吹き荒れよ、セリオ!!後編 投稿者: sphere
「セ、セリオ……?」
  堰を切ったように喋りたおす今のセリオに浩之の呼びかけは届いていないよう
だ。さらにセリオは畳み掛ける。
「今まで私が感じていた思い…それは、藤田さんの周りには藤田さんを筆頭に個
性的な人が多い、ということです。異常な程に。しかも長所と短所が「あなた、
日常生活を普通に過ごすだけで逐一、生命健康を脅かしてはいませんか?」とこ
の私がいらぬ世話を焼きたくなるくらい、偏っているのです」
  その場の全員、一瞬、思考を失った。マルチは既にブレーカーが落ちているら
しく反応がないが。
「えーと、ひょっとして俺達、人として生きる上で致命的なくらい尊厳を傷つけ
られてないか……?」
「浩之ちゃんも?実は私もさっきからそうかなぁって……」
「……全く二人とも……しょうがないなぁ……」
  なんらわかってない3人を完全に無視してセリオは喋り続けている。
「……でそんなあなた方を見るたび、データを単純化しよう、という私の本能が
あなた方の性格、行動パターン、言動などからふさわしいあだ名を生成し、それ
を私のメモリに刻み込むのです。そしてそのデータはあなた方個人データの表題
となります。ようするに、「アッペンデックス」で検索するだけで、りおさんの
個人データが呼び出されるわけですが。ちなみにこの方法で付けられたあだ名は
的確かつぴったりなものです。しかし、それを当の本人に直接言うことはいけな
いことである……そう、柄にも無く思っていたのですが……」
「ちょ、ちょっと待ってよ、セリオさん。それはいくら本当のことでも雛山さん
に……いや、僕たち全員に対して失礼だって思わないか!?」
  セリオの驚愕の告白に、善意の塊、佐藤雅史、起つ!!
「うるさいですよ、「純潔の背徳者」、雅史……さん?」
  ぴしっ!雅史の動きが止まる。
  ……にやり。
「そ、それって…一体どういう意味……」
  今までにないくらい凶悪な笑みを浮かべてセリオが言う。
「言って…いいんですか・・・?…あかりさんと……「浩之ちゃん」の、前で?」
  ぴしぴし!!ガ、ガシャーーーン!!!
  セリオ、佐藤雅史という人格を、屠る。
「うわーーーーーん!!浩之いいいいい!!!僕、この人嫌いだあああ!!!」
  浩之に抱きつき泣きじゃくる。
「ま、雅史が……壊れた……」
「ちょっとセリオさん、雅史ちゃんは浩之ちゃんのことが純粋に、好きなんだよ。
そんな言い方、かわいそうだよ」
  いろんな意味に取れる抗議を展開するあかり。さして気にせずセリオ。
「自分の面倒を見れない人に言えたセリフではありませんよ?「偽善と露悪を司
どる者」、「背反の聖女」……神岸、あかり…さん?」
  泣きそうな顔で言われた言葉を反芻するあかり。
「偽善…露悪…背反……わ、わたし…は、別…に……」
「そうですか?……私は貴方をその3つの単語で定義しましたが。たとえば…
そうですね。あなたと藤田さん。そしてそこの佐藤さん。あなた方の関係、そう
絆は今まさに薄氷の上に乗っているのでは?だれかがバランスを崩せば…すぐに
でも壊れてしまうような…。そして真実を知りながらあなたは…あなた達はそれ
が壊れることを恐れ、かといって、もうそれ以上近づくことも出来ない…そんな
絆、私は認めません。これを偽善、と言わず何というのですか……?」
  話の中ほどからあかりは泣いている。すでに話も聞こえていないようだ。
  セリオ、雅史に続いてあかりの人格、屠る。
「露悪…については…あぁ、言う必要もありませんね?」
  …にやり。
  今まで静観していた(話の内容を理解してなかったのかもしれないが)浩之が
拳を握り締め立ち上がった。さすがの浩之も怒りが頂点に達したようだ。
「おい!!セリオ!お前一体どういうつもりだ!?あかりも雅史もマルチも!!
みんな壊れちまったじゃねーか!!」
「…別にわたしは本当のことを言ったまでですが…?」
「お前……」
  切れ長の目をいっそう細めてセリオは囁く。
「藤田さんも……ご自分のあだ名…気になるでしょう?」
  何を勝ち誇っているのか前髪をかきあげつつ浩之。
「ふっ…何を言うかと思えば…甘いな、セリオ。お前、俺のこともしっかりデー
タ取ってんじゃなかったのか?…俺ほど品行方正、質実剛健、言語道断、眉目秀
麗な男、そう探したっていないぜ?」
「…………前から3つめの四字熟語に関しては、賛成ですが。まさか、あなたか
らそのようなセリフが聞けるとは思ってもみませんでしたが……とにかく、藤田
さん、あなたはご自分にはお心当たりがない、そういうことですね?」
「うむ、そのとおり!!」
  腕を組みふんぞり返る浩之。対してセリオはリラックスするように首を一度ぐ
るりと回し、ゆっくり息を吸い込み、そして吐き出した。
「それでは……」
  
