来栖川電工の新製品として、マルチとセリオが発売されたのは、いまから半年ぐらい前のこと だった。 セリオは多彩な機能が、マルチはその低価格が人気を呼び、どちらとも瞬く間に大ヒット商品 になった。 町にはいろんなバージョンの彼女たちが溢れ、家庭で、オフィスで、その他いろいろな場面で 彼女たちの活躍する姿が見れるようになった。 だが、マルチに関しては大きな仕様変更が加えられていた。 優しいマルチの心を受け継いだはずの妹たち。 だが、彼女たちは俺の知ってるマルチじゃなかった。 彼女たちは不必要な機能をいっさい省いた低コストマシンをウリに、発売されたのだった。 さらに、外見も変わっていた。一言で言えば女○錦のようになっていた。 重量は200キログラム超。並みの人間の5倍はありそうな腕回り、ちょっと小さ目のドア は通れないのではと思われる腰回り、縄文杉の幹のような脹脛。 別に外見が女小○であっても俺は構わないのだが、心がないのは困った。 (中略) 「マルチ、マルチ」 俺は、はやる気持ちも露にDVDロムを取り出すと、巨漢マルチの前に立った。 繋がったままのメンテ用パソコンにDVDを組み込むと、画面が立ち上がるのを待った。 画面に指示が出る。 俺はあせる指で、その通りにマウスを動かした。 マルチにプラグインされたコードから、解凍されたデータが流れ込んでゆく。 ぶうぅぅん…。 「――……」 「……」 「――……」 「マルチ…?」 俺は囁くように言った。 「――……」 「マルチ…!」 今度は強くその名を呼んだ。 すると――。 「…浩之さん…」 「マルチ…」 「…あ、会えた。…また、会えました…」 「マルチ!」 「浩之さあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」 「マルチ、マルチっ!」 「どすこ〜〜い!」 次の瞬間、俺はマルチの張り手で土俵下まで吹っ飛んだ。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− どーもどーも、しつこく登場です。R/Dです。まあ下の作品だけではちょっと暗いかな、と 思いましたので。 一応、これも自分なりに言いたいことを書いた作品です。深読みして下さい(底は浅いけど)。