演奏  投稿者:R/D


 司会役の田中(仮)がステージ上に登場。

田中(仮)「さーあ、お待たせしました。ただ今から新春恒例、リーフ杯争奪素人バンドコンテ
      ストを始めますっ」

 ファンファーレと伴にステージ上のライトが一斉に点灯。まばゆい明かりの中、小指を立てて
マイクを握った田中(仮)は客席の最前列にいる人々を指差す。

田中(仮)「本日のコンテストで審査員を務めるのは旅館鶴来屋の社長、足立氏。東鳩高校のジ
      ゴロこと橋本先輩、そして私、田中(仮)でありますっ」

 最前列で立ち上がった足立、橋本の二人が客席を向いて手を振る。巻き起こるブーイング。聞
こえないふりをしながら田中(仮)が声を張り上げる。

田中(仮)「それでは早速まいりましょうっ。第1組、ハイテクオルゴール隊、どうぞっ」

 ステージの奥にしつらえられた階段を降りてきたのはHMX−12マルチ、HMX−13セリ
オ、そして量産型のHM−12だった。

マルチ  「よ、よろしくお願いしますっ」
量産マルチ「ヨロシクオネガイシマス」

 緊張露わなマルチの横でいつも通りの無表情でセリオが話す。

セリオ  「――それでは音楽まいります」

 その声を合図にセリオ、マルチ、HM−12の3体は耳カバーを外すと、懐から取り出したケ
ーブルを耳に嵌めこんだ。ケーブルはどうやら音源装置に繋がっていたらしい。スピーカーから
いかにもな打ち込み系の音楽が流れ出す。

田中(仮)「こ、これはどうやらMIDIを使っているようだっ」

 ゆったりとしたペースで始まったテクノ系の音楽。だが、一部のパートの音がもたれる。

マルチ  「あ、あれ、あれ」
セリオ  「――…………」

 さらに別のパートが次第にアップテンポになる。

マルチ  「ああっ、ちょ、ちょっとセリオさんっ」
セリオ  「――…………」

 気にせずテンポを速めるセリオ。ギターで細かいフレーズを刻みはじめる。

マルチ  「ま、待ってくださあいっ」
セリオ  「――…………」
量産マルチ「せりおサン、てんぽガハヤスギマス」

 眼を閉じて一心不乱にデータを送り続けるセリオ。周りの声は聞こえていない。

マルチ  「そ、そんな、駄目ですぅ、早すぎますうううううっ」

 …………

田中(仮)「えー、かなりな不協和音でしたが、いかがですか橋本さん」
橋本   「最後のマルチの台詞が不愉快なので0点」
田中(仮)「は? 何が不愉快なんですか」
橋本   「俺は決して早くなんかないっ」
田中(仮)「分かりました。では続いてエントリー2番、アストラル・バスターズっ」

 司会の声と同時に派手なステージ衣装に身を包んだみずぴー、さおりん、るりるりが登場。

瑞穂   「みずぴーでーす」
瑠璃子  「るりるりです」
沙織   「みなみ、はる……」

 とたんに客席から投げこまれる空き缶やバナナの皮や椅子エトセトラ。あっという間に3人は
残骸に押しつぶされる。

田中(仮)「今の芸について一言、足立さん」
足立   「うーん、ありがちだねぇ。というわけで0点」
沙織   「…ま、まだ……終わってな」
田中(仮)「はい、かたしてかたして」

 ゴミの残骸ごと片付けられるアストラル・バスターズの面々。

田中(仮)「サクサクまいりましょうっ。次はトゥ・ハーツの皆さんですっ」

 ステージに藤田浩之&愛人sが登場。

綾香   「ちょっとそこのト書きっ。誰が愛人よ誰がっ」
浩之   「まあまあ落ち着いて」
理緒   「ねえ、藤田君。これに勝ったら賞金が出るってホント?」
智子   「何でウチに渡された楽器がハリセンなんや」
志保   「あーもうごちゃごちゃ言ってんじゃないわよっ。ほらヒロっ、とっとと用意しなさ
      いよっ。この志保ちゃんの歌声を聞かせられないじゃないのっ」
浩之   「あのなっ、一応ヴォーカルはこのオレ…」
葵    「そ、それじゃ始めますっ」

 緊張に耐え切れなくなったかのようにキーボードを叩き始める葵。それにあわせて雅史が渋く
ベースを奏でだす。

浩之   「…って何でお前がいるんだ雅史っ。このバンドは確か藤田浩之&愛人s…」
綾香   「あんたがその名前をつけた張本人かあっ」
琴音   「藤田さん、あなたのために、全力を尽くしますっ」

 超能力でドラムを叩きまくる琴音。

琴音   「あ、駄目、ね、ねむ…」

 ぱったりと倒れる琴音。同時に力を入れすぎた葵がキーボードを破壊する。

レミィ  「Oh! まるで『スターリン』みたいでかっこいいネ。あたしも頑張るヨ」

 銃を取り出して乱射し始めるレミィ。逃げ惑う観客とメンバー。気にせず演奏を続ける雅史と
自分の世界に入って熱唱する志保。

浩之   「やめろ、やめるんだっ。頼むから真面目にやってくれっ」
芹香   「…………」
浩之   「え? その笛を吹いていいかって? いったい何なのその笛。…え? 悪魔を呼び
      出す笛えぇぇぇぇぇぇぇっ」
芹香   (ぴーひょろろ)
浩之   「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああっ」

