「幸せって何ですか?」 第1章 投稿者: TaS

「貴方は幸せですか?」
突然かけられたそんな声に首を巡らす。
夕暮れが朱に染め上げた町並み。
その中には二つの人影だけが浮かんでいる。
すなわち彼女と、その友人とだ。あとは電柱の伸ばす影が見えるだけだ。
声をかけた相手は、しかし何処にも見当たらない。
「・・・?」
首をかしげもう一度視線を巡らしてみる。
巡らしながら先ほどの声を思い出してみる。
煙ったような、押し殺したような、しかし優しさを感じる声。
聞き覚えはないはずだ。少なくとも少し前を歩いている友人が出したものではない。
頭の中でもう一度先ほどの声をリピートしてみる。
だが、何故かはっきりとは思い出せないでいた。
「ちょっとあかりー!何やってんのよ!」
彼女の連れが考え込む友人の姿に苛立ちを覚えたのか、そんな声をかける。
神岸あかりはその友人に謝罪の声を発しながら足を速めていった。


「貴方は幸せですか・・・ねぇ。」
二人の声が聞こえなくなった頃、通りに揶揄するような声が漂っていた。
そこには一人の人間が、体中を覆うローブのようなものに身を包んだ人間が大地に腰を下
ろしているだけだった。
先ほど、神岸あかりがいくら探しても見つからなかった影。
それが今は地面に敷いた布の上に胡座をかいている。
その姿勢は崩されたものではなく、むしろ儀式的なものを連想させた。
だが先ほどの皮肉めいた発言は彼−それとも彼女−の口から出たものではないようだ。
影の後ろに潜む闇の中から聞こえる。それは間違いなく女性のものだ。
小さな皮肉と少しの悲しみとがその声を彩っている。
「・・・それでいいの?」
「そのために、来ました。」
ローブの人物の声には悲しみの色などない。
ただ、何かしらの決意だけが感じられた。



  第一章 『One day,Good day』 ある晴れた日に、



「ん〜〜〜〜っ!いい天気ねぇ。」
そんな事を言いながら伸びをする友人の姿に、あかりは頬を緩ませる。
昼休みの屋上には自分達のほかにも何人かのグループが早くも昼食を終えて春の日差しを
堪能していた。
屋上のベンチは数が限られているため、天気の良い日はたいてい塞がっている。だが今日
に限ってはよほど幸運に恵まれていたらしい。二人は一番眺めの良い特等席ともいえるベ
ンチに座っていた。
「こう天気がいいとさ、午後の授業サボってどっか遊びに行きたくならない?」
「だめだよ志保。授業にはちゃんと出ないと。」
そんな他愛のない会話をしながらあかりは自分の弁当箱の蓋を眺めた。
可愛い熊のイラストが描かれたあかりのお気に入りである。
もっとも彼女の幼なじみに言わせると「かわいくねークマ」とのことだが。
「・・・こんなに可愛いのにね。」
「どーかしたの?」
袋から出しかけた弁当箱に呟きかけていたあかりに、志保は怪訝そうな声をかける。
なんでもない、そう答えながら小さく首を振り、あかりはフェンスの外へと視線を向けた。
「ん・・・ほんとにいい天気だね。」
そう言って春風になびく髪を押さえる。
話を誤魔化された形になる志保にしてみればあまり面白くもないが、しかしこうやって過
ごすゆっくりとした時間はけして嫌いな物ではない。
短い髪が頬を撫でるのを感じながら空を見あげる。
春、というには少し遅いような時期だが、桜もとっくに散ってしまったこの空が、かえっ
て生命の息吹を感じさせた。
霞むような雲がゆっくりと千切れてゆく。空の色との明確でない境界が美しかった。
いつも騒がしい彼女だからこそ、このような退屈の楽しさも知っているのかもしれない。
「いー天気よねぇ。」
煙るような蒼を見上げながら先ほどと同じ事を志保は呟いていた。


ゆったりとした時間を楽しむのも良いが、それだけではすまない事というのも存在する。
空腹、というものもその一つだろう。
それに耐え切れず、また耐える理由も見付からない二人がどちらからとも無く昼食を取り
始めた頃。
「あれ?あそこにいるの来栖川先輩じゃない?」
「へ?」
あかりが急にそんな事を言い出した。
志保はあまりにも間抜けな自分の返事に内心舌を打ちながら視線をおろす。
あかりの言う通り、今屋上への階段を上がってきたのは上級生である来栖川芹香だった。
少し困ったような顔をしながら片手に小さな包みを持ち、辺りを見回している。
「何やってるんだろ。」
「ご飯食べる所探してるんじゃないかな?」
二人がそんな事を話している間にも芹香は首を巡らしながら歩いている。
「来栖川せんぱーい!一緒に食べませんか!?」
それを見ていたあかりが少し考えた後、急に大きな声を出した。
「あかり?」
「志保、いいでしょ?」
「そりゃまぁ構わないけど・・・」
志保が少し戸惑っている内に芹香は近づいてきた。
「・・・・・・」
「え?いいんですかって?はい、一緒に食べましょうよ。」
にっこりと答えるあかりに芹香はゆっくりと頭を下げ、ベンチの端に腰掛ける。
「あ、ほら先輩せっかくなんだし真ん中にどーぞ。」
志保が声をかける。先ほどまでの戸惑いはもう無いようだ。
小さな声でよろしいのですかと尋ねる芹香。志保はにっこりと、或いはにんまりと笑いな
がら親指と人差し指で環を作る。
そんな二人を見て、あかりは嬉しそうに顔をほころばせていた。


