この魔法、君のために 投稿者:Rune
『この魔法、君のために』

 昔から、自分を憎んでいた。他人を憎んでいた。理由として、強いて挙げるのなら……
 どうして、自分は、憎むことを知ってしまったのだろう、というところだろう。
 環境のせいにするな。そう誰かが言っていた。
 馬鹿にするな。自分は確かそう言い返したのだと思う。
 そんなことは理解っている。理解っていて、なお憎まずにはいられない。環境で人格は
形成される。だから、憎むことの虚しさに気づいても、憎むことをやめられないような、
そんな人格を創る……いや、造る、そんな環境もある、ということ。
 多分、こういう心理は誰にも理解はできないだろう。
 ……長瀬祐介がそうであったように。
 長瀬祐介は救われることを望んでいた。心の表層ではどうか知らないが。
 自分も、救われることを望んでいた。しかし、その望むということが「考える」という
動詞を放棄したいだけなのだと気づいた時、望むことをやめた。
 長瀬祐介と自分は似ている。多分、みんな、どこかそうなのだろう。
 個性なんてそれこそどうでも良かった。所詮、50億もいればどこか似たような人間が
できるのは仕方のないことだ。精神病に冒された人間が腐るほどいたって何も問題はない
でしょう?

 自分が純粋で綺麗な人間だとは思ってはいなかった。自分の内部は、黒が圧倒的にその
割合を占めている。黒=ダークなのではない。安直なものじゃない。自分はいつも他人を
憎んでいた。自分以外の何かをいつも憎んでいた。愛すると同時に、いつも憎んでいた。
そんな自分にも生きる価値がない。多分、今だってそうだ……
 救われたいとは思わない。憎悪が成仏の妨げになるというのなら、甘んじて不浄の謗り
も受けよう。だから、この憎悪を直視したい。自分の半身をなすこの感情を見極めて……
そうでもしなくては、何だか負けたままのような気がして気分が悪いから。
 だから、憎むことを自分から放棄しなくなった。
 破壊衝動を肯定している、と言えば、その自己欺瞞が実によく理解る。
 何だっていいのだ。憎しみの来る源を見極めたいと勿体ぶろうが、憎むことを捨てよう
ともせずにただ諦めてしまったと嘆かれようが、どうでもいい。
 ただ、理解できるのは自分だけ。みんなそうだ。自分に最終的に決着をつけられるのは、
自分だけ。
 けれど。
 昔々から。小学校とかよりずっとずっと前から。自然だの世界だのだけは受け入れた。
 そこには嘘がない。厳然として在る厳しい理。
 それは甘いものではない。憧れすら許さぬほどに。

 昔から、魔法使いになりたいと思っていた。
 彼女が何を思ってその道を志したかは、知らない。
 母親に甘えることのできなかった彼女。
 彼女が寂しさのために、その憎たらしいほど抽象的な文字の塊に手を出したとしたら、
それは果たして温もりを与えてくれただろうか?
 その答は、きっと本人しか理解らない……

 世界は、こんなにも、美しい。
 教えたい。昨日窓から四半刻も俺を魅了した切ないほどに胸焦がす昏い紅を。
 伝えたい。南に降り立つ雨が、赤茶色の瓦を、甘く透き通らせることを。
 見せたい。空は高く、という表現を真っ向から否定するかのように、身近なそれは低い
低い山の中腹を撫でて過ぎ行く、霧と見紛うかのごとき白き雲。空は低い。ここにおいて、
雲は限りなく人や、獣や、アスファルトや、海や、街路樹や、夜毎に月光をその身に受け
る田圃の畦道などに限りなくその空隙を狭めようとしている。
 それは、切り取るだけ無駄なこと。感動した風景を写真に残しますか?
 心打たれた色彩を、狭いキャンバスの上に色褪せるまで綴じ込めますか?
 まして、それよりもさらに『視る』という次元で劣る文字に何を託そうと?
 雲は大地を覆いながらも、しかし、光を大地に届け来る。それはまさに幻想。
 光の魔法。色という名の。明るい白が、この南を優しく包んでいた。
 それも昨日の話。今は、空は嘘のように高く――しかし、淡く、在る。
 ほうき雲。それは入道雲のように力強くない。入道雲は、空の青と、雲の白の境界線が
はっきりと別れているでしょう? ほうき雲はそれの反対。雲は在る。在るけれど、何処
から何処までが雲で、何処から何処までが空なのか判然としない。すずめたちが、ほら、
隣の家の屋根で羽を休めながら賑々しく囀っている。太陽が優しくこの地に笑顔を見せる
時は、いつもそうしている。
 世界を憎む心。けれど、こうして愛する心。
 憎むことしか知らない訳じゃない。言い訳? 何だっていい。
 ただ、ここに、全てを忘れて、常緑樹の緑色の葉や、ひなたの匂いがする土と草の香り
や、犬や、雑踏の中の人々や、窓辺に干されている布団やらと同じ陽光を浴びているその
事実がありさえすればそれでいい。

