顔を引きつ らせて横っ飛びした浩之は塀を乗り越え危険からの脱出を図るも彼の目の前には路上で張り手の 練習をしていた力士が。機関銃の如く繰り出される張り手を「マトリクスよけ」でかわした浩之 は側転をしながらその場を逃げて近所の公園へ。だが公園では今まさに上海流民と香港マフィア の抗争が勃発していた。飛び交う弾丸。火を吹く銃口。映画「プライベート・○イアン」の冒頭 シーンの米軍兵のように必死の形相で公園を駆け抜ける浩之。どうにか公園を抜け出し安全地帯 へ到達したかと思った浩之の耳に次第に大きくなる轟音が届く。見上げるとはるか上空から火炎 に包まれたジャンボジェットが真っ直ぐこちらへ墜落中。藤田浩之の運命やいかに。http://www1-1.kcn.ne.jp/%7Etypezero/rdindex.html