リレー小説の続きです 投稿者:Rune


 誰かが、K.O.状態の浩之に近づいてきた。
 少し旅立ちかけてる浩之以外のメンバーが、思わず緊張してその人物の方に向き直る。
 黒のロングヘアが、朝の陽光で微かな艶を纏っていた。淡い色のスーツと、控えめだが
それゆえに持ち主の美しさを際立たせるアクセサリ。口許に浮かぶ微笑が、彼女の慈悲深
い性格を象徴するかのようだった……部分的に描写をするなら、の話だが。
 まず、目許が問題だった。釣り上がりそうなのを意識して押さえて柔和な表情に保とう
としているらしかったが、もうすぐにでもMAX版鳳凰脚が連打で叩き込めそうなほどに
闘気が高まっているのが見て取れる。
 いや。その前に柏木家の血が暴走するのが先かも知れない。
 とにかく、彼女はロビーでくたばっている浩之の方へと歩みを進める。
 緊張する面々。いや、よく見るとマルチはかいがいしく芹香と浩之の介護に勤しんでい
るし、セバスチャン長瀬は草葉の陰からそれをぢっと見守っている。それに対して綾香と
葵は何となく肩を並べて対峙しているし、智子はにやにや笑いながら「リュウ&ケンVS
豪鬼って感じやな」と興がり、レミィは浩之が倒れる前に雀を追ってどこかへ走り去って
いる。志保はとっくにいない。あかりと雅史は何となく気圧されてはいるが何に気圧され
ているのかは、少しおっとりした性質と、少しずれた感性のために理解できていなかった。
 ……………………
 …………まあ、いい。
 とにかく、琴音だけが明確な恐怖を持って後ずさりして道を開ける。
 その先にはまだ意識の戻らない浩之。
 ハイヒールは圧力の法則に従えば、スパイクの次に攻撃力のある凶器である。
 ぐべふ、とか何とかそんな効果音(PCM)を伴って、彼女は屍を踏み越えた。
 そのまま数歩歩いてから、ふと気がついたようにロビーの方を……つまり、彼らの方を
……振り返る。
 完全に悶絶した浩之と、自分の足下を交互に見て、何事か思案した。
 ぽん、と手を打つ。
「そんなところにお倒れですと踏まれますよ、お客様」
「踏んだだろーが! 今! 確かに!」
 がば、と生死の縁から跳ね起きて浩之が喚く。
 横ではやはり表情の乏しい芹香と、白目を剥いているときに泣き顔だったマルチが、彼
の復活を喜んでいたりする。
「ちょっと未経験な走馬燈まで体験しちまったぞおい!」
「ええ。ですから起きられた方がよろしいです」
 うっすらと微笑する女に、浩之はなおも何か言い募ろうとして……
 急に何だか疲れを覚えてうなだれた。
 上目で見上げると、何やら自分を踏んだ女の額で何かが蠢いているような感覚に囚われ
た。何だか危険を感じて立ち上がる。
「ふう」
 ぱんぱん、と適当に服の埃を払って、床に落としていたバッグを拾い上げた。
「じゃ、しばらく、お世話になります」
 理不尽なものを感じながらも、浩之は既に外の方に向かって歩き出している女性に頭を
下げた。彼女は既にこちらの方には聴覚を向けてない様子で、何のリアクションも示さな
い。いや、むしろその視線の先に全神経を集中させている様子だった。
 唐突に何かの番組で見た人類の敵登場のBGMが、第一種警報とともに頭に流れ込んで
くるのを感じ取って、彼は傍らの芹香とあかりの手を引いて、
「おし、じゃ、チェックイン済まそーぜ!」
 最大速度でロビーに走り込んだ。その最後尾の向こうで、ざわりとシルエットがゆらめ
くのを感じながら、彼は、何だか表現できないもどかしさのある後悔を覚えたのだった。

『面会謝絶』
 掛けられている札がゆらゆらと揺れている。
「社長。あの……」
「ああ。そーだね。ちーちゃんも今日は随分長いなあ」
 一際高く、また札が揺れる。完全防音の部屋なのにドアに掛けられたそれが動くという
事象が、不可思議な波動の強烈さを象徴していた。
「……耕一さんが来てから、みんな無遅刻無欠勤になりましたね」
「うん。実にへーわだね」
「……………………」
「……………………」
 ずずっと、お茶が啜られているかのような効果音。今日もこの街は、無事に昼を迎えよ
うとしていた。
 まだ、札は揺れ続ける。

