彼のトラウマ 投稿者: Rune
 ……ごめんなさい。先に謝っておきます。メールアドレスは入れておきますが爆弾とか
勘弁して下さい。いや、本当に(汗笑)。


                              (雫:彼のトラウマ)


 長瀬祐介は怯えていた。
 彼は、ある意味、禁断の行為に手を出していたのだった。
 例えば?
 例えばCDである。
 精読用のCDと、保存用のCDを購入したとする。それが『WHITE ALBUM』
だというのはまあ言う迄もないとして、もし、保存用のCDのパッケージを開いてしまう
ことがあるとしたら、それはまさに千鶴をも恐れぬ人類への背信行為であり、同時にその
包装の残骸は彼の背中に漆黒の烙印を押すだろう。永久に消えないそれは、新しいCDを
もう一枚買ってしまう迄、彼を苛むことをやめはしない。
                            (悲しきはまさに消費者)
 それはともかく。彼は、無事に、どうにかそれを終えた。
 そう。そうだ。
                             (晴れ渡る青空のCG)
 見られなければ、どんな行為でも彼を咎めるものはない!
 そうだ、祐介! 君は今、まさに自由になったのだ!
 目撃者はいない! いても消せ! 消しちまえ、メンズビームで!
 ……うきうき気分で祐介はスキップしながら、ざっと手を洗い、ツイストを踊りながら
教室へと向かった。
 そこから出る寸前に数学の教師とすれ違う。
 大丈夫だ、と彼は確信していた。
 そうだ。大丈夫。別に彼は咎められるようなことはしていない。
 そうだ。CDだって、本当は聴くものだろう? 保存するためだけにあるんじゃない。
 そうだ。僕は正しいんだっ。
 ……彼は勝ち誇って、頬を紅潮させながら勇ましく教室の席までケンケンパで帰った。
 数学教師はその後光までさす背中(あれ? この位置から後光なんて言うのかな?)を
訝しげに見ながら、ふと、彼の入ろうとしていた個室を見上げる――

『男子トイレ』

 彼は肩をすくめてドアをくぐり抜け――
 そして――……


                                ……………………
                                    …………
                                      ……


 数学の時間。
「えー。今日は悲しいお知らせがあります」
 その老数学教師は白い眉根をそっと寄せて至極残念そうに言った。
「長瀬君――」
                                  ――その時。
                                 彼は確信した。
                                   ――常に。
                               ――常に、世界は。
                         裁きの鉄槌を下すのである、と。
                          だが、人はそれを残酷と呼ぶ。
                          世界の敵であることを誰が――
                               誰が。望もうか――


 そうして、教師は、悲しげな羊の目をして言った。
「長瀬君――せめて、きちんと流してくださいね」


                                わき起こる哄笑。
                   彼のクラスメイトたちが高らかに合唱する――


「なーがせながせー、きちんとながせ〜!」
「ながせよながせー、きちんとながせ〜!」


                          やめてくれと彼は悲痛に叫ぶ。


 そして――


                       (渦巻き状に表示される教室のCG)


 細いシャープペンシルの芯をかちかちと伸ばし、意味もなくノートの上を走らせる。
 やがて芯はポキンと弱々しく折れて、僕の顎をちくりと刺激した。
 窓から流れ込む緩やかな風がゆらゆらと浅い炉のカーテンを揺らし、色のない無声映画
ような授業風景をよりいっそう別世界のことのように感じさせている。
 西日の差し込む教室で、舞い散るチョークの粉を肺いっぱいに吸い込みながら、濁った
瞳の生徒達がかりかりかりかりと文字の羅列をノートに書き続けている。
 ここ数日の僕は、なにか不思議などろりとした時間の中を漂っているような気がしてい
た。
 毎日同じ時間が同じ映像で繰り返されているような…そんな奇妙な錯覚を覚えている。
 繰り返される、なんの代わり映えもしないくだらない毎日。
 やがていつの頃からか僕は、この退屈な世界から音と色彩が失われてしまっていること
に気付く――


                           (かくして本編に続く……)
                   (……って、こんな理由、嫌すぎじゃんっ!)


****************************************


 初めまして。
 えーと……コメント不可。何でこんなん思いついて、しかもこの時期に出すんだか……
 でも、こういうので狂気に踏み込んだのかもなーとか思うと、結構祐介って可愛くない
でしょーか?(笑)
 初顔の人間ですので、長々コメントはしないです(笑)。
 失礼しました〜、よいクリスマスを!

http://www.asahi-net.or.jp/~iz7m-ymd/leaf/masata.htm