「あ、来栖川先輩のお弁当おいしそうですね。」
「・・・・・・」
「え、あなたのお弁当もとてもおいしそうです、ですか?ありがとうございます。」
「いーわねぇ、二人ともおいしそうなお弁当で。なんで私だけ購買のパンなのかしら。」
「ほら志保、私の分けてあげるから。」
「あ、悪いわねあかりー。え、よろしかったらどうぞ、って先輩ほんとにいいの?なんか
催促したみたいでちょっと気が引けるわねぇ。」
「もう、志保ったら。」
「ちょっとあかり、そういう”しょうがないなー”って顔はヒロの馬鹿に対してだけにし
てよね。」
「でも・・・」
「でもじゃないの。あ、先輩これとってもおいしい!なんていうの?え、よく分からな
い?そっかー残念。」
「あれ?志保もお料理するの?」
「しないわよぉ。でも名前ぐらい知っておきたいじゃないの。あ、あかりのもとってもお
いしいよ。」
「・・・・・・」
「え、ほんとにおいしいです、ですか?あ、ありがとうございます。」
「そりゃあかりは家庭料理の鉄人だからねぇ。でもなーんかあたしが誉めた時と態度が違
わない?」
まあ、諺にもなるくらいだから三人よればかしましいのである。もっとも騒いでいるのは
主に志保だが。
あかりは困ったような顔になる事もあるが、それ以上に楽しそうである。
芹香の表情ははっきりと変化する事はないが、それでも楽しんでいるのは何と無くだが分
かった。
騒がしい時間ではあった。
けれども、優しい時間でもあった。




                              第2章へ、

							
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TaS:という事でお久しゅうです。TaSでございます。
柳川 :・・・まぁ、何が”という事”なのか、ってあたりは突っ込まないでやろう。
TaS:あんがと。
柳川 :しかし本当に久しぶりだな。
TaS:ええ、実はネット停止くらってました(笑)おかげで半月の間辛かった。
柳川 :どうせ自業自得というやつだろう。で、これはその間に書いたって事か?
TaS:はいはい。どうせ暫くはアップできないだろうって思って、じゃあ長いのでも書
    こうかと。
柳川 :で、半月かけてまだ書きあがってないのはどういう訳だ?
TaS:聞かないで(涙)
柳川 :しかも最初は全3章ぐらいになるはずが今じゃ7章で終るかどうかとなっている
    のはどういう事だ?
TaS:因みにまだ4章までしか書いてません。
柳川 :まとめてアップしないのは・・・時間稼ぎか。
TaS:それだけじゃないんですけどね。ま、それも否定はしません。

TaS:あ、少しは話の方にも触れましょう。まずは状況説明みたいなものです。
柳川 :そういう物は読めばわかるようにするものではないのか?
TaS:いーから、いーから。えっとこのお話は雅史EDの後、五月の上〜中旬ぐらいが
    舞台です。あかりは髪形を変えていますが、それ以上の進展は無し。
柳川 :それだけか?
TaS:それだけです。だっていきなり「実は雅史が病気で・・・」とか言われても困る
    でしょ?
柳川 :で、他には?
TaS:えっと・・・まぁ、第2章以降にしましょ。

柳川 :で、貴様半月の間他には何をやっていたんだ?
TaS:いろいろネタを考えたりもしていたんですよ。
柳川 :例えば?
TaS:マルチを主役にした大河時代ドラマ『水戸マル門』。
柳川 :をゐ。
TaS:ご存知「黄門様」マルチとその一行が織り成す愛と友情と正義と冒険の物語です。
柳川 :待てい。
TaS:きめのせりふは「こちらにおわすは天下の第三代ふきふき将軍・・・」
柳川 :待てと言っている!
TaS:最初は『マル黄門』ってタイトルだったんですがね。なんとなく卑猥に聞こえな
    くもないんで止めました。
柳川 :やかましい!!
TaS:あ、これネタフリー宣言しますので誰か書いてくれませんか?
柳川 :しかも他力本願・・・
TaS:それではこの辺で。第2章は明日アップします、多分。
柳川 :多分って・・・
TaS:ごきげんよう、TaSでした。
柳川 :はぁ・・・(何とかならんのかこいつ?)