電葉戦機バーチャリーフ・第5話 投稿者: T-star-reverse

第5話 ココロノチカラ

「あの……マルチさん?」
「はい、なんでしょう?」
 葵が、マルチに話しかける。
「マルチさんの装備って、なんなんですか?」
 その問いに、にこりと笑って答えるマルチ。
「えぇっと、右トリガーがアクアバルカン、左トリガーがミートボム、
そして両トリガーがビームモップです!」
「ふーん……そうなんですか。じゃあセリオさんは?」
 マルチの隣にいるセリオにさらに尋ねる葵。
「――私の装備は、右がアームガトリング、左が広範囲ナパーム、
そしてセンターが収束レーザーです」
「レーザー……って、でもセリオさんそんなの装備してないんじゃ……」
「いえ。見ていてください」
 そう言ってセリオは、じっと天井を見つめる。

 次の瞬間。

 ぱしゅっ!!

 セリオの目から発射された二本のレーザーが、天井を易々と貫いていた。
「――おわかり頂けましたか?」
「はい! ありがとうございます!」
 らんらんと目を輝かせる葵。
 だが、当然その目からレーザーは出ないのだった。



「…………」
「あら、どうしたの姉さん?……え?嫌な空気ですって?」
 綾香は、芹香に後ろから呼び止められた。
「…………(こくん)」
「うーん……そうね。ちょっと嫌な雰囲気よね」
 そう言って、綾香はモニターに所内の地図を表示する。
「もうすぐ開けたところに出るみたい。みんな、注意して」
 綾香の声に、一斉に緊張感が走る。
 その瞬間、周囲の状況が一変した。

 周囲が、一気に夜になったかのように黒く変色する。
 そして、うすぼんやりとした明かりが、わずかに照明になっていた。
 ……そして、部屋の中央。
「待っていたぞ」
「待っていましたよ」
 二人の男の声がした。
 その声には、何人かが聞き覚えがあった。
「柳川!」
「月島センパイ!」
 沙織と梓が同時に叫ぶ。
 そこには、柳川祐也と月島拓也の二人が、「生身で」立っていた。
 周囲に、バーチャロイドを隠している様子はない。
「さて……私達の相手をしてくれるのはどなたですか?」
 拓也が、落ち着いた様子で一行に軽く声を掛ける。
「ふふふ……誰でもいいぞ。美しい命の炎を見せてくれるのならな」
 柳川も、薄い笑みを浮かべつつ、そう言って軽く手招きをした。
 ほぼ全員が、一斉に機体を進ませかけたが、わずかに2体だけが、その
戦場に足を踏み入れることができた。
「お兄ちゃん……目を覚ましてよ」
「あんたら……気にいらないねっ!!」
 月島瑠璃子。搭乗機体は隠密暗殺機スペシネフ。
 坂下好恵。搭乗機体は格闘特化機アファームド。

 その他のメンバーは、いつものように結界に阻まれたわけではなかった。
 闘う二人が決定した瞬間、彼らの姿が消えたのだ。
 そして、残ったのは直進するための通路だけ。
「……どういうこと?」
「好恵さん……」
「月島さん……」
 一行が、呆然としたその状況から立ち直るのは、もう少し先のことである。



「……さて、邪魔者は消えた……それでは、始めようか」
 柳川がそう言うと、なにもないはずの床から、バーチャロイドが現れる。
「……なっ……」
「悪夢のバーチャロイド、ヤガランテだ。せいぜい楽しませてくれよ……」
 呆気にとられる好恵を後目に、にやりとして機体の紹介をする柳川。
 一瞬にして跳躍し、コクピットに乗り込む。
「さあ、狩りの始まりだ……」



 拓也と瑠璃子は、それとはまた別の空間にいた。
「瑠璃子……」
「お兄ちゃん……」
 その空間は、上下の感覚も、左右の感覚も曖昧だった。
 そして、拓也の後ろには、巨大な球が存在していた。
「瑠璃子。お前は僕が守るんだ。ここにいれば、誰もお前を傷つけない……」
「お兄ちゃん……」
「そう。ここにいる、このタングラムによって作られた、この世界……」
「お兄ちゃんを返して」
「僕はここにいるよ。瑠璃子」
「……違う。お兄ちゃんは眠ってる。……呼びかけに答えてくれないもの。
あなたは……お兄ちゃんじゃない」
 瑠璃子がそこまで言うと、拓也の顔が意外そうに歪んだ。
 そして、その姿がかき消える。
 すると、目の前の巨大な球に目玉が浮き上がり、不気味な声が聞こえた。
「イイダロウ。ソコマデイウナラ、アニトオナジトコロニフウジテクレル」
 その声と共に、スペシネフが光に包まれる。
 瞳の奥には、拓也の姿が見て取れた……



「はあああああっ!!」
 アファームド最大の武器であるトンファーを構え、好恵が乗機を駆る。
 一方の柳川は、ヤガランテをぴくりとも動かさず、ただ立っている。 
 アファームドが左手のボムを投げ、一時的に相手のモニターを封じる。
「くらえっ!」
 アファームドの両手のトンファーが、ヤガランテにめり込む。
 そして、そのまま急速離脱するアファームド。
 ヤガランテは、それでも微動だにしない。
「ちっ……やたらと堅いな」
 好恵がそうぼやき、再度突撃しようとする。
 が、そこに柳川の声が割り込む。
「ククク……その程度の攻撃でどうするつもりだ?」
 その声と共に、ヤガランテのバズーカが火を噴く。
 巨大な弾頭を避け、軽く撃ち返すアファームド。
 が、そのすべてが命中したにもかかわらず、堪えた様子はなかった。

 ごがうんっ!!

