電葉戦機バーチャリーフ・第4話 投稿者: T-star-reverse
第4話 許されざるもの

「ハァ……シホじゃないケド、ホント、退屈ネ!」
 高速汎用機フェイ・イェンに乗るレミィが、ふぅ、とため息をつく。
 そんな彼女を励ますのは、攪乱攻撃機バル・バドスに乗る初音。
「レミィお姉ちゃん、我慢しようね。みんな頑張ってるんだから」
「そうネ……アッ!ハツネちゃん、アタシいいこと思いついたネ!」
 ぽん、と手を叩くレミィと、それに興味を引かれる初音。
「えっ?なになに?」
「ハツネ、手のビットをそこに浮かべて」
「うん」
「それから、ちょっと離れるネ」
「それで?」
「ハツネちゃんが、ビットを手元に引き寄せるヨ」
「うんうん。それから?」
「動いてるビットを、アタシがHuntingするネ!」
 と、ビット目がけてボーガンビームを乱射するフェイ・イェン。
「なるほど……って、きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」
 引き戻し始めはまだいいが、そのうちビットはバル・バドスに近付く。
 そして、それを追うボーガンビームもまた然り。
「待てっ!大人しくするネ!」
「嫌だよぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 とりあえず、バル・バドスを追いかけるフェイ・イェン。
 本編には関係ないので、放っておくことにしよう。



「……いやだな」
「え?」
 瑠璃子がぽつりと呟いた一言が、あかりの耳に届いた。
「月島さん、何か嫌なことでもあるの?」
「……ううん。ないよ」
 その言葉に小首を傾げるあかり。
 そんなあかりの様子に構わず、瑠璃子は続ける。
「……でもね、いやなの。……みんな、みんな、哀しくなる」
「どうしてわかるの?」
 瑠璃子の表情は変わらない。でも、哀しい顔。
「哀しい電波が飛んでくるの。だから私、幸せな電波を飛ばすんだよ」
 そして、続ける。
「長瀬ちゃんがいれば、もっとたくさん電波が飛ばせるのに」
 その言葉に、あかりも伏せ目がちに呟く。
「そう……私も、浩之ちゃんがいれば、それだけで幸せなのに」
 そのあかりの言葉に、わずかに微笑む瑠璃子。
「……みんなに幸せになってほしいよ。がんばろうね」
「……そうだね、頑張ろう!」



「なんやねん、ここは!?」
 智子が素っ頓狂な声を上げる。
 それもそのはず、前回の戦場とは対照的な風景が目の前に広がっている。
「……ううっ、なんかやですぅ……」
 マルチが涙目になって非難の声を上げる。

 そこは、スクラップ置き場だった。

 すでに屑鉄となった機械の類が、所狭しと積み上げられている。
「うわぁ……やりにくそうなトコねぇ……」
「どうします?足場に影響されない私が行きましょうか?」
 そんなことを一行が話していると、不意に声が響きわたった。

『……やあ、みんな、よく来てくれたね……』
 その声に、驚きの声を上げる沙織。
「月島先輩っ!?」
『……歓迎するよ。特に……香奈子くん』
「…………」
「……香奈子ちゃん?」
 うつむいた香奈子に、瑞穂が心配そうに寄り添う。
『ふふ……僕がここにいるのが、そんなに不思議かい?』
「……逆に合点がいったわ!あんたが黒幕やな!」
『ご名答……と、言いたいところだが、満点はあげられないね』
 そして、声色を変えて香奈子に語りかける。
『香奈子くん、今からでもいい、僕の側に来てくれないかな?』

「!」
 弾かれたように顔を上げる香奈子。
『僕には君が必要なんだよ……それに、ここの相手は彼女たちだ』
 薄暗かった部屋に、一斉に明かりがともされた。
 部屋の奥に、2機のバーチャロイドが見える。

 1機は、サイファー。
 1機は、テムジン。

 その2機のコックピットの映像が、スクリーンに映し出される。
「美和子さん……それに由紀さん」
 瑞穂が呆然と呟く。二人の瞳はスコープに隠されていて伺えない。
『……もし君が、仲間たちに申し訳ないというのなら、それでもいい。
僕と君は、敵としてまみえることになるだろう……』
 「敵」の一言に、びくっと反応する香奈子。
「香奈子ちゃん、行っちゃダメ!お願い!」
 迷う香奈子を、必死でとどめようとする瑞穂。
 香奈子の中で、激しい葛藤が行われた。

