「幸せって何ですか?」 第6章 投稿者: TaS

小さく消えてゆくあかりの姿を、影はただ見続けていた。
ふと、空気がゆれる。それにあわせて揺らぐローブのすそから、小さな声が零れた。
だがそれは誰の耳に届く事もなく空を漂う。
それに満足したかのように影は後ろを向いた。
先ほど。つい先ほどまでここで涙を零していた少女は、今はしっかりとした足取りで視界
から消えようとしている。
あの後、最後の雫を拭き終わったあかりは深々と頭を下げて、そのまま歩きはじめた。
何処へ行こうとしているのかはわからない。
ただ、一度だけ振り返った顔が何故か心に残っていた。
ゆったりとした空気はすべてを溶かすかのような闇に染められてゆく。
夕日が力を無くした世界の中、佇んでいるローブの姿は霞んでいるようにも見えた。
それを自覚しているのか、ほとんどその身を揺らさずに歩きはじめる。
校門から、壁の内壁にそって歩く。彼女の足取りはこの学校の事をよく知っている者のそ
れだ。何処かを目指して、真っ直ぐに歩く。
時を置くごとに暗くなる空気は、強く流れる事もなく漂っていた。
それが一瞬、ほんの一瞬だけ流れを作る。
大気の流れは風となり、ローブの表面を波打たせる。
波はざわめくように一つの方向へと流れていった。
校庭の片隅、小さな花壇。その前で影は歩みを止める。
小さな、本当に小さな花壇。
だが手入れは行き届いているらしく雑草の一つも見つからない。小さな花だけがその場を
彩っていた。
「終わったの?」
何処からか聞こえる声に、ローブの人影は足を止める。
見渡すまでもない。
すぐ目の前で花壇を覗き込んでいる人物から出た声だ。
だがその声色には妙に現実味が無い。
何か考え込んでいるような、そして落ち込んでいるような声だ。
ローブの影は、その声に軽くうなずいて答える。それが見えた訳ではないだろうが、それ
でもしゃがみこんでいた影はゆっくりと立ち上がった。
「・・・ご苦労様、姉さん。」
立ち上がった影、来栖川綾香の声にローブはその表面を再度揺らした。
顔の上に影を作り出しているフードを、どこか儀式的な色を持った手順で取り除いてゆく。
いつの間にに出ていたのだろうか、丸い月が世界を照らしていた。
真っ白な燐光。それ以上に白い肌。
真っ黒な空。それ以上に黒い瞳。
緩やかな月光に浮かんだ顔は、来栖川芹香の物だった。



『You're My Love』 泣きたいくらいに大好きだから



「ねぇ・・・」
小さな声が綾香の口から零れる。
姉妹は、花壇の横にある小さな柵にもたれ掛かるようにして二人並んでいた。
月の光の照らす中、姉妹は何かを待つようにそこにいる。
綾香の声は、その奇妙な世界を微かに揺らしていた。
「何?」
答える声も小さい。だがはっきりと聞こえる声だ。
綾香は自分の姉がこんな風にはっきりとした声で(それでも大きな声とは言えないが)喋
るようになったのはいつの頃だったかと思い返す。
そして、それが馬鹿な考えだったと一人苦笑した。
(そうよね。ちょうど・・・今頃からなのよね。)
姉の三人の友人の姿を思い出す。一人の男性と二人の女性と。
そして目の前で自分を覗き込んでいる姉の姿を見つめる。
「ううん、何でもない。」
(そっか、だから姉さんはわざわざ・・・)
口に出した声と心が出した声。
そのどちらを聞いたのか、芹香は不思議そうな顔をしている。
「さ、もう帰ろう。」
そんな姉の姿に微笑みかけながら綾香は立ち上がる。
しかし芹香の答えは、小さく首を振りながら出てきた。
「もう少しだけ、待ってちょうだい。」
「へ?」
間抜け、といっていい綾香の声。それくらいに芹香の答えが意外だったのだろう。
芹香は月を見上げたままでいる。
その表情が見えない事に多少の苛立ちを感じながら、綾香は少し前の ---或いは遥か未来
の--- 芹香の言葉を思い出していた。
不可能の実現。
今世紀最初にして最大の発明。
魔法と科学の融合が生み出した奇跡。
そんな興奮気味な研究者連中の的を射ない説明ではなく、芹香の発した一言。
”タイムトラベル”
その言葉に秘められた輝きは誰もが夢に見たものであろうが、それ以上に危険なものであ
ると芹香自身が言っていた。
未来との、或いは過去との邂逅。タイムパラドックスなどという言葉はあるが、それが実
際に何を引き起こすものなのかは誰も知らない。
こんな人体実験まがいの事、本来なら研究所の出資者のご令嬢がする訳もないのだが、こ
ればかりは芹香無しでは出来ない事だった。
「用事が終わったらさっさと帰って来るんだよ。」
自分たちを送り出す時に研究所の主任が言った言葉だ。
こんな大掛かりなプロジェクトを立てて、わざわざ過去へと旅立ってまでする事が恋敵の
応援と知ったら、あの主任の馬面はどう変わるだろうか。ここ数日の間に思い付いた綾香
のいたずらの一つだ。
だがその言葉は正しいと思ったし、綾香にしても最初からそのつもりだった。
しかし、まさか姉がそれを分かっていない訳もあるまい。
「ちょっと、姉さん。」
少し強めの声で言ってみる。
だが、芹香は聞こえていないかのように空を見続けていた。
綾香からはそのつむじが僅かに見えるだけだ。何を見ているのかも分からないでいる。
何を見ているのだろうか。興味はあったが、その視線の先には丸い月以外には何もない。
もっともこの姉には余人の瞳には映らない物が見えるらしい。そういう意味では綾香の目
など当てにはならないだろう。
「姉さんってば!」
苛立ちを隠そうともせずに声を上げる。だが芹香は霞むような声で気のない返事を返した
だけだった。綾香の声を聞いていないのはすぐに分かる。
「姉さん!!」
強引に芹香の肩をつかむ。
だが、それを引っ張る力は肩に触れると共に萎えてしまった。
小さな肩が伝えた、ほんの小さな振動。
しかしそれは妹である綾香にはとてつもなく大きな揺らぎに感じられた。
「姉・・・さん?」
「うん、大丈夫だから。」
小さく震える声が綾香の耳にやっと届く。
湿ってはいないその声は、妹の綾香でさえ一度も聞いたことがない声だった。
その声に綾香はつい先ほどの自分の考えを思い出す。
(・・・恋敵、だったんだよね。)
しかし「敵」という考え方は出来なかったのだろう。それが綾香の知る姉の姿だ。
この時代に来てから、芹香は一度たりとも迷う素振りを見せなかった。
それはつまり、散々迷った結果ここに来た、という事なのだろう。
(悩んで悩んで、そんなに辛い思いをして、なのに・・・何で姉さんはここに来たの?)
聞いてみたいと思った。尋ねてみたいと思った。
でも今は、それをする時じゃない。
綾香はそんな姉の姿を、芹香は後ろからぎゅっと抱きしめていた。
月の光を感じた。
目を閉じた筈なのに、綾香は優しい光を感じていた。
二人がやってきた未来と変わらない光。
抱きしめた手に小さな雫が落ちる。
月の綺麗な夜だった。







