依頼(「競作シリーズその弐NTTTVSその他大勢」「お題:会話文のみ」) 投稿者:R/D 投稿日:5月18日(木)00時02分
「おお、来たか祐介」
「叔父さん、何の用ですか」
「ここで話すのも何だから、ちょっと場所を移そうか」
「はあ」

「失礼して、一服させてもらうよ」
「どうぞ」
「……ふーっ。生き返るねえ。最近は嫌煙権がうるさくて、どこもかしこも禁煙だ。まったく、
それなら喫煙者の権利はどうなるんだと言いたいな」
「あの、叔父さん」
「お、すまんすまん。お前を呼び出した理由だけどな、わざわざ来てもらったのは頼みたいこと
があったからなんだが」
「頼みたいこと?」
「ああ。何だったらバイト代を払ってもいいぞ」
「どんなことですか」
「見当がついているかもしれんが、あの件についてだ」
「…三日前の件、ですか」
「そう。確かお前のクラスだったよな、祐介」
「ええ」
「“彼女”がおかしくなった瞬間は見ていたのか?」
「ええ。僕の斜め前の席でしたから」
「そうか。驚いただろう」
「それはまあ」
「その時のことを話してくれんか」
「話すって言っても…」
「細かいことでも、何でもいいんだ。例えば“彼女”のあの日一日の様子とかな。あの事件が起
きたのは午後だったな」
「ええ。午後の授業中です」
「朝方や昼休みはどんな風に見えた?」
「僕にはいつも通りに見えましたけど…。あ、そういえば」
「何だ」
「午前中に“彼女”に話しかけたけど、無視されたって言うクラスメートがいましたね」
「ほう、そうか。他に何か気づいたことは」
「いえ、その程度です」
「なるほどねえ。で、午後の授業中にあの事件が起きたんだな」
「ええ、英語の授業の時です。“彼女”がいきなり立ち上がって」
「うん」
「大声を上げたんです。妙なことを長々と口走って」
「ああ。どんなことを言ったかは知っている」
「…で、悲鳴みたいな声を出して」
「いきなり自分の顔面を掻き毟った、か」
「教室中、大騒ぎでしたよ。泣き出す女生徒はいるし、教師は狼狽して右往左往するし」
「ふうむ。その授業の直前までおかしな様子はなかったんだな?」
「…そう言えば、授業前に何人か“彼女”に話しかけてましたけど」
「その時の“彼女”の様子は?」
「あまりよく見てなかったんで分かりません」
「そうか」
「こんな話が参考になるんですか、叔父さん」
「…お前のクラスメートたちは、よく“彼女”に話しかけていたのか」
「ええ、休み時間のたびに人が集まってましたね」
「なるほど、それが理由か」
「それって?」
「おそらく、過負荷だな」
「過負荷?」
「休み時間中にお前のクラスメートたちが一斉に“彼女”に話しかけた。きっと買い出しに行け
とか掃除当番を代われとか色々と仕事を押しつけたんだろう」
「確かに、皆そういうことをしてましたけど」
「休み時間の度に命令を受けているうちに“彼女”はどう優先順位をつければいいのか分からな
くなったんだ。処理能力を超え、その結果出力がおかしくなったんだろう」
「はあ」
「ま、最新型メイドロボとはいえ試作品だからな。こういうトラブルもある。いや、参考になっ
たよ。すまなかったな祐介、わざわざ会社まで来てもらって」
「いえ、メーカーの開発担当も大変ですね。じゃ源五郎叔父さん、バイト代よろしく」


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