電葉戦機バーチャリーフ・第2話 投稿者: T-star-reverse
第2話 炎の戦士たち

「もう……ダメ、歩けない……」
「……楓……」
「ごめんなさい梓姉さん……足手まといになっちゃって……」
「そのバーチャロイドには足、ないだろ……」
 水中攻撃機バル・バロスを選んでしまっていた楓は、梓の選んだ
バーチャロイド、重装強襲機ライデンに背負われて進んでいた。



 それを除けばさしたる問題もなく、敵も現れず、一行は着実に進んでいた。

「はぁ、志保ちゃん退屈……敵でも現れてくんないかしら。そーしたら
あたしがぱっぱっぱー、っとやっつけてあげるのに」
 志保がそんな独り言を呟くと、それを隣にいた琴音が聞きとがめた。
「長岡さん、不謹慎ですよ。何事もなければ、それでいいじゃないですか」
「だってさー、こう何もないと、いかにも「何か企んでます」って感じで
嫌な気分になるでしょ?」
「まあ、そうですけど……」
「だったら、さっさと敵さんに出てきてもらったほうがいいじゃない?」
「うう……」
 琴音が言葉に詰まっていると、先頭を進んでいた綾香の声が聞こえた。
「開けた所に出たわ。みんな、気をつけて!」



 そこには、3機のバーチャロイドが並んで立っていた。

 中央にフェイ・イェン。
 向かって右にバイパー2。
 向かって左にエンジェラン。

「待ってたわよ。あんた達が道に迷ってんじゃないかって心配したわよ」
 エンジェランからそう声がした。
 その声を聞いて、智子がぴくりと眉を動かす。
「その声……岡田やな。ならあとの二人は松本と吉井か」
「へえ、よくわかったわね」
「わからいでか……あんたらがなんでこんなところに居るかは知らんけど、
あんたらが相手っちゅうなら、うちが行かせてもらうで」

 そう言って智子は一歩を踏み出した。
 搭乗バーチャロイドは重装火力機グリス・ボック。

「ねー岡田、やっぱやめた方がいいんじゃ……」
「わたしもそう思う。岡田……」
 吉井と松本がそう言っているが、岡田は聞く耳を持たない。
「うるさいわよ!……今日こそ生意気女を、徹底的にぶちのめすのよ……」
 そう言って、手に持ったステッキで、ぽかぽかと二人の頭を叩く岡田。

「なによあの女!性格悪ぅ!」
「……気に入らないわね。あの性格……」
 と、岡田の様子に憤激した二人が、智子に続いて前に出る。
 一人は沙織。搭乗バーチャロイドは汎用格闘機テムジン。
 もう一人は香奈子。搭乗バーチャロイドは火力攻撃機ドル・ドレイ。



 三人が出たのを見て、さらに出ようとする機体が1機。
「ほーっほっほ!この人数差、3機ぐらいで勝てると思ってるのぉ?」
 速攻可変機サイファー。搭乗者は志保。
「さあみんな、一気に片づけ……べっ!!」
 空中ダッシュをしようとしたサイファーが、見えない障壁に阻まれる。
 ひらひらひらと落ちてきたところを、巨大セリオことBMX−13が
がっしりと受け止める。
「――どうやら、同人数でしか戦えないような結界が張ってあるようですね」
「なによそれ、ずっこい……がく」

 志保、戦わずしてダウン。



「ふん。邪魔は入らないわね……勝負よ!まず、松本、行きなさい!」
「え、ええーっ?みんな一緒に戦うんじゃないの?」
 松本がそう抗議するが、岡田はごく落ち着いた声でこう言い放った。
「あんたたち、足手まといだもの。さっさとやられてきなさいよ」
「岡田って……つくづく外道なんだね……」
 吉井がさめざめと泣きつつ、白いハンカチを振って松本を送り出す。
「吉井もぉぉぉっ!助けてぇぇぇぇぇっ!!」
 松本は、岡田が出した炎の竜に追い立てられていった。

 (註・岡田のエンジェランは炎系にカスタムチェンジされています)

「相変わらずアホやな……」
 智子が肩をすくめつつそう言うと、香奈子がスタスタと前に出た。
「あたしから行かせてもらうわ」
「別にうちが一人で片つけてもええんやけど?」
「あの岡田とか言う奴はあなたに譲るわ。もしあなたが負けたなら別だけど」
 そう言って香奈子は、沙織の方を振り向く。
 沙織も、二人に向かって頷く。
「じゃあ、あたしがあの吉井っていう人の相手をするわ」
「気をつかわんでもええのに……」
 そうは言うものの、智子の顔は微笑んでいた。



 広間の中央に、香奈子のドル・ドレイと松本のフェイ・イェンが対峙する。
 それを、少し離れた場所で智子と沙織、岡田と吉井が見つめる。
 さらに離れた場所では、今回戦闘に参加しなかった(できなかった)人達が
戦いの様子をじっと見つめていた。

 ……そして、もう一人。

「おや……香奈子くんも来ているのか……」
 モニター越しに、その様子を見ている人物がいた。
「……使えるかもしれないな。ま、まずはお手並み拝見といこうか……」



「いけえっ!!」
 先手を取ったのは、動きの早いフェイ・イェンであった。
 しかし、横にダッシュして悠々とそれをかわすドル・ドレイ。
 そして逆に、そのまま攻撃を放つ。
 フェイ・イェンもその機動力を活かしてそれをかわす。
「甘いわ」
 しかし、ドル・ドレイはフェイ・イェンをしっかり捕捉すると、続けざまに
アームを敵めがけて撃ち出した。
「うひゃあっ!」
 と、奇声を上げつつジャンプしてそれをかわすフェイ・イェン。
 しかし、その直後に衝撃が走る!

