朝の挨拶 投稿者:KEI 投稿日:2月20日(日)06時34分
「うおっ!志保てめー、なんだそりゃ!」
「ど〜お、イケてる?」

 短い休みの後、新学期の始まりの朝、登校途中で久しぶりに会った志保は、
こげ茶色に焼けた肌に、血色の悪そうな唇、さらには目の淵を白く彩った、と
いういでたちで俺の目の前に立っていた。
 この反転パンダめ……。
 あ、なんか奴の視線が高いと思ったら、厚底ブーツまで履いてやがる。

「お前なぁ……」

 俺のため息に、志保は「何不景気な顔してんのよ」とつっこんでくるが、今
の俺は反応を返すことができない。こいつ……流行を気にする奴だとは知って
たけど……これだけはないだろうと思ってたのになぁ。再び俺はハァとため息
をつき、チラと志保の顔に目をやる。ああ……黒い。悲しいまでに黒すぎるぞ。

「先輩おはようございます!」

 お、この声は……。後ろを振り向くと、俺の顔をニコニコと見つめる葵ちゃ
んが、スポーツバックを手に立っていた。ああ……これだよ。葵ちゃんはマシ
ュマロのように白く、指で押さえればポワンと揺れそうなほっぺを赤く上気さ
せている。……俺を見つけて走ってきてくれたのかな。カモシカのように長い
足の先には、当然金太郎飴の靴は見られない。あるのは、ごく普通のシューズ
だ。

「あの……そちらのかたは……」

 志保を見た葵ちゃんが戸惑っている。無理もない。流行に流されない(取り
残されているとも言うが)葵ちゃんのことだ。こんな人種が日本に不法滞在し
ていることもご存知ないのであろう。そのことを俺が教えようとすると。

「ウ、ウンバホー!」

 葵ちゃんが志保に向かい突然おかしな声を上げた。俺はちょっとビクッとし
たが、それがこの子のジョークなのだとすぐに思い立ち「……って誰がゾマホ
ンやねん」と委員長仕込みのツッコミをいれようとすると。

 「!!ワジワジニョニョ〜ン!」

 志保が何かに反応したように奇声を上げ、肩をゆすり右手を頭上でグルグル
とすばやく回し始めた。
 
「モ……モンガッチョ!」

 葵ちゃんは片足立ちになり、ケンケンをしつつ、自信なさげに志保のひたい
をピシピシとたたき始める。志保がニッコリと笑顔を浮かべると、葵ちゃんも
ホッとしたように口元がほころぶ。
 呆然と成り行きを見守る俺を尻目に、葵ちゃんと志保は手を取り合い、楽し
そうに笑い声を上げながら学校に入っていった。

「……流行ってんのか?」

 一人取り残された俺はそれしか呟くことができなかった。
 ああ、夢でも見たのだろうか……。

「浩之ちゃん?」

 いつのまにかあかりが俺の隣に立っており、覗き込むようにして俺の顔を見
ている。あかり……。俺はさっきのことを忘れ、元気良く挨拶をしようとした。

「あかり、おは……」

「浩之ちゃん………………ウンバホー!」

 俺は少し遅めの秋が過ぎ、少し厳しい冬が、そこまでやってきているを感じ
ていた。

《おわり》

うわ〜どっかで見た感じ。