 そして、彼女の出した結論は……
「瑞穂……ごめんね」
「香奈子ちゃん!?」
 ドル・ドレイを駆り、急速にダッシュする香奈子。
 瑞穂も、それを止めようと重装迫撃機ベルグドルで追いかける。

 がしっ!
「あっ……」
 不意に後ろから手を掴まれる瑞穂。
 もう一方の手を伸ばすも、香奈子のドル・ドレイは遠ざかってゆくばかり。
「なにするんですか……」
 そう言って振り返ろうとしたその瞬間。

 ばちばちばちばちばちばちばちばちばちっ!!

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 強烈な電磁フィールド……いや、「電波フィールド」とでも言うべきものが
ドル・ドレイに、そして搭乗者である香奈子に、強烈な干渉をしかけていた。

「香奈子ちゃぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
 絶叫する瑞穂。しかし掴まれた手は離れない。
 涙を流し、必死で香奈子の元へ駆け寄ろうとするが、手が離れない。
 掴んでいるものごと引きずろうとしても、重くてそうも行かない。

 ……そして、がくん、とドル・ドレイが膝をついた。

『……さて、これで役者が揃ったようだ……それじゃ、始めてくれたまえ』
 その声と共に、サイファーが、テムジンが、……そして、ドル・ドレイが
瑞穂達に向かって構えを取る。
「香奈子ちゃんっ!」
『無駄だよ。もう君の声は届かない』
「そんな……そんなっ!!」
「…………」
『ん?』
 ベルグドルの手を掴んでいたバーチャロイドが、すっ……と動き、
ひとまず落ちついた瑞穂の手を離し、前に出る。
 氷雪魔法機、エンジェランである。搭乗者は芹香。
「…………」
『「あなたは酷い人です」って?……そうかもしれないね。それで?』
「…………」
『「許しません」だって?……ふふふ、許してもらわなくても……』
 スピーカーの声が、いっそう陰湿に変化する。
『構わないさ……』


「あ、あの……」
 エンジェランがもう一方の手で掴んでいた別のバーチャロイドがいた。
「どうして、私の手も引っ張ったんですか?」
 その機体、旧式高速機バイパーに乗っている理緒は、芹香にそう聞いた。
「…………」
「近くにいたから……って……ああ、私ってなんなんだろ……」
 理由を聞き、さめざめと泣く理緒。
「香奈子ちゃん……」
 そして、相変わらずしくしくと泣き続ける瑞穂。
 が、理緒と瑞穂が泣いている暇もなく、戦いの火蓋は切って落とされた。



 まず由紀のサイファーがレーザーを撃ってきた。
 それに合わせ、テムジンも前ダッシュからライフルを放つ。
 ドル・ドレイはファイアーボールを乱射してきた。

「うひゃあっ!!」
 ものすごいスピードで迫ってくる攻撃に、思わず理緒が目を閉じる。
 瑞穂は相変わらず泣いているだけで避けようとしないし、密集している
3機のバーチャロイドにその攻撃が炸裂する!
 
 ぱぱぱぱぱぱっ!

 着弾音ではなく、何かを弾くような音がその場に響く。
 理緒がゆっくりと目を開けると、そこには氷の障壁が張られていた。
「…………」
「大丈夫ですか、って?は、はいっ!」
 バイパーが立ち上がるのを見てから、芹香は理緒にこう頼む。
「…………」
「……え?しばらくの間、3機の攻撃を引きつけてくださいって、わ、私?」

 こくこく。

「……え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「…………」
 その反応に、困ったような顔をする芹香。
「あうう、来栖川さん、そんな顔しないでくださいぃぃ」

 さらに沈黙。

「わかりましたぁ……私が死んだら家族のことよろしくお願いします……」

 こくこく。

「……素直に頷かれるのもなんか嫌ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 そう涙を流して絶叫しつつ、障壁の影から飛び出すバイパー。
 エンジェランの氷の障壁を破るのが難しいと判断した3機は、すぐさま
攻撃目標をそちらに変更する。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 
「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「うひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 騒がしい悲鳴が上がるも、器用に全ての攻撃を避けきるバイパー。


