「――という訳で藤田君、蹴球をやろう」 「し、しゅうきゅうぅ?」 「蹴る球と書いて、蹴球(しゅうきゅう)と読む」 「ひ、浩之ちゃん、タマを蹴られちゃだめだよっ」 「あかりっ、さりげなく下ネタをかますんじゃねえっ」 「要するにフットボールのことだよ」 「何でいきなりそんな」 「ネタに困ったときに漫画なんかでよくある…」 「ありませんっ。普通は野球でしょうがっ」 「まあいいじゃないか。雫・痕混成チームとTHチームで試合をやることにしよう。さあ、そう と決まれば準備準備」 「相変わらず強引な」 かくして試合当日。 「……耕一さん」 「ん? どうした、藤田君」 「何でヘルメット被って防具で全身を覆ってるんですか」 「フットボールと言えばアメリカンフットボールに決まっているじゃないか」 「蹴球と言ってたでしょうがっ。蹴球とはサッカーのことでしょっ」 「それは認識が甘いな。アメリカンフットボールの日本語訳は『米式蹴球』というのだよ」 「やれやれ。一本取られたね、浩之」 「……雅史、そう言うお前は何で楕円形のボールと、でかいやかんを持っているんだ?」 「もちろん、フットボールをするためだよ」 「その格好はどう見てもラグビーだろうがっ」 「ラグビーは正式にはラグビーフットボールという。日本語では『ラ式蹴球』だね」 「あーのーなーっ。何でサッカー部のお前がそんな無理な解釈をするんだっ」 「そうでもないんやな、これが。ええか、一般にサッカーと呼ばれるスポーツの正式名称はアソ シエーションフットボール。日本語で正式に言うと『ア式蹴球』や。『蹴球』イコール『サッカ ー』という訳にはいかん」 「い、委員長」 「元々イギリスで生まれたフットボールには、手を使ったらいかんゲームと手を使っていいゲー ムがあったんや。それぞれルールが整備され、後のサッカーとラグビーになったんやな。手を使 っていいゲームがアメリカに渡り、そこで独自の発展を遂げたのがアメフト…」 「薀蓄はそこまでっ。とにかくこれじゃ試合は無理だな」 「――試合場の準備ができました」 「セリオか。わざわざ用意してくれてすまないんだが、試合は中止だ」 「――ガガーン。そ、そんな」 「いや、何も無表情・擬音付きで驚かなくても」 「――せっかく楕円形のフィールドを整備したのに」 「楕円形?」 「――豪州で人気のあるスポーツに『オーストラリアンフットボール』あるいは『オージーフッ トボール』と呼ばれるものがあります。このゲームは楕円形のフィールドを使って…」 「やるんじゃねえぇぇぇぇぇぇぇぇっ」