「幸せって何ですか?」 第4章 投稿者: TaS

あれからどれくらい走ったのだろう?
気がついた時にはあかりは商店街の中を走っていた。
膝ががくがくする。
気管がひりひりする。
汗ばむ制服が気持ち悪い。そんな普通の感覚が何故かおかしかった。
思いっきり笑いたい気分だった。
自分の呼吸の音が耳障りだった。
なのに、自分の足を止められないでいた。
人の波に逆らうように必死に足を動かす。
その足は本当に動いていたのだろうか?それすらもわからないままにあかりは走っていた。
「あかり?」
急にかけられた声。
その声につんのめる様にして足が止まる。
それが自分を表す名前である事に気づくまでさらに数秒を要した。
顔を巡らせる。
しかしぼやける視界には何も映らない。
あかりは自分が涙を流しているのだと思い目をこする。
だがその手を濡らしたのは額に浮かんだ汗の球だけだった。
相変わらずぼやけたままの視界。諦めてそのままで見回してみる。
歪んだ世界。
霞んだ世界。
霧の世界。
曇りガラスの世界。
その中に一つだけはっきりと映るものがあった。
「し・・・ほ?」



  第四章 『Dear Friends』 ありがと



目の前に座っている志保がストローを口にくわえる。
その動作をあかりはぼんやりとみつめる。
ヤックの2階は多くの人で賑っていた。その喧騒の中、二人は黙って見つめ合っている。
いや、相手を見ているのはあかりだけだ。
志保は店に入ってから一度もあかりの方を見ていない。
あかりにしても瞳は志保を向いているが、その中には何も映ってはいない。ただ眼がそち
らを向いているというだけのことだ。
そのまま、かなりの時が流れていた。
 ズズッ
志保の手にあったコップからそんな音が響く。
「・・・ねぇ、志保。」
何か気まずそうにそれをテーブルに置き、それから意を決した彼女が口を開こうとした時
にそんな声が聞こえた。
目を上げるとあかりはこちらから僅かに視線を逸らしている。
だが何かを言おうとしているのはわかった。
だからあえて先を促そうともせずにあかりを見る。
「昨日・・・」
言いながらゆっくりと顔を上げる。
「昨日、来栖川先輩が来なくって、その時・・・」
細かく区切りながら声を出すあかり。
その表情は必死にも、夢を見ているようにも見える。
「私、そんなに・・・落ち込んで見えた?」
「は?」
予想外といえばあんまりにも予想外な問に志保はついそんな間抜けな声を出してしまう。
だがあかりの顔にはからかっているような雰囲気はない。
それを確認するようにあかりの顔を覗き込み、それから視線を上げてゆく。
あかりがこっちを必死な表情で見ているのが分かる。
その様子に少し当惑しながら志保は唸るような声を洩らす。
「私・・・見てわかるぐらいに落ち込んでたのかな?」
「そうでもないと思うけど。」
昨日の屋上の光景をゆっくりと思い出しながら志保は答える。
確かに残念そうではあったが、落ち込んでいる、というほどには見えなかっただろう。
「・・・じゃあ、志保はなんでわかったの?」
確かにあかりの言う通り、志保にはあかりが落ち込んでいるのだとわかっていた。
わかっていたから何気ないように振る舞っていた。
目の前の人影を見る。
昨日よりもさらに落ち込んでいる。でも何か違う。
迷っているようにも見える。でも何か違う。
悲しんでいる。それは間違い無いだろう。でも、何を?
「・・・なんでだろ。」
こんな答えしか返せない自分が憎らしかった。


だが、その答えはあかりに小さな変化をもたらした。
何処が変わったのかはわからない。
安心した、というのが近いだろうか。
「あかり・・・」
「ねぇ志保。私って・・・私って幸せなのかな?」
志保の洩らした声は、少し元気になったあかりの声にかき消される。
「は?」
いきなりの質問に戸惑う志保。だが自分を見つめる瞳は真剣なものだ。
その瞳に答えるように見つめ返す。
幸せだよ。
そう答えてやりたいと思う。そうあって欲しいと思う。
でも安易にそう答えてはいけないように思えた。
「それは・・・あかりじゃなっきゃわかんないでしょ。」
だからそう答えた。
それを聞いたあかりの顔は少し残念そうで、しかし何処かほっとしたようにも見えた。
席を立つあかりの姿を見ながら、志保は自分も安心している事に気づく。
「ありがと。」
そんな声が聞こえた気がした。





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TaS:こん??わ、”そろそろ自分でも後悔し始めた”TaSでございます。
柳川 :っていきなり弱音を吐いてどうする。
TaS:いややっぱり長いのは・・・ねぇ。
柳川 :長い長いと言うが、それ程に長いわけでもあるまい。
TaS:世間様から見ればそうかもしれませんがね。私は生来飽きっぽい性格なんです。
柳川 :威張って言うな・・・
TaS:次回あたり全員死んで終わり・・・ってのは怒られるか、やっぱり。
柳川 :イデオンかい。だいたい怒られるとかどうとかって以前の問題だろうが、それは。
TaS:そらそーですな。ほんじゃま、ボチボチやってますわ。それではこの辺で。
柳川 :・・・もう終わりなのか?
TaS:終わりです。私も眠いの。でわでわ〜。