『始まりはまだ、遠いけど』 投稿者: TaS
嫌になるくらいに強い日差し。
あたしは汗ばむ制服に、文句を言いながら歩いていた。
残暑、なんて言葉を考えた人間に対して恨みみたいな物まで抱いていた。
意味が無いのはわかっていた。
でも、何かに文句が言いたかった。
太陽は、何だかとても白けた色をしていた。


学校の裏にある小高い丘、裏山なんて言い方も躊躇うような地面の出っ張りは、暗く、濃
い緑に覆われていて見ているぶんには涼しげではあった。
もっとも緑の臭さが満ちているそこにはあまり近づきたくなかった私は、木陰から出ない
程度に、その丘から離れて歩いていた。
アスファルトが揺らいでいた。
陽炎の仕業だってわかっているのに、その不確かな光景を見ていると少し不安になった。
なんだか文句が言いたくって。誰も聞いてくれないのはわかっていて。
逃げ出すように、歩き出そうとした。
何から?
それもわからないでいる時に。
小さな音が、聞こえた。


何かが破裂するような音。
ううん、違う。
もっと重い感じの音だった。
何かを叩くようなその音が、もう一度聞こえてきた。
こっち!?
気がつくとあたしは、裏山に刻んである大して長くもない石段を登っていた。
あたしらしくない。
そんな事に気がつく余裕も無かった。


石段の上には、あまり大きくない鳥居が見えた。
以前は赤く塗られていただろうその鳥居は、そんな過去を思い出せないくらいに茶色く染
まっていた。
でも、その方がむしろこの空間に似合っているように思えた。
神社だ。
間抜けな事に、あたしは鳥居をくぐってみて、始めてそれに気がついた。
学校の裏にこんな空間があったなんて、1年半近くこの学校に通っていたのにまるで知ら
なかった。
学校の事ならなんでも知っているつもりだったあたしは、少しはショックを受けてもいい
筈なのに、なんだかそんな気分にはならなかった。
風が吹いていた。
いつもなら騒がしいだけの葉擦れの音が、なんだか涼しかった。
耳に届く音はたくさんあるのに、とても静かだと思った。
しばらく、このままでいたい。
そう思った。


ズバーンッ!

あたしのそんな想いは、あっと言う間に裏切られた。

ズバーンッ!

気持ちのいい静けさを台無しにするその音は、神社の裏から響いていた。
さっき聞こえた音と同じだ。
大きく響くその音は、時計の針のような規則正しさはないけれど休む事も無く続いていた。
文句の一つも言ってやりたくて、あたしは神社の裏へと向かっていった。
あたしに気づいたかのように、その音はペースを上げていった。


神社の裏は、思っていたよりも広くなっていた。
その片隅に立っている木にぶら下げられたサンドバッグ。
それが、先ほどからの音の主のようだった。
正確に言えばもちろん違う。音を出していたのは、その前に立っている小さな人影だろう。
あたしと同じ制服に身を包んだその人影は、声をかけるよりも一瞬早く振り向いていた。
さっきまでの音を出していたのがとても信じられない、小さな体。
まさか相手が女の子だとは思わなかったあたしは、少し面食らっていた。
この娘、何処かで見たことがある。
「こんにちはっ!」
そう思った時には、もう相手のはきはきとした挨拶が耳に届いていた。


「格闘技ぃ?」
つい、出てしまった疑わしげな声にも、彼女は大して気分を悪くした様子はなかった。
それどころか格闘技の楽しさ、奥の深さについて懇切丁寧に説明までしてくれた。
あたしはその半分も理解出来なかったし、したいとも思わなかったけど。
すいませんけど。
彼女はそう言って、練習の続きを始めた。
サンドバッグの前に立ち、一心に叩き続けた。
たくさんの汗が、彼女の体を流れていた。
九月の、まだきつい日差しは、容赦なく彼女を照らしていた。
だけど、サンドバッグから出る音はそのペースを緩めなかった。
「ねぇ・・・」
そんなに大きくはなかった筈のあたしの声に、彼女の動きが止まった。
「格闘技って・・・たのしい?」
ふと漏れた、そんな疑問に、彼女は笑って頷いた。
予想していた通りのその答えが、なんとなく嬉しくて。
「ずるいよ・・・・・・」
そんな言葉が漏れそうになった。
日差しは、日陰にいるあたしを避けて。
眩しいくらいに彼女を照らしていた。








                                      了


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TaS:・・・・・・
柳川  :・・・・・・
TaS:・・・ふぅ・・・
柳川  :随分と・・・間が開いたようだな・・・
TaS:そう・・・ですかねぇ?
柳川  :前に出してから2ヵ月だぞ?ここで貴様が「はじめまして〜。」とか言い出した
        として、おそらく7割ほどの人間はすぐに信じるだろうな。
TaS:・・・残りの3割は?
柳川  :一瞬考えた後に信じる。
TaS:そーかもしれませんねぇ。
柳川  :・・・否定せんのか?
TaS:何故かする気も失せました(笑)
柳川  :そうか・・・(汗)
TaS:と、そうだ。中で名前出さなかったんで、一応言っておきます。この話しに出て
        いるのは、「あたし」が志保、後半出てきたのが葵です。えっと・・・他には特
        に言う事無いかな?
柳川  :それじゃ、今日はこの辺でお開きだな。
TaS:うい。それでわ、TaSでした。であであ〜。