「耕一さん・・・いいですか?」 そういいながら、千鶴さんがそろりと障子を開けた。 「あ、千鶴さん。何ですか?」 俺は布団に寝そべっていたからだを起こしながらこたえた。 「ごめんなさい、もうおやすみでした?」 「ううん、ちょっと横になってただけだから。何か用ですか?」 「そうですか、よかった。」 そういいながら、うっすらとした月明かりを背に千鶴さんが部屋の中にはいってきた。 そして、障子をついと閉め、俺の横にひざをついた。 千鶴さんの髪はさらさらで、いつも見とれてしまう。 「あの、耕一さん」 上目遣いに千鶴さんが話し掛けてくる。かわいい。ほんとにかわいい。 「耕一さん、聞いてます?」 「あ、はい、何ですか千鶴さん。」 やば、気をつけないと自分が何をしてしまうか・・・・・わかるだろ。 「あの、耕一さんがよかったらでいいんですけど・・・・・・」 「はい。」 「桜、見に行きませんか?」 「桜、ですか。」 「はい、今日は月もきれいですし、夜桜きれいだろうなって思って。」 「ええ、そうですね。」 「それで・・・あの・・・耕一さんさえよければ、いっしょにどうかなって思って・・・・・」 そういいながら、そーっと俺の目を覗き込む。 「あの・・・・・・いやですか?」 いやも何も、そんな目で俺のこと見られたら、 「いえ、いきますっ。」 て、言うに決まってるじゃないか。 「よかった、じゃあ、私支度してきますから。玄関で待っててくださいね。」 千鶴さんは嬉しそうに目を細め、そういった。 「はい、じゃあ待ってますから。」 「はい。」 俺が返事をすると、千鶴さんはさらさらの髪に月の光を浴びながらとてとてと自分の部屋に行った。 ふう、ほんと俺って千鶴さんのあの目によわいよな。 千鶴さん・・・・・・やっぱり千鶴さんにはいつも笑っていて欲しいよな。 俺が千鶴さんを・・・・・・ 立ち上がって、障子を開ける。 春の夜風がすぅーっと部屋に入ってくる。 月の光もいっしょに。 「耕一さんお待たせしました。さ、いきましょ。」 そういって、千鶴さんが表に出ると、風がさっと吹き抜けた。 「きゃっ、んもう・・・ああっ、耕一さん、何かおかしいですか?」 「ううん、かわいいですね。」 「ううう、もお。耕一さん先に行きますよ。」 千鶴さんはちょっと頬を赤らめて、先に門をくぐっていった。 こういうちょっとしたことの連続が、幸せっていうのかな。