鬼騎士(エルクゥナイト)ジローエモン 第八話 投稿者: ROSSO

第八話 第二の『狩猟者』とホルシナ

『狩猟者』の一つを蘇らせた初音・楓・千鶴の三人は、セリオの出したバスに乗って次の『狩猟者』の眠る場所へと向かっていた。
「ねえ、楓お姉ちゃん」
「…何?初音…」
「どうしてセリオは戦闘になると失踪するんだろうね」
「……わからないけど…もしかしたら私たちが困ってるのを見て楽しんでるのかも…」
鋭い。
それを聞いて、バスを運転していたセリオがその手を止めて楓の方に歩いてきた。
いつも無表情なセリオが珍しく少しむっとしているようにも見える。
「ぷぷう〜〜〜」
「……何?」
「ぷうう〜〜」
む〜〜〜ん。
セリオはしばらくの間じっと楓の顔をにらんでいた。
…が、いきなり楓の頭を掴むと、
ぶちゅううううっ
「…!!!????」
楓にディープキスをかました。
…あ…舌入れてる。
「…ヴんんんんんんんん〜〜〜〜〜〜!!!!(楓)」
じゅるるるるる〜〜〜
ぽんっ。
セリオはようやく楓を開放したかと思うと、がっくりとひざを落として力無くすすり泣き始めた楓を、無表情に…しかし勝ち誇ったように見下ろした。
「か、かえで…」
「楓お姉ちゃん…」
楓は泣きながら きっ とセリオを睨み付けた。
「…ゆ…許さない…わたしの…ファーストキス…耕一さんにあげるはずだったのに…」
ひきっ。
「(ちょっと楓、それは聞き捨てならないわね…)」
「(そうだよ楓お姉ちゃん、ぬけがけは無しだよ)」
外野のそんな呟きは楓の耳には入っていない。
ただすさまじい殺気が楓の体からセリオにむけて放たれるばかりである。
「…絶対に許さない…!!今日という今日は…!!…その無表情な面の皮が本物かどうか…五体バラして確かめます!!」
そう言うや、楓は凄まじい勢いでセリオに飛びかかった。
「ぷうぷう」
セリオは別段あわてたふうもなく、楓の猛追から逃げている。
「か…楓お姉ちゃん…なんだかキャラが違うよう…」
「ほっといてあげましょう…あら?」
千鶴がふと窓の外に目をやると…
地面がなかった。
「まあ…高いわねぇ」
「え?なに?ネオ○オカセットROMの値段?」
「いやそうじゃなくて…高度が」
「え?」
「ほら、私たちこんな高いところまで登ってしまったみたいよ」
初音が窓から外を見てみると、眼下には一面雲が広がっていた。
「えっ…ええええええええぇぇぇぇ〜〜〜〜〜っ!?」
「…高いね…」
いつの間にやら楓も側に来ていた。…たいして驚いちゃあいないようだが。
「いつのまに空の上まできたのかしらねぇ」
「それ以前にどうしてバスが空を飛んでるの〜〜〜ッ!?」
「ぷう」
「…落ちたりしないのかな…この高さじゃしゃれにならないと思う…」
「あら、大丈夫よ。肉体が滅んでもまた生まれ変わればいいんだし。」
「…耕一さん…今度こそ先に見つけてくれるかな…」
「ねえ…落ちること前提に話を進めないでよう…」
「ぷう」
さて、誰がどの台詞を言ってるかわかるだろうか。
「あっ!見て!」
まず真っ先に何かを見つけるのは初音の専売特許なのだろうか、今回も初音が声を上げた。
その指差す先には…
宙に浮いた巨大な建造物があった。
形は先の『狩猟者エディフィル』のいた神殿と大差ない。すなわち…巨大な『神社』であると思ってもらえばよい。
「あれは…?」
その時、突然千鶴の体が宙に浮いた。
「…あそこに…『狩猟者』がいるわ…」
そう言う千鶴の目はうつろで、まどろんでいるかのようであった。
「千鶴お姉ちゃん…?」
「…姉さん…?」
心配そうに傍らで見守る初音とどうでもよさそうに見ている楓をよそに、千鶴の体は、そのままバスを飛び出し、神殿の中へと入っていった。
「ちっ…千鶴お姉ちゃーーーーーーん!!」
がしっ。
追いかけてバスを飛び降りようとする初音をセリオがスリーパーホールドをかけて止めた。
「ぷう!」
「セ…セリオ…?追うなって…いってる…の?ぐ…」
ぎりっ…。
「ぷぷう!」
「お…姉…ちゃんには…やることがある…から…って…?」
ぎりりっ…。
「わかった…よ…セリオ…だから…止め…くる…し…」
「ぷうぷう」
ぎりりりっ…。
「………」
楓はその様子をただ傍観している。