 …………

田中(仮)「いやいや、色々な意味で凄い演奏でした。ただ一つ疑問があります。なぜ神岸あか
      りさんがいなかったんでしょうか」
橋本   「そりゃ、彼女は愛人じゃなくて本妻だからだろ」
田中(仮)「なるほどっ。いやー、また一つ賢くなりましたねぇ」
足立   「それを言うならマルチもいなかったようだが」
橋本   「あれは愛『人』でなく愛『メイドロボ』だからでしょう」
田中(仮)「というわけでした」

 惨憺たるステージ上から目を逸らし、にこやかな笑みを浮かべる田中(仮)。

田中(仮)「さあ、それでは次のメンバーですっ」

 ライトを落としたステージ上に次のバンドの面々が集まる。

田中(仮)「お待たせしましたっ、長瀬ブラザーズですっ」
橋本&足立「0点!」
田中(仮)「ありがとうございました長瀬ブラザーズの皆さん。それではさよーならー」
源一郎  「ちょ、ちょっと待て。まだ何も」
源三郎  「せめてステージ上でスポットライトだけでも浴びたいんだがね」
田中(仮)「それが厭だからライトアップする前に終わらせたんでしょうが」
源五郎  「それはいったい何故ですか」
田中(仮)「並んでいる馬面を見たい人はあまりいません」
セバス  「ぬうっ。せめてお嬢様の前で一曲…」
田中(仮)「はいはいさようなら。出口はあちらです。では次っ、電波友の会ですっ」

 ステージに現れる月島、瑠璃子、祐介。

田中(仮)「はて、二重登録している人がいるような」
月島   「気のせいだ」
祐介   「アストラル・バスターズのメンバーは確か『るりるり』さんですよね。ここにいる
      のは『月島瑠璃子』さん。別人です」
田中(仮)「いやしかし随分と似ているような」
月島   「別人だ(チリチリチリ)」
祐介   「そうですよ(チリチリチリ)」
田中(仮)「ウン、ソウダネ。別人ダ」

 人形のように頷く田中(仮)。

田中(仮)「ソレデハ、電波友ノ会ノ皆サン、ドウゾ」

 棒読みの台詞に続き、ステージ上の3人が一斉に念を送る。再び流れる打ち込み系の音楽。

橋本   「おいおい、演奏しないでMIDIで済ませるつもりかよ」
祐介   「いえ、これはただのMIDIじゃありません」
足立   「どういうことだね」
祐介   「電波を使って音源装置に演奏データを送っているんですよ。これを称してミュージ
      カル・インストゥルメンツ・デンパ・インターフェイス、即ちMIDIです」
足立   「…トホホ」

 …………

 ステージ上を見つめる男。彼は次々に登場し、様々な演奏を繰り広げるバンドを見ながら口元
に笑みを浮かべた。

??   「くっくっくっく。勝てる、これなら勝てるっ」

 …………

田中(仮)「えー、しばらく悪夢を見ていたような気がしますが…。ま、とにかく次にまいりま
      しょう。次のバンドは…」
??   「ちょっと待ったっ」

 舞台の袖から声がかかる。

??   「自分たちの紹介は自分たちでやるぜっ」

 袖から現れたのは柏木耕一だった。気障な帽子にラメ入りのスーツ。ジュリーを気取っている
らしい。

耕一   「待たせたなみんなっ。メンバー紹介、いくぜっ」

 まずスポットライトに浮かび上がったのは柏木梓だった。捻り鉢巻に法被姿。背中に染め抜い
た『祭』の文字も色鮮やか。

耕一   「大太鼓、柏木あずさぁっ」
梓    「…って何であたしが大太鼓なんだっ」
耕一   「無法松も裸足で逃げ出す豪快な乱れ打ちを聞いてくれえっ」
梓    「だから何であたしがあっ」
橋本   「いよっ、いなせだねえ」

 次に浮かび上がったのはスーツ姿の柏木千鶴。手に三角形をした金属をぶら提げている。

耕一   「トライアングルっ、柏木ちづるぅっ。繊細な中にも狂気を秘めたその音色は彼女に
      しか醸し出すことはできないぜぇっ」
千鶴   「あの、耕一さん。狂気って…」
耕一   「続きましてぇっ」

 無視して続ける耕一。次に照らされたのは柏木楓だ。なぜかアイヌ風の扮装をしている。

耕一   「ヴォーカルっ、エーディフェルぅぅぅぅぅっ」
楓    「…………」
耕一   「数百年の時を越え、やっと出会えたあの人に、私の全てを伝えたい、想いの丈をぶ
      つけたい、女柏木楓、心をこめて歌い上げますぅぅぅぅっ」
千鶴   「くすん、えこひいきだわ」
梓    「千鶴姉はまだましだろぉがあぁぁぁぁぁぁぁっ」

 2人の台詞を無視するかのように、いきなりドラムが低音を奏で始める。それに合わせスポッ
トライトが舞台上を激しく動き回る。

耕一   「そして、そぉしぃてぇぇぇぇぇぇぇっ」

 スポットライトが止まった!

耕一   「リコーダー、柏木はつねええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」
審査員  「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 スポットライトの下には、赤いランドセルを背負った初音がいた。リコーダーを銜えて一生懸
命に『チューリップ』を吹いている。

審査員  「萌ええええええええええええええええええええええええええええええええええっ」




耕一   「…………勝った」