 そして、その間、障壁の内側にいる芹香と瑞穂はと言うと。
「香奈子ちゃん、香奈子ちゃん……」
「…………」

 ぎゅっ。

 エンジェランが、ベルグドルを抱きしめる。

「あっ……」
「…………」

 なでなで。

 そして、エンジェランがベルグドルをなでなでする。

「…………」
「落ち着きましたか、って?……は、はい……」
「…………」
「戦いましょう、って?……でも、私、香奈子ちゃんとは戦いたくない……」
「…………」
「えっ!?」
 芹香の言葉に、ひときわ大きな驚きの声が瑞穂の口から発せられた。
「香奈子ちゃんを元に戻せる?それ、本当ですか?」

 こくこく。

「…………」
「それにはとりあえずおとなしくさせないといけない?わ、わかりました!
頑張ってみます!」

 なでなで。

「あっ……」


「……姉さんってば……」
 感動的、感動的ではあるのだが、2機のバーチャロイドがそうしているのは
端から見ると、かなり不気味な光景ではあった。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 逃げ回るバイパーに、だんだんと攻撃が命中しはじめていた。
 バイパーの動きが鈍くなったのを見計らい、突っ込んでくるドル・ドレイ。
 それをなんとかダッシュでかわそうとするバイパー。
 しかし、ドル・ドレイはその進行方向に転進、バイパーの華奢な機体を
粉々に吹き飛ばす……かに思えた。

 ぷす……ぷすん……

「え?」

 不意にバイパーから妙な音がしたかと思うと、次の瞬間に、がくん、と
左のターボバーニアが活動を止める。

 ずべぐしゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

 バランスを崩したバイパーは、ド派手、かつ鈍い音を立てて転倒した。
 しかし、そのおかげでドル・ドレイの必殺の一撃も空を切る。
「ああああ、痛いけど助かったぁぁぁぁぁっ!!」
 そうしてボロボロになったバイパーをかばうように、フェイ・イェンと
ベルグドルが敵の前に立ちはだかった。
「香奈子ちゃん!今助けてあげるね!」
 瑞穂が呟くが、香奈子の耳にはそれは届かない。
 先ほどの突進で若干オーバーヒート気味なのか、ドル・ドレイは動かない。
代わりにテムジンとサイファーが、必殺の間合いへと攻め込んできた。

「…………!!」
 ダッシュからの強烈な攻撃は、全てエンジェランの障壁によって弾かれる。
そしてその隙をついて、ベルグドルのファランクスが火を噴いた。

 ごっ……がぁぁぁん!

 攻撃のすぐ後で体制が崩れていたのもあったが、ほぼ無防備にその爆炎に
さらされるテムジンとサイファー。
 そして、続けざまに撃たれたエンジェランの氷の竜が、2機をほぼ同時に
打ち砕いた。
「なんか……わたしって、役立たず……?」
 さめざめと涙を流しつつ、理緒がよろよろとバイパーを起きあがらせる。
「あとは、香奈子ちゃんを止めるだけ……」
 そこで、瑞穂は絶句した。


 ドル・ドレイは、巨大化していた。


 ほんのわずか前まで、ベルグドルより低い位置にあった外部用モニターは、
すでに見上げんばかりの位置に据え付けられている。
 その大きさは、いまにもこちらの3機を踏みつぶしてしまいそうだった。

「な……なに?あれ!」
 そう言って、言葉をなくすあかり。
「奥の手……やな」
「奥の手?保科さん、それって……?」
 智子が答える。
「神岸さんも、長岡さんのサイファーが変形するのは知っとるな」
 こくん、と頷くあかり。
「それと同じや。なんぼかの機体には、あんな奥の手があるんや。
……使わん方がええんやろうけど、うちの機体にも一つあるわ。ごついのが」
 そう言うと、智子は再び戦場に目を向けた。あかりもそれに倣う。

 戦局は、芳しくなかった。
 エンジェランが、ベルグドルが、バイパーが。
 ドル・ドレイただ一体に追い回されている。
 エンジェランの竜も、ベルグドルのファランクスも、バイパーのレーザーも
その巨体に対して、さほどダメージを与えた様子はなかった。
「…………」
「え?時間を稼ぐしかない、って?」
 芹香と瑞穂の間の通信回線が開かれる。
 巨大化はしばらくすると元に戻る。芹香はそこを狙おうというのだ。
「…………」
「わかりました……あっ!!」
 瑞穂の声と重なるように、ぼぎっ、という鈍い音が響いた。
「っぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 絶叫する理緒。バイパーの左足が踏みつぶされていた。
 どうやら、また左足のバーニアが止まり、今度はそれが災いしたらしい。
「落ち着いてください雛山さん!それはあなたの足じゃないんですよ!」
 それを見て、エンジェランが動いた。

