太陽、風・・・そして空気。 投稿者: sphere
「浩之さん……あなたの優しさ……忘れません!!」
  
  来栖川の新型メイドロボの運用テストの結果、選ばれたのはセリオである、とい
うことを知ったのはいつだったか。そのセリオ(正式にはHMX―13と言うらし
い)は今、我が家にいる。

  …セリオが選ばれたこと、同時にマルチが永遠の眠りについたことを知ってから
数日後。来栖川のセールスマンらしき人(らしき人、とつけたのは男が無精ひげを
生やしたうえに、着慣れていないブレザーを身につけていたからだ)とセリオが俺
のが家にやってきた。そして開口一番、
「あー、藤田君だったね。君、セリオを買って見る気はないかね?」
「……お久しぶりです、浩之さん」
  正直驚いた。男の不躾な物言いにではない。メイドロボの訪問販売なんて聞いた
ことがない。しかもセリオ本人を連れて、だ。驚いたものの、俺は即座に返答した。
「わりぃけど、うちにメイドロボは必要ないわ。第一うちにはセリオを…その、買
う、余裕なんてねーし」
  それに……なんか、そういうのイヤだ、と本能的に思ったから。ところが……

  ……結局、セリオを買ってしまった。セールスマンの男がいやに熱弁を振るって
くれたのだ。どうみてもやり手には見えなかったのだが。「どうしても、どうして
も君でなければならないんだ」云々。あまりの熱意と破格の値段(それでもそこい
らの車より高かったが)、そして、何故かセリオは俺に引き取ってもらいたがって
いる……そんな勝手な思いが沸き上がり……今に至っている。当然そのあと電話ご
しに親父、お袋から大目玉を頂戴したのはいうまでもない。

  実際のところ、金の方はセリオにバイナリブローカーというすこしアレなバイト
をしてもらうことで払っている。受ける内容は極、簡単なものに限ったが。でない
とえらいことになる……にしてもセリオ本人が自分で自分が買われた金を稼いで払
ってるってのも変な話ではある。

  それから数ヶ月。

  昼下がり。俺は近くの川の土手で寝転んでいる。周りには誰もいない。……横に
座っているセリオ以外。
  何気に俺は話し掛ける。独り言を言うように。

「いい天気だな」
「……いい、天気ですね……」




  さらさら……さらさら……




「いい風だな……」
「……いい風ですね……」




  しゃらしゃら……しゃらしゃら……




「川っていいよな……」
「はい……とても」




  ぽかぽか……ぽかぽか……




「なんかこのまま眠っちまいそーだな……」
「……はい。私も眠くなってしまいます」




  カタン…カタン…カタン…カタン……




「なぁ、セリオ。お前これからずっと俺んちにいるつもりか?」
「はい。私の主人は浩之さんですから」




「俺が死ぬまで……か?」
「はい……浩之さんがお亡くなりになるまで……」




「その後、どーすんだ?」
「……浩之さんがお許しになるのなら……私も…機能を停止させたい、そう考え
ています」




「馬鹿だな……死んだ後も俺にくっついてくるつもりか……?」
「はい……」




「そっか……」
「はい……」




  ちゅんちゅん……ちゅんちゅん……




「ありがと、な……」
「…………  はい……」




「なぁ、セリオ……お前……」
「……はい?」




「いや……なんでもない…………」
「…………はい……」