「……以下略ってことで、そーゆー伝説があるのよ」
「はぁ〜、そうなんですかぁ」
 こくこくとマルチが頷いた。真面目に聞く気のない浩之が欠伸一つして半眼で(もっと
も、彼は誰かと相対していなければ、基本的にいつもそのように目つきが悪いのだが)、
景色を愛でている。あかりは何やらマルチの横で志保に付き合ってはいたが、ちらちらと
浩之の方を気にしていた。
 第一話の誰かさんの口上そのまんまで、志保は続ける。
「それに基づいて、地底人は今よりもずっと優れた種族だったって話もあるの」
 待てや。おら。
「鬼は彼らと敵対して闘っていたんだけど、年月を経る毎に、種族維持能力に優れていた
地底人に押されていったのよ。そこで選ばれし伝説の勇者が……」
 痕やってないと思って作者に喧嘩売ってんのか、てめえ!
「……? どーも、さっきから気に入らないことを言われてるよーな……ま、いいわ」
 よくないってば。
 くだらないことを聞き流しながら、浩之は今一ついい気分になれなかった。
 鬼の話。いつもなら、くだらない、の一言でこの手の話を一蹴してきた彼だが、何かし
ら不吉な予感をこの話に見ていたのだった。
 ……………………
「……やれやれ。琴音ちゃんじゃあるまいし」
 舌打ちして、浩之は立ち上がった。
「……浩之ちゃん」
「ヒロ。あんた、どこ行くのよ」
「何か買いに行く。雅史も下にいるって言ってたしな」
「お買い物ですか? それなら、私が……」
「いらねーよ、すぐに終わるから。あかり、何か飲みたいものはあるか?」
「……え? でも……」
「いいんだよ。いつもお前に買いに行かせてっけど、今日は少し歩きたい気分だからな」
「…………なら…………」
 あかりが割とポピュラーな固有名詞を挙げる。
「マルチは……無理か。じゃ、行って来る」
「ちょっと、あたしの分はぁ!?」
 志保の声は無視して、浩之はオートロックのドアを閉めた。
「…………?」
 奇妙な違和感。何か、どこかが違うような……
 ……………………
 ゆるゆると首を振った。
 エレヴェータールームへと向かう足。
 下へと向かうボタンを押す。
「あん?」
 ランプが点灯しない。何度か押してみる。乾いたバネの音がするばかりだ。
「故障……か?」
 こんな最新式のホテルなのに?
「……………………」
 浩之は少し思案した。

 A 部屋に戻ってフロントに電話だ。
 B 階段を使えば済むことだ。

 部屋に戻る? 浩之は自問した。何だかそれも間抜けな気がした。出ていってエレヴェ
ーターが使えないから帰ってきましたじゃ、マルチのお使いよりも(失礼)役に立たない。
 おそらく、志保に何か言われるだろうし、そうなればそうなったで何だか落ち着かない
今日を、志保のからかいという欲しくもないおまけ付きで過ごさねばならないことになる。
 それに、考えても見れば部屋に帰ってフロントに電話したところで、簡単に直るような
故障でもないだろう。ひょっとしたら、ホテル側も既に気付いていて、今それに取りかか
っている真っ最中のかも知れない。
「だとしたら、フロントに電話ってのはあんまりスマートじゃねーよな」
 階段を使おう。そう決めて非常口を探すために辺りに注意を戻し、その時になってよう
やく、浩之は初めてそのことに気がついた。
 エレヴェータールームが薄暗い。
<鶴来屋>は採光にも気を使っているために廊下に出た時は気付かなかったが、今はライ
トが消えている。つい先程、部屋に入るまでは皓々と点いていたのに。
 訳も理解らず、浩之は胸騒ぎを覚えた。
 部屋にとって帰す。
 急ぎ足になるのを自覚しながら、彼は自分でも理解らない何かを予感していた。

 続くっ!

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 ああ。とーとーやってしまった。いーんだろーか。千鶴さんのファンから鬼の爪でばっ
さりやられたらどうしよう(無論死ぬだけです)。でも、一話でその伏線は張ってあった
訳だし……それよりもこの終わり方じゃ自由の制限されて書きづらいかなあ……
 あうう。ご覧の通り、ToHeartのキャラがメインです。雫と痕はこの前行ったら
売っていなかった(泣)。でも、どーにかして近い内にプレイするつもりでいます。

 はっはっは。実はこれ、リレー読んで、すぐに書き出してたりして(即興でも何でもな
い)。いやー。第弐話(おっ)に当たれて良かった良かった(笑)。何せ、応募の時には
もうエンドの時点まで仕上がっていたので(汗)、気付いてからそっこーでメールを送っ
てしまいましたよ。長さはこのくらいでいいのでしょうか? 第一話と同じくらいに心が
けたつもりなんですが……(もっと長い方がよかったかなぁ?)
 見れば、既に第三走者がお決まりの様子。未熟者はさっさと分をわきまえて退くことに
しましょう(笑)。次の方が久々野さんと聞いて、これを打っている時からもう期待して
おります。果たして月島先輩はここでも暴走するのか!?!?(笑)

 感想は、こういった場ですし、また後ほど、個人的な機会で書かせていただきます……
では!