正体 投稿者:R/D
 今、彼女の前にその人物が姿を現した。その存在を窺わせながらも決して表に出てくることの
なかったある人物。登場と同時に物語を根底から覆すことになる、その人物の名は……

 沙織 「……祐クン、何してるの」
 祐介 「違うよ、沙織ちゃん。僕の名は……」
 沙織 「名は」
 祐介 「長瀬、源二郎だっ」

 ガガーン!
 効果音とともにのけ反る沙織。背景は荒れ狂う日本海だ。

 沙織 「……台詞の頭に『祐介』ってあるんだけど」
 祐介改め源二郎「……これでいいだろう、沙織ちゃん」
 沙織 「まあいいけど。でも何でいきなりそんなことを」
 源二郎「UMAさんの説によると、プロット段階ではこれこそが僕の名だったんだよ。だから
    正確に言うと『源二郎後に改め祐介』ということになるのかな」
 沙織 「……でもさ、UMAさんはこういうことも言ってるよ」

  >たぶん、祐介の親父だと思うっす>源二郎

 源二郎「……フッ」

 逆光を背に沙織を見下ろす源二郎のシルエット。なぜか口元に浮かべた笑みだけが見える。

 源二郎「よく分かったね、沙織ちゃん。そう、僕こそが祐介の父……」
 沙織 「…………」
 源二郎「長瀬、源二郎だっ」

 ガガーン!
 効果音とともに目を点にする沙織。背景は葛飾北斎の富嶽三十六景だ。

 沙織 「……あのさ」
 源二郎「何だね、新城君」
 沙織 「それって、父親と息子が同一人物だってこと?」
 源二郎「ふ、ふふふふふ、ふはははははははははははははははは」

 電柱の上に立ち、腕を組んで高笑いする源二郎。バックに巨大な満月を背負っている。

 源二郎「そう、その通りだ」
 沙織 「……んなことある訳ないでしょーがっ」
 源二郎「いや、不可能ではない。例えば長瀬祐介がタイムスリップして過去へ行く。ついでに
    記憶を失うと好都合だ。そこで『源二郎』と名を変え、結婚し、生まれた子に『祐介』
    と名付ければOKではないかっ」
 沙織 「……あ、あのね」
 源二郎「たがみよし○さの『化石の○憶』とか押井○監督の『○先祖様万々歳』でも似たよう
    なネタはあるぞ」
 沙織 「言い訳になるかっ」
 源二郎「それ以外にこの説が両立する可能性はないんだから仕方なかろう」
 沙織 「ほーお、そおですかそおですか。んじゃたろすけさんのこの説はどうなるのよ」

  >コミックパーティー(仮)で登場予定だからでしょう(笑)!

 源二郎「……見事だ、新城君。君の予想通りだよ。そう、私こそコミックパーティに登場を予
    定している……」
 沙織 「…………」
 源二郎「長瀬、源二郎だっ」

 ガガーン!
 効果音を無視して立ち去ろうとする沙織。背景は安藤広重の東海道五十三次から日本橋だ。

 源二郎「ちょっとちょっと沙織さん。まだ話は終わっていないんですけど」
 沙織 「……もしかして、祐クンの父親は実はコミケ界の長老、ヲタクの元祖だとでも?」
 源二郎「なぜ分かったっ」
 沙織 「…………」
 源二郎「話によるとコミックマーケットが最初に開催されたのは1975年だそうだ。そのこ
    ろの若者だったら、ちょうど祐介の父親と世代が合うと思わない?」
 沙織 「……つまり、タイムスリップして記憶を失った祐介改め源二郎はコミケに参加しなが
    ら結婚し、子供に祐介という名前をつけたと」
 源二郎「たいへんよくできました」
 沙織 「……フッ」

 負のオーラをまき散らしながらバレーボールを取り出す沙織。

 …………

 長瀬源二郎は新城沙織によって歴史の闇へと葬り去られた。
 それ故に、源二郎はどの物語にも登場していないのである。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 ああ、ひとの感想をネタにしてしまうとは……。

 UMAさん、たろすけさん。この作品はあなたがたへ捧げます(苦笑)

                                   R/D