認識 投稿者:R/D 投稿日:1月17日(水)23時10分
『メイドロボはセンサーから入力される情報を処理するための各種ソフトをシステムに組み込ん
でいる』
「はあ」
『中でも重要な役割を果たしているのがパターン認識ソフトだ。これがなければ人間との付き合
いなど不可能だからな』
「ははあ」
『具体的にはどのメイドロボも画像のパターン認識ソフトと音声のパターン認識ソフトを組み込
んでいる。それぞれ人間並みの高性能なパターン認識能力を持っている』
「へえへえ」
『それだけではない。認識精度を変えることすら可能だ。極端に認識精度を落とした場合からそ
れを思い切り向上させたものまで、実に多様な設定ができるのだよ』
「ふんがふんが」
『…聞いているのかね』
「聞いてませんよ。何ですかいきなり電話してきて唐突に訳の分からない話を」
『君は頭が悪いのかね。もう一度、最初から説明しようか』
「んなこと言ってるんじゃないっ。メイドロボのパターン認識ソフトがオレと何の関係があるの
かって言ってるんだっ」
『それをこれから話そうとしているんじゃないか。まったく若い者はせっかちでいかん』
「とっとと用件を言えっ」
『実は先ほどまでマルチに組み込んだソフトの認識精度設定を変えて実験をしていたのだよ。と
ころが、少し席を外している間にマルチが外へ出ちゃってねえ』
「何?」
『君のところへ行っているかどうか確かめたかったんだが、どうやらいないようだね』
「実験中に外へ出るとまずいのか」
『まずいかもしれないんだよ。できればそっちでも探してくれないかね』
「ったくしょうがねえなあ」



 浩之は商店街で矢島に追いすがっているマルチを発見した。

「わたしのことを忘れたんですかあっ」
「忘れたも何も俺はお前のことなんかしらんっ」
「酷いです浩之さんっ。マルチは、マルチは決してご主人様のことを」
「だから俺は藤田じゃなくて矢島だってば」
「嘘をついても駄目ですぅ。わたしのメモリーにはちゃんと浩之さんの記録が残ってます」
「残っているのは藤田の記録であって俺のじゃねえだろっ。どうして俺とあいつとを混同したり
するんだよっ」
「混同なんかしてません。だってほら、浩之さんと顔がそっくり」
「似てないっ」
「似てます。目が二つあってその下に鼻があってその下に口があって」
「いい加減にしろ、マルチっ」
「おおっ、藤田。何とかしろよこのロボット」
「分かった分かった任せとけ。おい、マルチ。俺が藤田浩之だ。よく見てみろ」

 浩之に無理やり引き剥がされたマルチは、彼の顔をじっと見つめる。やがてマルチはその顔に
小バカにしたような表情を浮かべて肩を竦め、鼻で笑った。

「わたしを騙そうとしても駄目ですぅ。あなたはセリオさんですね」
「どうしてオレがセリオに見えるんだお前はっ」
「わたしのメモリーは完璧です。あなたの顔はどう見てもセリオさんそっくりです」
「違う」
「証拠をお見せします。いいですかあ、今からわたしのメモリーに残っているセリオさんの図像
を実際に描いてみせますよぉ」

 いきなりチョークを取り出してアスファルトに何か描きだすマルチ。描き終えたところで浩之
を見上げ、にっこりと笑う。

「ほら、そっくり☆」
「って、そりゃ『へのへのもへじ』だろうがてめえええええええっ」



『メイドロボにはパターン認識ソフトというものが組み込まれて…』
「だあああああっ。またマルチが何かやらかしたんですかっ」
『うむ、実はまた実験中に出て行ってしまってねえ。今度は音声パターン認識ソフトの精度変更
テスト中だったんだが』
「あいつめ…。それにしてもあんたらもどうしてそう毎度々々実験中に逃がすんですか」
『今ごろはどこかで伝言ゲームをやっていると思うんだが』
「面白がってるなっ。お前ら、実は面白がってわざとやってんだろっ」




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