「……んくっ」 額に汗を浮かべつつ、志保がつばを飲み込んだ。 間もなく来るだろう事象に備え、気持ちを落ち着ける。 緊張感に包まれた場で、いつそれが起こるのか。 それが解らないため、待ちかまえることは精神をすり減らすこととなる。 「……長岡さん……」 ゆっくりと隣に来、智子が小声で志保に呼びかける。 「保科さん……なに?」 「待ちかまえてるようやから言うけどなぁ……」 「?」 「今回、うちらシリアス一辺倒やから冒頭のギャグ、ないで」 「!」 がーん、という擬音そのままの如く、志保はショックを受ける。 倒れるのは何とか踏みとどまるが、その目からは涙がこぼれている。 「……こ、これが今回の冒頭オチなのっ!?」 「そうみたいやな」 ふぅ、とつまらなそうに智子がついた溜め息は、誰にも聞こえなかった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 電脳疑似空間 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− タングラム内部。 形容するとすれば巨大な目玉の内側ではあるが、そこは妙に広かった。 「お茶が入りましたよ」 「あ、ども」 部屋の中央に据えられた古風のテーブルに好恵は座っていた。 そして、彼女に日本茶を勧めているのは月島拓也である。 ずずず…… 「……うーん、瑠璃子が入れてくれたお茶はおいしいなあ」 「はあ」 『鯖』と大きく書かれた湯飲みを手に、どうしたものかと首を傾げる好恵。 そこに、てくてくと瑠璃子も歩いてきた。 こちらは『鮹』と書かれた湯飲みを片手に持っている。 「……飲まないの?」 「あ、それじゃ、いただきます」 律儀にぺこりと礼などしつつ、好恵も湯飲みに口を付ける。 「……おいし」 「ありがと」 素直な評価に、にこり、と微笑む瑠璃子。 そんな彼らを横から溜め息混じりに見る影がひとつ。 「ふう……のんきだな、お前たち」 柳川祐也である。 「いいかげんここから脱出する手を考えないと、どうなるかわからんぞ」 その言葉に、手をぱたぱたと振りながら、妙に明るく返答をする拓也。 「大丈夫ですよ。みんながきっとなんとかしてくれます」 「なんとか、って……さっきから来客ばかりなんだが」 「にぎやかでいいじゃないですか」 そんな二人のやりとりを、お茶に口を付けながら聞いている好恵。 ふと、口を開く。 「そうだ。聞きたかったんだけど……ここって、なに?」 その言葉に、うーん、と声に出して考え込む拓也。 「なに、と聞かれれば『タングラム』と答えるしかないんですけど」 「だから、その『タングラム』ってなんなのよ?」 「細かいことはよく解りませんけど、暴走した人工知能コンピュータという 説明が一番端的で解りやすいと思います」 「……それで、なんであたし達がコンピュータの中にいるわけ?」 「『タングラム』はその意識内で独自の空間……人間で言う、自我のような もの……自己宇宙とでも言うんですかね……を構築することができます。 僕たちは、本来の人格をその空間内に閉じこめられているわけです」 「はあ」 いくら聞いても解らないので、取り合えず頷くだけの好恵。 「それじゃ、そこのオジサンとかも、ホントはあんなに凶暴じゃないわけね」 「お……おじさん?」 露骨にうろたえる祐也。 「いや、まあ彼の場合は素があれだということも」 「デタラメぬかすなっ!!」 「……ま、とにかく」 好恵がふう、とため息をついた。 「このまま黙ってるのも癪だわね」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 祐介、耕一、浩之の三人と対峙した一行は、ほとんどが動揺していた。 それはそうである。助けに来たはずの人に立ちふさがられたのであるから。 動揺していないのはかおりのみ。動揺から真っ先に立ち直ったのは……。 「みなさん、油断しないでください」 「間違いなく、三人とも操られてるわよ」 最年長の千鶴と、いちばん闘い慣れしている綾香の二人だった。 二人の声で、ゆっくりと全員が呆然とした状態から立ち直っていく。 そしてそれぞれが、思い思いに身構える。 三人を救うには、三人を倒さねばいけないのだ。 「……」 「……」 「……」 三人とも、一言も喋らずにただじっと各々の機体に乗っていた。 フェイ・イェン原型機。 