「…………!」
 芹香の裂帛の気合と共に、エンジェランのボディに変化が起こる。
 その背中に純白の翼が生え、ふわりと浮き上がる。
 そして、ドル・ドレイに向かってまっすぐ向かってゆく。

 ドル・ドレイが撃ちだしたドリルを避け、その目の前で竜を呼び出す。
 その竜にを鬱陶しそうに打ち払うドル・ドレイ。
「……Ru……Ka……Sa……Mi……」
 その隙をついての芹香の呪文。エンジェランの杖に光がともる。
「……Ed……Az……Li……Ri……」
 そして、呪文の最後の一節と共に、杖の先から虹色の波動が飛び出す!
……はずだった。
「……Ao……Ri……Ay……Yo……S…!」

 どがっ!

 呪文の途中。エンジェランに激しい衝撃が走った。
 先ほど避けたはずのドリルが背中に突き刺さっていた。

 彼女にわかるはずはなかった。
 ドリルが途中で向きを変え、無防備なエンジェランを狙ったことを。

 背中の羽を引きちぎりつつ、ドリルはがりがりと装甲を貫いてゆく。
 その衝撃に悲鳴を上げる間もなく、芹香は気を失った。


「来栖川さんっ!」
「姉さんっ!」

 同時に聞こえたのは、瑞穂の声と綾香の声。
 そして、次に聞こえたのは、何かが結界に激突する音。
「姉さん!姉さんっ!!」
 半狂乱になって叫び、結界を掻きむしる綾香。
 そして、それを必死で止める葵。
「やめてください綾香さん!無茶ですよ!結界を破るなんて!」
「離しなさい葵!あいつ……ぶっ壊してやる!」
「――綾香お嬢様、お止めください。芹香お嬢様は生きておられます」
 そう言って、葵と共に綾香を止めたのはセリオ。
「――頭を打った様子もなく、出血もありません。脈拍・心拍数など、
全て正常値です。落ち着いてください」
 それを聞いてようやく綾香はおとなしくなった。
 しかし、それでも顔はまだ怒りとやるせなさで溢れている。
「大丈夫……瑞穂ちゃんがきっとやってくれるわ」
 沙織の一言が、綾香にはなぜかとても頼もしく感じられた。


「私が……香奈子ちゃんを止めてあげる……」
 瑞穂は、ドル・ドレイに向かって砲口を開く。

 ドル・ドレイは動かない。
 いや、動けない。
 ゆっくりと元のサイズに戻っている。
 巨大サイズの時に受けた小さいはずの傷は、思っていたより深い。

 瑞穂は、無言でトリガーを引いた。

 爆音が、戦いの終わりを告げた。



「――それでは、よろしくお願い致します」
 セリオのその言葉に頷く瑞穂。
 彼女は、ここまで来た時の船まで、香奈子と理緒を連れていく事になった。
 ついでに、半壊したバイパーも引きずってゆく。
 全壊したドル・ドレイは、修復の見込みがないために放置しておく。
「わかりました……香奈子ちゃんが意識を取り戻したら、すぐに追いかけます」
「私も、バイパーが直ったらすぐに後を追うね」
 と、一時船に戻る二人。
 ちなみに、すでに意識を取り戻した芹香の治療で、香奈子への電波の影響は
取り除かれていた。

「気をつけてねー!」
 全員に見送られ、3人は引き返していった。



 ……いや、全員ではなかったようだ。
「ハツネ、どしたノ?」
「うっうっうっ……」
 ただ涙を流す初音に、怪訝な顔をして理由を聞くレミィ。
 ……三人が一度別れたことに、彼女たちは気づいていない。
 ……しかし、そんな二人にも、誰も気がついていなかった。



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 どうもお久しぶりになります。T-star-reverseです。
 
 はい。敵の正体がだんだん見えてきました。
 今回、思っていたより長くなって(=遅れて)しまったです。

 終わり方もなんだかあっさりしてるし……
 いなくなるのは一人だけだったはずが(一時的にでも)三人いなくなるし……

 ……さて、次回はまた変わったバトルになります。
 ……理由づけが大変そうです。

 では、また次回お会いしましょう。