 魔法。それは、つまり総称して、「不思議なこと」。
 相反するものをその身の中に併せ持ったりするのも魔法。
 そもそも、同じ動物なのに、なぜ、感情なんてものが在るんだろう?
 それもまた魔法。
 そして。
 人の中の憎しみを、明晰にできない苦しみを、人の産んだ文字によって結論できたら、
それは魔法って呼べないだろうか?
 絶え間なく流れゆく自然。それの全ては、そこに居合わせる人間でしか理解らないのだ
けれど、もし、それを一滴なりとも伝えることができれば、それは魔法って呼べないだろ
うか?
 自分の名前を使って、人が物語を織りなしてくれる。それが魔法でなくて何なのだろう?
 その魔法に応えよ。恥などは後から従いて来よ。
 自分では表しきれないもの。御しきれないもの。それを、魔法という言葉に託した。
 世界をこの目で視るために。世界をこの耳で聴くために。世界をこの手で書くために。
 彼女が、温もりを魔法に求めたように、自分は世界の意味を魔法に求めた。
 彼女は、その温もりをついに得た。
 自分の願いは……これは、叶うことを望まない。
 叶うのではない。叶えるのだ。陳腐と呼ぶなら呼ぶがよい。下劣と思うなら叫ぶがよい。
 願わくば、この手に魔法を織るための、普通の筆を。
 そして、この愚劣な魔法を目指す者の、その想いの一片でも、君の下へ。

****************************************

 あああ、書かないつもりだったのにぃ! 馬鹿馬鹿、俺の馬鹿っ!
 でも、あそこまで書かれたら、これは魔法使いを目指す者として応えずばいられないよ!
健やか「……馬鹿馬鹿とか言いつつ、きっちり言い訳してるところが、実に、るーちゃん
   らしいね」
 あ。すこちゃん(<健やかちゃんの愛称)。
健「しかも、これ、Leafのキャラが体裁程度しか出てないよ」
 ぎくぎくぎくぎくっ!
健「アルルさんのはきちんとLeaf小説してるのにねー」
 はうはう(さめざめ)。
健「修行が足りないねー」
 おっしゃる通りです……はい……
健「……で? 禁を破って復活するの?」
 しません。エクストリーム落としてこなきゃ。
健「余計な軽はずみ的言動で、総当たり戦がなくなったんだよねー」
 あうあう(泣)。だってだって、十何人とカードしてたら全員分エンディング見るのは
大変じゃない。まさか、そういう感想メール送ってからいきなり新ヴァージョンで直され
るとは思いもしなかったんだもの(涙)。
健「なかなか熱意の感じ取れる素晴らしい話だねー……意見送った方はまだ全員分のED
 を見たことないってゆーのに」
 ひあああ…………(放心)
健「マゾヒストかッ! おまえはッ!」(18禁ページでなきゃ絶対できないギャグだ)

「所詮、SS作家は文と文でしか語り合うことのできぬ不器用な生き物」
 昔の昔に(って言っても12月頃の話だけど)書いたこの言葉。ある方からのメールで
引用されていて、実は死ぬほど不用意なことを言ったんだな、と思ってしまいました。
 実は、これ、Gガンダムからぱくってきた台詞です。でも、言い得て妙です。
 詩はあくまで端的です。故にこそ、端的な部分から広がる想像の翼が、描写足らずの処
を補ってくれます。「詩こそが物事の本質を突ける」とはN・H・クラインバウムがその
作中で登場人物に言わせた言葉。自分は、この「詩」の次にその本質を突けるものこそが、
「物語」であると信じています。自分が目指すものは、詩と物語の融合です。
 過去に完全に成功した例は、これは非常に少ない。詩的な表現を借りただけのものは、
考慮の外においての話です。
 さて、こんな、成人式も出席せずに泥酔した友人たちに電話口で罵られた20前の若造
が、その目的も達せずにあんな台詞を言うだけの資格があったかどうか。
 謙遜抜きで言えば、あったと思います。自分は、少なくとも伝えようという魂があった
から。
 でも、それはせいぜい、ぎりぎり及第点レヴェル。おちこぼれ一歩手前どころか一歩手
遅れの、そんな状態。気を緩めばその資格は簡単に失われてしまう。
 だから、いつも必死に書こうと努めます。また当分沈黙してますが、その想いに揺るぎ
はありません。いつか、自分は魔法を書いてやろうという野望が在る限り(笑)。
 自分の生きる目的は、真面目に言うなら上記の通り。無理だろうな、とは思います。
 でも、そんな鯱張ったものでもないです。誰だって疑問に思うことだし、それをほんの
少し大袈裟に騒いでるだけ。歴代の哲学者や宗教家たちは何らかの結論を出せた方もいる
訳で、自分もそれにあやかりたいだけなのかも知れない。
 では、また参ります……とりあえず、今年の抱負は「打倒SEAユニット」だっ!
健「そーゆーできないことを公言するなってば」
 ふっ! 叶わないからこそ抱負というのさっ!
健(嘆息。何か色んな意味で疲れを覚えているらしい)

 以下、感想&お返事……といきたいんだけど、勘弁(笑)。
 やっとメールの事後処理が終わったので(笑)、自分のところの小説と、ゲームに専念
しなくちゃ(笑)。
 本当はデンパマンの感想(新年分からずっと書いてない。『出航』って何じゃらほい!
とか突っ込みたいけど、色々あるんだけど、書かない)とか、マルマイマーの感想とか、
色々書きたいけど、書かない。書くと絶対自分に負けてレスしちゃうから……(Rune
に餌を与えないで下さい。わんわん)
 本当にごめんなさい。これの感想も……できれば、勘弁して(笑)。
 貰ったら絶対返事書くから(笑)。
 SSを書かれる方なら、ちらとでも後書きの隅っこにあれば、ちゃんと読んでます。
 最後に、アルルさま、本当にありがとう。
 メールで感想を書くと封印を破りそうだし、この想いを伝えるには、この形式が一番と
思ってこうしました。重ね重ね、本当にありがとう。以後、ほぼ決定的に完全的に断絶的
にメールいただいても返事は書きません(<何て偉そうな。すみません)。書いて貰えた
事自体、すごくすごくすごく嬉しかった。ありがとう……