長瀬祐介が乗るこの機体は、レミィが乗るフェイ・イェン、かおりが乗る フェイ・イェン・ザ・ナイトの元になったオリジナル機である。 レミィ機、かおり機共に、ピンチ時に発動する「ハイパーモード」という 特殊能力がある。全身が金色に輝き、性能が飛躍的に向上するのだ。 だが、目の前の原型機は常に金色に輝いている。 つまり、ハイパーモードが常態なのである。 高速仕様ライデン。 柏木耕一が乗るこの機体は、基本的には梓の乗るライデンと変わらない。 だが、その装甲を極限まで落とし、エンジン出力を十二分に活かし、 機動力に向けたため、そのスピードはどの機体をも圧倒するのである。 かつ、武装の破壊力はそのままなのだ。 しかも、無理に脱装したわけではないので、打たれ弱くもない。 バル・ケロス。 藤田浩之が乗るこの機体は、本来宇宙空間で運用するための機体であった。 そのため足はなく、代わりに胴体下部にロケットエンジンを装備している。 琴音のバル・バス・バウ、初音のバル・バドス、楓のバル・バロスを経、 元々バル・バス・バウを作るきっかけとなった「バル・バス・バウユニット」 を搭載したその機体の性能は一般のバーチャロイドをはるかに凌駕していた。 全員が、出発前に源五郎から聞かされた言葉を思い出していた。 一対一なら間違いなく勝ち目がない相手である。 だが、何故か今回は戦闘者と観戦者を隔てる障壁が発動する様子はない。 この戦力差なら、なんとか……。 全員がそう思った。 そして一瞬のち、全機入り乱れての戦闘が開始された。 「わっ!」 戦闘が開始された瞬間、全員が浮遊感に包まれた。 浮遊感、というのは正確ではないが、簡単に言えば浮き上がったのである。 そのため、重力下の地上では動けないはずのバル・バロスとバル・ケロスの 両機が自在に動けるような環境となる。 バル・ケロスが一気に加速する。 ここまでライデンに運ばれてきたバル・バロスも初めてながら自ら動く。 それを見て、千鶴がそれぞれに指令を出した。 「楓、初音、姫川さん、芹香さん! それぞれの戦闘、援護を頼みます!」 「梓、綾香さん、松原さん、新城さんは前線を! 気をつけてください!」 「あとは、それぞれ近〜中距離を保って攻撃してください!」 「私と長岡さんは、状況を見てその都度連絡・報告します!」 一応その連絡の間にも、激戦が繰り広げられていたのだが。 全員、予想よりはるかに早い敵機のスピードに驚愕していた。 視界に敵機が入ったと思ったら、照準を合わせる前に消えてしまうのだ。 メンバーの中で最速を誇るのは志保のサイファーと千鶴のバイパー2だが、 慣れない無重力下では、それぞれ1機の動きをとらえるのがやっとであった。 「あかりっ、右よ右っ!!」 「え? えっ?」 「梓! そっちじゃないわ、後ろよ!」 「くそっ! いつの間にっ!?」 ほぼ全員が、そのスピードに完全に攪乱されていた。 その時である。 「みんな、一旦散りやっ! このままやと不利や。まとめて吹っ飛ばすで!」 智子の声が飛び、全員がその指示に従った。 グリス・ボックの切り札、巨大ミサイルの発射口が開かれる。 岡田のエンジェランを一撃で沈めたその一撃。 だが、その一撃は放たれることはなかった。 「あ……危ないっ!!」 誰の声だろう。 それを認識する暇もなく、極太のレーザーがグリス・ボックを貫いていた。 動きの止まった一瞬を狙いすまし、耕一の高速ライデンが放ったものだ。 爆炎を上げながら崩れ落ちるグリス・ボック。 「保科さんっ!!」 全員が思わず飛び出す。 その全員が浮き足立った一瞬に、残りの2機が襲いかかる。 「あっ……」 「うそっ……!?」 バル・ケロスの左手のクローがサイファーの胸を。 フェイ・イェン原型機のソードがテムジンの胸を。 それぞれ貫いて、2機のバーチャロイドが活動を瞬時にして停止させた。 「志保っ! 沙織っ!!」 綾香のストライカーが真っ先にその2機に向かってダッシュする。 わずかに遅れ、葵のバトラーもそれに続く。 高速ライデンからのレーザーが綾香のストライカーを狙うが、読んでいた 綾香はスピードも落とさずに悠々とそれをかわす。 「葵! 浩之の方を集中攻撃よ! こうなったら各個撃破しかないわ!」 「は……はいっ!!」 元々が兄弟機である2機である。綾香と葵の連携コンビネーションを 手助けこそすれ、妨害する要素は何一つなかった。 