 アファームドの横をすり抜けた弾は、射程距離を超えて自然と爆発する。
 その爆圧が、びりびりとアファームドのコクピットまで響く。
 半端な威力ではない。好恵の頬をつつと汗がしたたり落ちる。
「ほう、避けたか……」
「なんて威力よ……まったく。これで1対1なんて不公平じゃない」
 ぶつくさ言いながらも、好恵の目だけは輝いていた。
 それは、強い相手と闘うときの目。
 たとえそれが誰であろうと、闘うからには勝つ。
 好恵は、ぐっとスティックを握りなおした。
 そして、一気に間合いを詰める。
「はああああああああっ!!」
 先程と同じように気合一閃。ぐいっと姿勢を低く、そして全身のバネで
トンファーを叩き込む。

 がつぅん!!がががりぃっ!!

 今度は、その場を離れずに連続でトンファーを振り回す。
 叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。
 何発か空振りもあったが、ヤガランテの厚い装甲が次々とはげてゆく。
 バズーカは、ヤガランテ自身の巨体のために、常にアファームドが
死角にいて撃つことができない。
「どうしたどうしたっ!!」
 端から見れば、狂ったように殴り続けているアファームドではあったが、
搭乗している好恵の方はこれ以上にないほど冷静だった。
 なにか、言い様のない不安感が、プレッシャーとして彼女にのしかかる。
 そして、その瞬間は唐突に来た。
「せぇぇぇいっ!!」
 アファームドがトンファーを振りかぶり、叩きつけようとした瞬間。
「その程度か……なら、これ以上遊ぶまでもない」
 好恵の視界が、青く染まった。
 次の瞬間、はじき飛ばされるアファームドの機体。
 コクピット内の温度が一気に上昇する。
 背中から地に叩きつけられ、一瞬、パイロットである好恵の息も詰まる。
「な、なに……?」
 呆然とした表情を見せる好恵。
「ふふふ……どうした?」 
 柳川が冷たい笑みを浮かべて倒れた好恵を見下ろす。
 そして、もう一度閃光。
「っあああああああああ!!」
 驚異的な反射力で回避するアファームドだが間に合わず、腕をかすめる。
 かすめた腕から膨大な熱量がコクピットに流れ込む。
 コクピットの中が計器の赤い色で染められる。
「レーザー!?」
「そう言うことだ。さて。どうする? まだ来るか?」
 徹底的に相手を見下した口調でそう言う柳川。
 当然、好恵も黙っていない。
「……ッたりまえでしょ!! あんたなんかに……」
 そして、突っ込む。
 すでに限界に突入している機体を駆って。
 好恵の目の前が、ゆっくりホワイトアウトしていく。
 薄れる意識の中、トンファーが獲物をとらえた衝撃だけが伝わってくる。
「……綾香……葵……負けんじゃないわよ」
 その言葉は、誰にも届くことはなかった。



 好恵と瑠璃子がはぐれた動揺からも立ち直り、一行は先を目指す。
 沈黙が重くのしかかっている。
「……あーもう! いい加減こんな暗いのヤメよ、ヤメっ!」
 沙織がじたとじた腕を振り回す。
「そうそう! 月島さんだって好恵だって、きっと無事でいるわよ!」
 それに綾香が続ける。
「そ……そうですよね!」
「そやな。うじうじしてもしゃあないし」
「私達が先に進めば、それだけ彼女たちが無事な確率も増えますし」
 それによって、だんだんと一行に活気が出てきた。
「よーし! それじゃみんな、一気に行くわよ!」
「おー!」
 と、その瞬間、目の前が開ける。
 新しい戦場に来たのだ。
 そこには、三機のバーチャロイドが待っていた。

「……え?」

 誰からともなく上がる声。

「あの機体って……」
「――確認しました」
 セリオの声が一行に現実だけを告げる。
「左から、フェイ・イェン原型機、高速仕様ライデン、バル・ケロス。
……それぞれ長瀬祐介、柏木耕一、藤田浩之乗機です」

 ……悲鳴が上がった。



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 かなり長い間のご無沙汰でした。T-star-reverseです。
 
 いろいろとありまして、このシリーズに手をつける機会がなかったので。

 さて今回。結局敵の正体は月島拓也&柳川祐也(おまけに操られモード)
だったりしますが、それを操っているのは「タングラム」というものです。
 次回、この「タングラム」が重要になってきます。

 そして今回のラスト。
 プロローグでやられた三人の機体が出てきました。

 あとは次回をお楽しみに、ということで。
 では、また次回。失礼しました!