楓と、とりあえず一命を取りとめた初音は、神殿の中に入っていった。
「げほっ…ここに…『狩猟者』がいるのかな…楓お姉ちゃんの体の中に入っていったみたいな『狩猟者』が…」
初音がそう言って辺りを見渡していると…
「なんや、ずいぶんと遅いおこしやなぁ」
後ろからいきなり声をかけられた。
「だれっ!?」
後ろを振り返ると、眼鏡をかけたおさげの女の子が歩み寄ってきていた。
白のビキニにシャツを羽織って麦わら帽子をかぶり、浮き輪を抱えている。
海でもないのに…こっパズかしい格好である。
「ホンマに…こないビュリホでワンダホなウチを…こないに待たせて…何様のつもりやっちゅーねん!!」
かなり不機嫌である。なんかガチガチ身体震わせてるし。
まあ、ンな寒いカッコして遥か上空の神殿の中で待ってりゃ寒いわな。
「(…初音…あれって大阪弁かな…?)」
「(…ううううう…うん…)」
「(…『トゥハート』にも大阪ってあるのかな…?)」
「大阪やないッ!!神戸やッ!!!!」
「ひっ!」
凄まじい形相で初音たちを睨み付けた。一層不機嫌になったようである。
「まぁええわ…ウチはホルシナ。あんたたちの名前は?」
「し 獅堂 初音」
「…龍咲 楓…」
「シドウ・ハツネ?リュウザキ・カエデ?けったいな名前やなあ」
「…あなたにいわれたくない…」
「じゃかあしいわ!!…で、もう一人のは、なんちゅう名前なんや?」
「もう一人って…」
「…千鶴姉さん…?姉さんがどこにいるか知ってるの?」
「チヅルかいなあのオバハンは」
何と命知らずな。
「千鶴お姉ちゃんを知ってるの!?」
ホルシナがにやり、と笑った。
「ま…知っとるちゃあ知っとるわな」
「…どこにいるの…?」
「ま、そない心配せんかてすぐに会わせたるわ」
初音はほっとしたように、
「ありがとう」
と礼を言った。
ホルシナはすこしばつが悪そうに、、
「いやあ、そない素直に礼いわれたら困ってしまうわ」
と後ろ頭をぽりぽり掻いた。
「なんせウチは…神官浩之はんの関係者なんやからなぁ!!!」
「「!!…浩之!?」」

そのころ、千鶴は神殿の奥深くにいた。
彼女の前には、巨大な『鶴』が鎮座していた。
その鶴が静かに千鶴に語り掛ける。
「「『伝説の鬼騎士』よ 我をまとうべくこの神殿を訪れたものよ 我が名は…『リズエル』
…『鬼騎士』を待ち ここに眠り続ける伝説の『狩猟者』」」
「…鶴…?…これが…『狩猟者』…」