  十分後。
「おおおおおおおおおお!!!!!!!!俺って!!俺って!!なんて腐れた人
間なんだあああああああああ!!!!!!!!知り合った女の子、全員に手を出
してたなんてぇぇぇ!!!!!しかもほとんど自分に覚えがないのはわ何故!?
俺は、分裂症にでもかかってんのか!?おおう!?人として、人として俺はこの
ままで大丈夫か!?ここは頭を丸めて…いや、やはりここは芸能界にデビューし
て散っていった仲間達の分まで人生を謳歌するべきですかね!?
弥生さぁぁん!!!!」
  後半意味不明なセリフを吐きながら頭を抱えて床の上をごろごろ転げまわる浩
之を見下ろしセリオが一人ごちる。
「…ほう、…一応主役、ということか……ここまで私に言われて壊れないなんて
…さすが、と誉めておこうか、藤田浩之……」
「だからお前のそーゆー発言が、話をギャグかシリアスか訳わかんなくしてっこ
とに気づかんのか!?このクソアマ!!」
  主役の意地で叫ぶ浩之に刺されるとどめの一言。
「……鬼畜王」
  ガン!!ぴゅーーー……
「おおおお!!!???頭が割れるよーに痛いいいい!!!???」
  頭を偶然、降ってきた消化器にぶつけたようだ。頭から血を吹き出しながら浩
之は立ち去ろうとするセリオに話し掛ける。
「ち、ちょっとまて、セリオ。お前これからどこ行くつもりだ!?」
  完全に背を向けていたセリオは興味なさそうに振り向きもせず答える。  
「……決まってるではありませんか。これから藤田さんのご友人のところへ行く
のです」
「何しに!?」
「私が思っていたことを、お話しに」
「何いいいい!!!!!何でええええ!!!?????」
  ゴン!!ぷしーーー……
  頭を上げた拍子に後頭部を机の角にぶつけたよーで。
「ぐぎょおおおおお!!??陥没するよーに痛いいいい!!??」
   いまだ顔を廊下に向けたままセリオ。
「藤田さんのお望みですから」
「なんで!?何を一体、どうすれば、そういう話の展開になるんだ!!」
  ひゅーーん、ぷす。ぴっしーー!!!
  セリオの投げた教卓が浩之の頭に刺さる。しかも偶然?角の部分が。
「ぷぎゃあああ!!!生きているのが不思議なほど痛いいい!!!???」  
「……私はただ……藤田さん亡き後、藤田さんが望まれた願いはご友人に託され
るのだろうと思いまして。……それでは、私はこれで」
  そこで…始めて……セリオが振り返り……無言で…………にやり。
「…………」
「…………」
「誰かあああ!!!誰か、誰でもいいからあの女を止めてくれえええええ!!」
  
  ……誰も止められないって。


                                   吹き荒れよ、セリオ!!<完>


  志保
「ところで、あかりの一番気に入ってるあだ名って結局なんだったわけ!?」
  あかり
「……レッサー・パンダ」
「……それって……くま!?くま!?」