斬りかかってくるフェイ・イェン原型機のサーベルをぎりぎりで避けると、 ストライカーは腰からナイフを抜いてバル・ケロスに斬りかかった。 ダッシュからの一撃を横にダッシュしてかわすバル・ケロスだが、続けざま バトラーのトンファーがその機体を狙う。 これもなんとかかわす。だがその時には体勢を整えたストライカーが 再度斬りかかってくる……という息もつかせぬ連続攻撃である。 耕一と祐介はなんとかそれを阻もうとするが、今度は残り全員の抵抗で 思うように闘えずにいた。 仕方なく、浩之の援護を諦めて目の前の相手を倒すことに決める。 それぞれの前に立ちはだかったのは…… 「Hey! アタシがお相手するネ!!」 「梓センパイのために、頑張りますっ!」 レミィ&かおりのフェイ・イェン&フェイ・イェン・ザ・ナイトの コンビであった。 「速攻ネ!」 フェイ・イェンが左腕に装備されたサーベルを閃かせ、高速ライデンへと 一気に間合いを詰める。 それに対し、右腕を振りかぶって迎え撃つ高速ライデン。 剣と拳が交錯するかと思われた瞬間、フェイ・イェンが跳んだ。 恐るべき破壊力を持った拳が空を切り、そして目標を見失う。 「Chance!」 背後に回り、サーベルをまっすぐ突き出す。 だがそれは、最速で間合いを取った高速ライデンにかわされる形となった。 体勢を整えて撃ってきたバズーカの砲弾を横にダッシュして避ける。 だが、同時に放たれた地を這うグランドナパームの爆風を避けきれずに フェイ・イェンは爆炎に包まれる。 「やるじゃないノ……そうでなくっちゃ……」 爆炎が収まったとき、フェイ・イェンの機身は光を放っていた。 装甲が半分を切ったときにのみ発動するハイパーモードである。 これで、装甲を除けば祐介機と同等の機体能力を得たことになる。 「狩りは面白くないネっ!!」 そう言って狩人は、ボーガンビームを連射しながら再度接近した。 原型機VS最新型。 本来なら最新型が勝ちそうなものではあるが、この場合は勝手が違った。 「きゃあっ!!」 立て続けに機体に打ち込まれるハンドビームに、かおりの悲鳴があがる。 フェイ・イェン・ザ・ナイトは一方的に攻め立てられていた。 それも、ハイパーモードが発動しない程度の威力で、である。 結果、機体性能差がそのまま戦局に現れていた。 「このおっ!!」 ハートビームが一直線に原型機に向かって飛ぶ。 それを悠々と避けると、フェイ・イェン原型機は一気に間合いを詰める。 そして、跳んだ。 一瞬前まで原型機がいた空間を、極太のレーザーが通り過ぎる。 「くっ、はずしたかっ!!」 梓のライデンが、隙をついて撃ったものだが、読まれていたようだ。 原型機は機体の向きを変えると、ハートビームをライデンに向けて放った。 重厚ではあるが鈍重なライデンに避けられるはずもなく、ピンク色の爆風が その姿を一瞬にしてかき消した。 「梓せんぱいっ!?」 「いつつ……くそっ、このままじゃ……」 爆炎が消えた後、傷ついたライデンをエンジェランが障壁の影にかばう。 それを確認してかおりは、きっ、と原型機を睨み付けた。 「よくも……梓せんぱいをぉぉぉぉぉぉッ!!」 真正面から全力ターボで近付くフェイ・イェン・ザ・ナイト。 原型機は、ボーガンビームでその出足を止めようとするが……。 「許さないっ!!」 止まらなかった。 その機体が金色に光り輝き、ハイパーモードに突入する。 そして、2つの同型機は近接戦に突入した。 「……せせせせせ、セリオさん、どどどどどうしましょうっ!?」 「――この状況では、味方を援護しようにも、その味方に攻撃が命中して しまう可能性が高いため、傍観するしかありません」 「そ、そうなんですかぁ……」 セリオの言葉通り、祐介のフェイ・イェン原型機はかおりが、耕一の 高速仕様ライデンはレミィが、浩之のバル・ケロスは綾香と葵の二機が。 それぞれ近接戦闘を行っているため、誤爆を防ぐために援護ができない。 「――ですが、とりあえず破壊された機体を保護するのが先決かと」 「そ、そうですね、はいっ!!」 智子のグリス・ボック、志保のサイファー、沙織のテムジン。 セリオとマルチは、その3機を安全圏まで急いで運んだ。 パイロットはすべて気絶していたが、命に別状はなかった。 芹香が流れ弾から彼女らを守るべく障壁を張る。 そこまでの作業が終わったとき、すべての戦いに動きが出た。 ……全員の期待を裏切る形で。 「Shoooooot!!」 レミィの放つボーガンビームが続けざまに高速ライデンをかすめてゆく。 一定距離を過ぎるとシュン、と金色の軌跡を残しつつ掻き消える。 ハンドビームを撃っても、それが貫くのは残像ばかりである。 「これじゃ『いたちごっこ』ネ!」 高速ライデンが放つバズーカやグランドナパームも、ハイパー化した後の フェイ・イェンには一発として命中していなかった。 そこでレミィは考えた。 「こうなったら『虎穴に入らずんば虎児を得ず』……ギャンブルよ!」 突然フェイ・イェンが動きを止めた。 そして、ゆっくりとライデンに向けてハートビームの構えを取る。 「レミィ!?」 あかりがその様子を見て驚く。 「そんな、止まったら……当てられたらただじゃすまないのにっ!」 「……賭けに出たわね」 その横に千鶴が並ぶ。 「レーザーをぎりぎりで避けて、その硬直中……そうでなくても、レーザーの チャージ時間中に一気に攻勢を掛ける気よ」 「でも……もし失敗したら」 心配そうな顔をするあかりの肩をぽんと叩く千鶴。 (実際はドルカスの肩をバイパーIIががちんと叩いているのだが) 自分に言い聞かせるようにぽつりと呟く千鶴。 「……いまの私達には……見ていることしかできない」 金色のハート。 ブレードによって描き出されたそれは、青い帯によって、一瞬にして かき消された。 だがその先にフェイ・イェンの姿はない。 一瞬早く、破壊をもたらす一条の青い帯から逃れていたのだ。 そして、すぐさま反撃に転じる。 瞬く間に間合いを詰め、ブレードをふりかぶる。 ライデンは、放熱のために開かれたままになっているレーザーの砲口を やけにゆっくりと閉め、代わりにもう一門の砲口を開いた。 「ワ……ONE WAY SHOT!?」 レミィが気づいたときにはもう遅い。 悲鳴をもかき消す轟音と共に、フェイ・イェンは光に包まれた。 「レミィーーーーーーーーーーーーーーっ!!」 かおりは焦っていた。 元々が無傷だった相手に比べ、彼女の機体はすでにぼろぼろである。 互いにこまめに攻撃をヒットさせている現状では、いつかは確実に負ける。 「スピードは互角……パワーも同等……耐久力はちょっと不利……」 確認するようにそう呟くかおり。 そうしている間にも、敵機のサーベルが機体をかすめていく。 サイドステップでそれをかわしつつ、逆に斬り込む。 相手は一瞬早く空中に逃れ、ボーガンビームを撃ち放った。 「くぅっ!!」 直撃を受け、コクピットが揺れる。 警告のランプが次々と灯り、騒がしい程にBEEP音を鳴らす。 ……あと2発……良くて3発。 かおりは、怒りと焦り、そして緊張の中、機体の限界をそう判断した。 パラライズ効果のあるハートビームを放ちつつ、近接を図る。 「タダじゃやられないわ……梓センパイを攻撃した報いよ!」 前ダッシュから、近接距離に入った瞬間にブースターを切り、すぐさま サイドステップで相手の側面に回り込む。 真正面から向かってきていたフェイ・イェン・ザ・ナイトに対して、 迎撃にターボショットを放っていた原型機は、一瞬反応が遅れる。 「これでっ!」 かおりの気合いの声と共に繰り出されるサーベルに、振り向いてすぐに ガードモーションをとる祐介の原型機。 だがその一瞬の間に、フェイ・イェンは身を沈めていた。 足払い。 重力下ではそう呼ばれるモーションで、蹴りを繰り出す。 当然、無重力状態にある現状で出す以上、払うというより壊す蹴りだ。 フェイントを二度入れて、ジョイント部分を狙い澄ましたその一撃は、 しかし目標に届くことはなかった。 「かおり、上っ!!」 ……ガードモーションは、罠。 梓の悲鳴のような警告の声を聞きつつ、かおりは奥歯をぎりりと鳴らした。 瞬間。 全推力を載せて繰り出された一撃が、かおりの乗機を切り裂いていた。 綾香と葵、二人の連携コンビネーションは確実に浩之を追いつめていた。 しかし、バル・ケロスの常軌を逸する性能と、操られているとはいえ 浩之ののらりくらりとした挙動のせいで、決め手と呼べる一撃はなかった。 だが、葵のバトラーが放ったマシンガンがバル・ケロスを掠めたとき。 がくん。 バル・ケロスの機体が、一瞬傾いだ。 無重力下ではあるが、そのバランスの崩れた一瞬は隙を生み出す。 「もらったわっ!!」 