 がりがりがりがりがりっ!!!

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 空中で無防備なフェイ・イェンを、アームと時間差で放たれたドリルが、
がりがりとフェイ・イェンの装甲を削ってゆく。
 ドリルが外れる。アームとドリルがドル・ドレイの元へ戻る。
 バランスを崩しつつもなんとか着地するフェイ・イェン。
「ひ……ひどいじゃないのぉ」
「うるさいわよ」
 文句をぶーたれる松本に、冷ややかな反応を示す香奈子。

 フェイ・イェンが、急に前にダッシュして距離を詰めた。
「!」
「お願い、当たってっ!」
 瞬く間に至近距離まで近付くと、装備した剣でドル・ドレイを凪ぐ!

 ……すかっ。

「ほへ?」
 間の抜けた声を上げる松本は無視し、香奈子はドル・ドレイを冷静に操る。
 ドル・ドレイは、剣の一撃をすり抜けるようにして背後に回り、アームで
フェイ・イェンの華奢なボディーを掴み上げた。
 そして、思いっきり地面に叩きつける!

 ぐしゃっ。

「なんでぇぇぇぇぇぇっ!?」
 と、松本の叫び声と共に、勝敗は決定した。



「……わかってはいたけど、本当に役立たずよね」
「……そうかもね」
 岡田と吉井が、そんな松本の様子をそう評していた。
「次はあんたよ、吉井」
「……わかってます……ああ、なんで涙が出るんだろ……」

「やったわね、太田さん!」
「やるやないの」
「相手が弱かっただけよ」
 と、盛り上がりを見せる三人。
 そして、沙織がくっ、と顔を上げると、中央に歩いてゆく。
「それじゃ、次はあたしが行ってくるね!」



 広間の中央。すでにガラクタ(=松本のフェイ・イェン)は片づけられ、
沙織のテムジンと吉井のバイパー2が向かい合っていた。

「私は松本とは違うわよ」
「どうだか……それじゃ、行くわよ!」
 と、テムジンが前ダッシュをかけようとした瞬間、バイパー2がくるりと
後ろを向いて、一気に距離を離しにかかった。
 あまりといえばあまりな行動に、呆然とする沙織。
「なによそれ、やる気あるの?」
「もちろんよ。……じゃ、行くわよ!」
 と、遠距離からテムジンに向かって乱射をするバイパー2。
 さすがにこの距離からの初弾は当たるものではないが、二回三回と続けて
射撃をされると、さすがに避けるのも辛くなってくる。
 一発かすり、二発かすり、そして一発、二発と直撃も増えてくる。
 バイパー2の火力はそれほど高くないものの、何発も喰らえば危なくなる。
 しかし、テムジンが距離を詰めようとすると、バイパー2は距離を離し、
広間の端に追いつめようとすると、頭上を越えて反対側へ行ってしまう。
「ず……ずっこいわよっ!」
「勝つためよ……しょうがないのよ」
 沙織が抗議の声を上げるが、吉井はそれをやめようとしない。
 バイパー2の逃げ撃ちは、しばらく続く。

「なんやあれ!逃げやないか!」
 智子の怒りの声が、広間に響く。
「負け惜しみはみっともないわよ」
 智子の声に、岡田が見下したような声をかける。
「なんやて……」
「大丈夫よ、見てて!」
 激昂しかけた智子だったが、沙織の声でなんとか踏みとどまる。
「強がりもみっともないわよ」
「強がりじゃないわよ。見てなさい!」
 岡田の言葉にも、毅然とした態度をとる沙織。

「さ……さっさとやられてちょうだい!疲れるんだからっ」
 勝手なことを言っている吉井は無視し、テムジンは高々とジャンプした。
「吉井、チャンス!隙だらけよ!」
「わかってる!」
 岡田の言葉を待つまでもなく、バイパー2からレーザーが発射される。
 そしてそれは、狙い違わずテムジンに命中する。
 しかし、バイパー2ができたのはそこまでだった。
「う……うそおっ!?」
 まるでサーフィンをするかのように、テムジンが突っ込んできたのだ。
 先ほどのレーザーなどものともせず、立ちつくすバイパー2を直撃する。

 どごぉっ!!