                              第7章へ、



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TaS:こん??わ、いつもおんなじ挨拶でなんですが、TaSでございます。皆様方に
    置かれましてはご機嫌麗しゅう。    
柳川 :まぁ、今回はそんなに時間もかからなかったようだな。ところで、確か次回で終
    わりのはずだったな?
TaS:・・・そんな事言ってましたっけ?(汗)
柳川 :・・・まさか、この後に及んで伸ばすつもりか?
TaS:ぜ、全8章って以前に言ってませんでしたか?
柳川 :7章って言っていた!また勢いだけで書いているうちに長くしたのか貴様!!
TaS:な、長くしたんじゃないんですよ。(瀧汗)
柳川 :・・・ほう?
TaS:大宇宙の摂理に基づいて長くなっただけです(爆)
柳川 :それを愚かと言うのだっっっっ!!!

  どげしゅっっ

柳川 :では、続けるとするか。
TaS:・・・出来れば救急車呼んでいただけません?(だくだくだく・・・)
柳川 :妙な音を立てているんじゃない。終わったら好きなだけ呼んでやるからそれまで
    待つんだな。
TaS:妙な音、ですか・・・私には自分の血が流れる音しか聞こえないんですけどね。
柳川 :さあ、続けるぞ。まずはこの章について何か言う事は?
TaS:あれ?おじいちゃんこの前17回忌迎えたばっかりなのになんでここにいるの?
柳川 :・・・をゐ。
TaS:やっぱり13回忌と間違えたから?でもあれは坊さんが勝手に間違えただけだか
    ら俺にいわれても・・・(実話)
柳川 :やかましいっ!!

  どげすっっ

TaS:な、何をするんですかいきなりっ!!
柳川 :妙な夢見ているんじゃないっ!それよりこの章について何か言う事はないのか?
TaS:まったく乱暴なんだから・・・えっと、今回はほかの章とは少し違います。解答
    編&番外編ってところでしょうか。
柳川 :番外?
TaS:はい。この話はあかりの話なんですよね。でもその中でこれと第4章だけはあか
    りがメインじゃないんです。でもむしろとても重要なシーンだと思ってるんです
    けどね。
柳川 :ふむ。で、解答編のほうは?
TaS:これはそのまんま。謎のローブの人物の正体暴露ですね。
柳川 :・・・謎だったのか?
TaS:一応は。(笑)まぁ、綾香の名前を出した時点で隠してないって説もありますが。
柳川 :大体黒のローブなんてファッションセンスの持ち主は他にいないだろうが。
TaS:ごもっとも。それじゃま、この辺ですかね。
柳川 :ああ・・・ところで貴様、何時の間に傷直したんだ?
TaS:へ?傷?・・・ああっっ!!救急車は!?
柳川 :知らん知らん。それではこの辺でお別れしたいと思う。さらばだっ。
TaS:きゅぅぅぅぅぅきゅぅぅぅしゃぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!