綾香はそう口の中で叫ぶと、まっすぐバル・ケロスに向けて突き進む。 アファームド・ザ・ストライカーのタックルである。 この一撃が決まれば、敵は活動を停止する……。 それだけの威力を誇る一撃である。 バル・ケロスは防御しようとでも言うのか、右手をばたつかせる。 これで終わりよ! 綾香がそう叫ぼうとした瞬間……。 彼女の意識は暗転した。 「綾香さんっ!!」 葵が絶叫する。 バル・ケロスのバランスが崩れた一瞬、ストライカーが仕掛けた。 そして、バル・ケロスが右腕を振り上げたかと思うと、その手に触れた ストライカーが、強烈な破壊音と共に後方に吹き飛んだのである。 吹き飛ぶストライカー、そして、振り上げた腕をそのままストライカーに 向けるバル・ケロス、そして……。 ごぅんっ!! バル・ケロスの右腕が、ストライカーに完全にとどめを刺した。 「そ、そんなっ!!」 初音がそれを見て信じられないと言う声をあげる。 「あのパンチは、あんなに威力がないはずなのにっ!!」 彼女が乗るバル・バドスにも同様の攻撃手段はある。 だが、長瀬主任の話によればその威力は微々たるものであり、効果としては ダウンを奪うことができるだけで、破壊力は無に等しいはずなのだ。 「……威力、下げてない」 楓がぽつりと言った。 「あれが元々の威力……危険すぎるから威力を抑えてあるのに……」 「楓お姉ちゃん……」 「初音……」 二人は、お互いの顔を見て、頷いた。 「葵ちゃん、いったん下がって!」 あかりがファランクスを放ちつつ通信機に向かって絶叫する。 味方が次々と倒れていく中、このまま近接戦を続けていても不利になる。 琴音がマインをばらまいたり、マルチ&セリオが弾幕を張ってはいるが、 このまま行けば敗色は濃厚だろう。 「でも、綾香さんが……」 「早く……しなさいっ!」 躊躇している葵に、千鶴の叱咤が飛ぶ。 そんな彼女を狙ったバズーカの弾は、梓がレーザーで撃ち落とした。 「あなたがそこにいると、みんなに迷惑がかかるのよっ!」 「……っ! わ、わかりました」 急速に接近するために高機動力を持つバトラーの機動力があれば、離脱も また割合容易に可能となる。 勝負は振り出しにもどったかに見えた。 互いに、多く、少なくの差こそあれ損害はある。 それでも、その時は立ち会いの位置に戻っていた。 そう、2機を除いて。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 電脳疑似空間 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「……あと、もう少し人手が欲しいな」 「そうだな……全員こっちに来るのはダメだが、もう一息で道が繋がる」 「あの機体は危険すぎる……僕たちが何とかしないと」 電脳空間内部、部屋に疑似化された一室。 浩之、耕一、祐介の三人が、がちがちに固められた扉を前に苦戦していた。 だがその扉には無数のひびが入り、今にも崩れ落ちそうである。 だが、ゆっくりとではあるがそのひびは埋まっているのも見える。 「しっかし……はぁ」 「これ以上は……限界だよなぁ」 「力……保たないよね……」 三人揃って嘆息し、どっかと座り込んでしまう。 イメージに過ぎないはずのその姿は、汗にまみれていた。 「一旦、月島さんたちの所に戻ろうか。また誰か来てるかもしれない」 「そだな。どっちにしろこれ以上はやばい」 言って立ち上がろうとする……が、その視線が新たな入室者をとらえた。 その人物は、彼らがやってきたのと同じ入り口からやってきた。 「お……意外だな、お前も来てたのか」 そして、彼ら三人とひびだらけの扉を見ると、納得したように頷いた。 「それじゃ……あなたたちが回復するまで、私に任せて貰うわよ」 そう言って、その人物は、正拳を扉に叩きつけた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ……うにゅむ。T-star-reverseです。 前回(葵ちゃん誕生日)からでも2ヶ月、そうでなくとも1年半以上。 連載ペースとしては大分限度を越えてますな(笑) ここでなんだかんだと言い訳をするよりは、とにかく続きを書いて書いて 連載を完成させたいと思います……(もっと早くやればいいのにねぇ) では、もしよろしければもう少しだけおつきあいくださいませ。