「そ、そんなのずるぃぃぃぃぃぃっ!!」
 その一撃で吹っ飛ばされ、そしてバイパー2は動かなくなった。



「……まったく、どいつもこいつも……」
 岡田が一人、怒りに燃えていた。
「こうなったら、私一人でやっつけてやるわよ!!」

 そして、三人はと言うと。
「お疲れさま」
「なんや、そんな手があったなら早よやればええのに」
「ま、いいじゃない、勝ったんだし!」
 と、わいわいと盛り上がっていた。
 そして、智子がグリス・ボックを歩ませる。
「……さて、ならうちの番やな」
 岡田のエンジェランをキッとにらみつける。
「あいつとサシで勝負させてもらえるんや。しょーもない戦いは出来んな」



 広間の中央、智子のグリス・ボックと岡田のエンジェランが相対する。
「こんなアホらしいこと、さっさと終わりにさせてもらうで」
 岡田は答えない。
 智子の問いは続く。
「……それにしても、なんであんたらがこないなとこにおるんや?」
「あんたをひどい目に遭わせるためよ」
 と、岡田の言葉。
「なんやて?」
「……そうよ。あんたよ!あんたのことが気にくわないから、私は……っ!」
 と、そこで突然エンジェランから火線が走る!

 ばばばばばっ!

 全弾命中は避けたものの、何発かはかなり近距離から喰らったために
グリス・ボックの装甲の一部が吹き飛んだ。
「話の途中で何すんねん!」
 返答はない。ただ淡々と攻撃を続けてくる。
 グリス・ボックもミサイルをエンジェランに向けて撃つが、そのほとんどが
容易にかわされる。
 エンジェランが竜を呼び出し、それをグリス・ボックがなんとかかわす。
 しかし、エンジェランの小技は的確にグリス・ボックに命中していた。
「ちょこまかしよってからに……これなら……どうやっ!!」
 と、グリス・ボックからミサイルが6発同時に発射される。
 そしてエンジェランに一直線に飛んでいく。
 タイミング的にエンジェランには回避不能だが……?

 どどどどどどっ!!

 しかし、エンジェランが目の前に生み出した壁が、それを全弾受け止めた。
 その壁の陰からグリス・ボックの姿を確認すると、エンジェランは
おもむろに高く飛び上がった。
「なんや……?」
「これで終わりにしてやるわ……」
 ひどく感情が欠落した声。岡田の声が冷たく智子に届く。
 エンジェランが両手を高々と差し上げると、二匹の竜が姿を現した。
 そして、そのままグリス・ボックめがけて突っ込む!
 グリス・ボックは避ける素振りを見せない。
「終わりよ、保科っ!!!」

 ……その瞬間、岡田のエンジェランを爆炎が包み込んだ。



「な、なんで……?」
 大破してもう動かないエンジェランの中、岡田が呆然としていた。
 二匹の竜がかき消え、グリス・ボックが高々と片手を上げる。
「勝負あり、やな」

「どうしてよ!何が起こったっていうの?……まさか、あの二人が後ろから
攻撃したんじゃないでしょうね!?」
「そんなことあるかいな」
 ヒステリー気味に叫ぶ岡田に、やれやれといった感じで肩をすくめる智子。
「あんたが自分で作った壁で、あんたの視界がふさがれとる間に、うちが
虎の子の大型爆弾撃ちだしただけや。後ろから来たから解らんやろうけど」
 がっくりと肩を落とす岡田。吉井と松本がそんな岡田に近付く。
「岡田、元気だしなよ。もともとこんなことしなければよかったんだよ」
「そうそう。一緒に帰ろうよ」
 その言葉にこくりと頷くと、岡田はとぼとぼと歩き出す。
 だが、ぴたりと立ち止まると、くるりと振り返ってこう言い残した。
「……私達を倒したからっていい気にならないことね。あんたたちなんか
みんなやられちゃうのがオチなんだから」
「岡田ぁぁぁ」
 と、今度こそ三人はどこかへ行ってしまった。



「三人とも、お疲れさま!」
 戦い疲れた三人を、仲間達が出迎える。
「…………」
「大丈夫ですか、だってさ」
 芹香の言葉を綾香が通訳する。
「へーきへーき。少なくともあたしは全然大丈夫だよ」
 沙織の言葉に、頷く智子と香奈子。
 と、そこに復活した志保が出てくる。
「な、なに?もう終わっちゃったの?」
 それに答える智子。
「そういうことやな」
「なんでよっ!次はあたしに戦わせなさいいいいいっ!!」
 志保の叫びがむなしく広間にこだましたのだった……。



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 どうも。T-star-reverseです。

 いよいよメインストーリー、機体同士のバトルに入ってきました。
今回は太田香奈子、新城沙織、保科智子の三人が活躍しましたが、
果たして次に主役を張るのは誰でしょうかっ!?

 一応、次は二対二のタッグ・マッチの予定です。

 ……出演予定表を見てみると、主演が後の方ばかりな痕のキャラ達……
ファンの方は、気長に待ってくださいね(今回の頭程度の出番はありますが)

 ……あと、感想頂けた方々、どうもありがとうございます。
 自分から感想書くのは苦手なので、感想返しはしばらくご容赦ください。