そのとき。
千鶴の後ろから近づいてくる足音が聞こえてきた。
「!…あら、初音、楓…」
近づいてくる初音と楓は、よく見るとまったく元気がない。
心身ともに疲弊し切っているように見える。
「どうしたのっ!?初音っ!楓っ!」
「…姉さん…気を付けて…」
「あの人…強いよ…」
そう言って二人はぱったりと倒れて気を失った。
「初音…楓…一体誰がこんな事を…」
「『伝説の鬼騎士』ゆうたかてたいした事ないんやなあ」
「…!だれっ!?」
千鶴が近づいてくる声の主をきっと睨み付ける。
「自己紹介が遅れとったな。うちはホルシナ。」
くいっと腰をひねる。
「本業は『芸人』なんやけど、舌先三寸で人を丸めこんだり罵詈雑言で相手の心をズタズタにキズつけたりできる『弁舌師』でもあるんや」
「『弁舌師』のホルシナさん…あなたも『神官浩之』関係の方ですね…どうして私たちを襲うのですか?」
「実は…」
ホルシナが眉をひそめた。…かと思ったらぱっと明るい顔をして、
「ゼニもろてん」
とのたまった。
「まっ!まさか!!売春ッ!?」
「ちゃうわいボケぇっ!!雇われとんのや!!ウチはもろたゼニの分だけ働くプロフェッショナルな『漫才師』あーんど『弁舌師』やさかいな ま、人間真面目に働くのが一番やで」
「よほどお金に困ってんですね…だからって身体を売らなくても…」
「人の話聞いとんのかこの貧乳オバン!!『売り』やなくて『殺し』やっ!!!」
…ぴくっ。
「ま、とにかくそう言うわけで……ん?なんや妙に寒うなったな…もっとあったかいカッコしてくりゃよかったわ」
…確かに周囲の温度は下がっている。しかしそれは衣装のせいではなく己の発言によるものであることをホルシナは知らないのである。
「ほな、ちゃっちゃと終わらせよか。」
「………」
「…?きいとんの?」
沈黙している千鶴の足元がすこしずつ沈んでいってる事にホルシナは気づいていない。
「…ちょっと、大丈夫かいなあんた…」
「…ちょっとだけ、怒りますよ?」
「…へ?」
にっこりと微笑んで、千鶴がゆらりと動く。
次の瞬間。
「!!!」
ぴゅっ…。
とっさによけたホルシナの頬をなにかがかすめていった。
「…な…」
眼前にたっていたはずの千鶴がいつのまにかホルシナの背後にいた。
つうっ…。
ホルシナの頬を血がつたりおちる。
千鶴は手に握る包丁についた血をべろり…となめた。
「あなたたちはいつもそう…自分の胸が少し大きいというただそれだけの事で自分たちが人より優れた人間のように振る舞う…。肩がこる、乳がたれる…本来デメリットばかりのはずのものを優越感いっぱいに見せ付けて男たちは皆それにだまされるのよ…」
ぶつぶつ…。
呟いていたかと思うと、
「…一度、あなたたちのような人は懲らしめておかないとと思っていたのよ…」
「ちょっ…ちょっとまちいなウチは別に…」
「だまりなさい梓っ!!」
「ひぃっ!!(だっ…誰や梓って!?)」
千鶴は瞬時にホルシナとの間合いを詰め、ホルシナの胸のビキニを一気に剥ぎ取った。
ホルシナのたわわな胸があらわになる。
千鶴はそれをわしづかみにして、
「『罵詈雑言で人をキズつける弁舌師』っていってたわね…あなた、初音と楓に何を言ったの!!私に何を言うつもりだったの!!どうせ『貧乳』だとか!『寸胴』だとか!『洗濯板』だとか!自分の胸を鼻にかけてそういう事を言うつもりだったんでしょう!!」
ぎゅううっ…。
凄まじい形相でまくしたてながら、わしづかみにしているものを握り潰す。
「痛たたたたたっ!!やっやめて!!ちっちぎれてまう!!」
「ちぎれる…?そうね…この胸があなたにあんな事を言わせるのよね…こんないけない胸は…なくしてしまった方がいいわねぇ…」
そう言ってにこり、と恐ろしい笑みをうかべ、千鶴は包丁を構えた。
「ひいいいいぃっ!!まっ…待って!!堪忍してえな!!ごめんなさい許してくださいもう二度とこないなことせんさかい!!」
「フン…」
聞く耳持たぬという風に包丁をホルシナの胸に当てる。
「堪忍やあああぁ〜〜〜なんでもするさかいゆるしてえなぁ〜〜〜〜〜〜っ」
涙ながらに訴えるホルシナ。
千鶴の持つ包丁がぴたりと止まる。
「なんでも…?」
こくこくこくこく!!
必死にうなずく。
「そうねぇ…じゃあ、さんべんまわって『モォ〜〜〜ッ』って鳴きなさい」
「なっ…」
「いやなの?千鶴悲しいな〜」
包丁をきらりと光らせる。
「やっ…やります!やらせていただきますぅ〜〜〜!」
ぐるぐるぐる。
「も…もぉ〜〜〜っ」
ホルシナは耐え難き屈辱を耐え、千鶴の要求をこなした。
そのさまを嬉しそうに眺めている千鶴。
「じゃあ次はね、『おでこの眼鏡ででこでこでこり〜ん』って…」
「まだやるんかい!?」
「いやなの…?くすん、いいわよ…その胸のできものを切り落としちゃうから…」
「くっ…やっ…やったるわ〜〜〜〜いっ!!」
…………。
…………。
三十分後。
ホルシナはしゃがみこんで、肩を抱いてすすり泣いていた。
「うっ…うっ…ぐすっ…ウチ…汚されてもうた…もう…お嫁にいけへん…」
哀れな敗者の姿であった。そしてその傍らで、勝者が実に満足げな顔をしていた。
そもそも、慈悲のかけらも持たぬ物理的超暴力の持ち主に、言葉で立ち向かおうとした事自体愚かだったのである。
「ぐすっ…あ…あんた、いくら敵やからって、ようこないな事出来るな…あんた、鬼や!!」
何をわかりきった事を。
千鶴は包丁についた血を拭き取りながらこう聞いた。
「あなた、さきほど自分の事を『プロフェッショナル』とおっしゃってましたね?」
「…そうや…」
「あなたはこの仕事を引き受ける際、何の代価としてお金を受け取ったのですか?」
「あんたたちを始末することにきまっとる…」
「それならばあなたは何をされても文句を言う事は出来ないはずです。一度契約した以上、『私たちを始末する』うえで起こるいかなる事もその料金の中に含まれているはずです…それを覚悟の上でないというのは…」
「せ…せやかて…あんたがこないに強いとは知らんかったんや…」
「それはあなたが仕事の『質』を見抜く力がない、という事」
「う…」
「それに、『始末』するとは『殺す』という事でしょう?他人を殺そうとするものが、自分の命どころか胸をなくす覚悟すらないとは…とても『プロフェッショナル』とはいえませんよ」
そう言って千鶴は冷ややかに微笑んだ。
この時、ホルシナは完全に敗北した。
「…(か…勝てん…あんなはした金で請け負える『殺し』やない…!!)」
「さあ、どうしますか?まだやりますか?」
「いや…ええわ、ウチの負けや…あんたやったら神官浩之に勝てるかもしれんで」
千鶴が少し訝しげな顔をした。
「その…神官浩之の目的は…一体なんなんですか?この『トゥハート』の支配じゃないんですか?」
「マルロード姫が『ヒロイン』の力を使えんようになったこんな不安定で『脇役(まもの)』がうようよしとる世界なんか支配してもしょうがないで」
「……」
「ウチも聞いてみたんや…そしたら…『『トゥハート』より大事なものがあるんだよ』ってカッコつけとったわ」
「『トゥハート』より大切なもの…」
そのとき、千鶴が磨いていた包丁が光を放ち始めた。
そして形を変えていく。
「…!武器が…!」
光の中で包丁は…
…鉈になった。
「まあ…」
千鶴は嬉しそうである。
「「伝説の『鬼騎士』よ…」」
千鶴に『リズエル』が話し掛けてきた。
「「汝の『冷酷な心』の強さ…確かに認めた いまはまだ 我をまとうに十分ではないが 汝の一部となり 来るべき日をいましばらく待とう…」」
『リズエル』の姿は鶴から人の形に変わっていた。
そして光の弾となり、千鶴の身体に吸い込まれていった。
「…ん…」
「んにゃ…?」
楓と初音が目を覚ました。
「初音…楓…もう大丈夫よ…」
「あ…!千鶴お姉ちゃん!!」
「…大阪弁の…妙な…かっこした人が…」
「神戸やっちゅうとるやろがっ!!」


ぴろぴろぴろぴろ…きょうはだ〜れだ?
ぴろりん  きょうは 雅史!
「浩之、さっきあげたバトルッチ、『僕だと思って』大切にしてね」
「わりぃ、もう人にやっちまった」
………。

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みなさんいかがおすごしでしょうか(コミケいってる人が多いんだろうけど)、ヒマ人ROSSOでス。暇なんでなんかずいぶん長くなってしまいました。平にご容赦を。
…もう一度言いまスけど、自分は保科フリークでス。誤解のないように、一応。
…ところで、今更ですけど、もしかして『レイ○―ス』って知らない人多いんでしょうか?・・・やばい。
『vlad』サン…ご存知なかったのでスか…ごめんなさい。いまさら「原作読んで下さい」とはいえませんしねぇ…でも、ありがとうございまス〜〜すごくうれしいでス。
『紫炎』サン・・・この様な拙い文でも好きといってくださるとは・・・!へたするとCLAMPファンの方にも殺されかねぬ事しとるのに・・・!ありがとうございまス〜〜〜。・・・ところで、『イーグルを英二さんに』ですか・・・第二部やるかどうかもわからないんでスけどねぇ・・・。