Rainbow in my soul 投稿者:NTTT 投稿日:5月21日(日)00時02分
「あれ、ひろゆきちゃん、どうして?」
「待ってたに、決まってるだろ」
「あ、そうなんだ」
「日直、終わったんだろ、さっさと帰ろうぜ」
「でも、ひろゆきちゃん、雨、降ってきたよ」
「あっちゃー。あかり、傘持ってきたか?」
「ううん。ひろゆきちゃんは?」
「バッチリ、用意してくると思うか?」
「…思わない」
「なるほど。あかりは、俺を信用してないわけだな」
「ううん、信じてるよ。ひろゆきちゃんは、きっと、傘を持ってこないって」
「ヤな信用のされ方だな…」
「ひょっとして、持ってきたの?」
「持ってくるわけねえだろ」
「よかった」
「何がいいんだよ」
「だって、ひろゆきちゃんが傘を持ってきてたりしたら、きっと、それは、わたしの知らないひろゆきち
ゃんだから…」
「…どんなヤツだよ、そいつは?」
「きっと、用意がいいから、成績もいいんだよ」
「…そうかもな」
「それで、きっと愛想もよくて、女の子にもモテるの」
「…ほう」
「でもね、スポーツはきっと、上手くないよ」
「かもな」
「それに、優しくないよ、絶対」
「……」
「…だから、ひろゆきちゃんは、今のひろゆきちゃんで…あっ!」
「黙って聞いてりゃ、人の事を馬鹿だの愛想が悪いだの言いやがって」
「い、言ってないよぉ」
「どう考えても、そう言ってるとしか、思えんわ」
「そ、そうかな?」
「そうだ」
「ううっ…そんなつもりじゃ…」

「ところで、ホントにどうする?このまんまじゃ、帰れないぜ」
「もうちょっと、待ってみようよ」
「…そうすっか」
「きっと、雨、すぐにあがるよ」
「…どうして、そう思うんだ」
「…なんとなく」
「…その予想が外れて、このまま、ずっと降り続けたら、俺たち、一生、閉じ込められるな…」
「で、でも、明日になればきっと誰か助けに…あっ!」
「真面目に答えてどうする!」
「ご、ゴメン…」
「ま、もうちょっと待って、それでもやまなかったら、走って帰ろうぜ」
「そうだね。それしかないね」
「だけどな、なんか、空も暗くなってきてるし、雨も、勢いが増してきてねえか?」
「ホントだね」
「…そういえば、あの日も、こんな雨の日だったな…」
「ひろゆきちゃん?」
「…その日も、大雨でな」
「…うん」
「ま、傘を持たない主義の俺は、雨に降られながら、家に帰る途中だったわけだ…」
「うん、いつも通りだね」
「まあ、近道をと思って、公園を抜けようとしたんだな」
「うん」
「そうしたら、公園の真ん中に、女の人が、一人、雨に濡れながら、立ってたんだよ」
「傘は?」
「さしてなかった。髪もバラバラにほどけたかんじでな、ずぶ濡れだ」
「う、うん…」
「俺は、どうしたのかと思って、その女のそばに、寄ってみたんだ」
「うん。ひろゆきちゃん、やっぱり、優しいね」
「そしたらな、その女、手に何か抱えてるんだよ」
「…だから、傘、させなかったのかな?」
「…でな、その女が抱えてたのって、なんだと思う?」
「…傘?」
「なぜ傘にこだわる!」
「ご、ゴメン…だ、だって、雨、降ってるし…」
「…赤ん坊だったんだよ」
「えっ!」
「その女が抱えてたのはな、やっぱり、ずぶ濡れの、赤ん坊だったんだよ…」
「か、風邪、ひかないのかなあ…」
「でだ、その女が俺に気づくと、俺にその赤ん坊を差し出して、こう言ったんだ」
「何て?」
「『この赤ちゃんを、抱いてやってください』ってな」
「抱いたの?」
「しょうがねえからな」
「で、でも、赤ちゃんの抱き方って、難しいんだよ」
「ちょっとの間だけだと、思ってたんだよ!」
「う、うん、ちょっとなら、いいよね…」
「で、赤ん坊を、こんな風に…」
「あ、でも、そんな抱き方したら…」
「ちょっとの間だ!」
「そうだね、ちょっとだもんね」
「ところがだ、その赤ん坊が、全然泣かねえんだよ」
「やっぱり、抱き方が…」
「違う!」
「う、うん」
「その上な、どんどん、腕が、重くなって…」
「だから、抱き方が…」
「くどい!!」
「ご、ゴメン…」
「で、なんかおかしいなと思って、その赤ん坊の顔を覗いてみたら」
「覗いてみたら?」
「その、赤ん坊には、目がなかったんだよ」
「えっ!!」
「目がないだけじゃなくてな、鼻も、口も、髪までなかったんだ」
「髪の毛がないのは、生まれたばかりだからかなあ…」
「のっぺらぼうだっ!!!」
「あ、うん、のっぺらぼうだね、それ。ひろゆきちゃん、のっぺらぼうの赤ちゃん、抱いちゃったんだね」
「そうだ。わかったか?」
「わ、わかったよ。それで、どうしたの」
「で、こりゃヤバいと思って、赤ん坊を離そうとしたら…」
「だ、だめだよ。赤ちゃんなんだよ」
「のっぺらぼうだっ!妖怪なんだよっ!!!」
「あ、うん、妖怪なんだよね、妖怪、妖怪…」
「で、離そうとしたらだ、その母親が、耳元で」
「く、くすぐったいよ、ひろゆきちゃん」
「いいから」
「う、うん」
「耳元でな…」
「うん…」
「お前だあああああああああああああああああっ!!!!」
「…………」
「どうだ、驚いたか?」
「…は、話、はしょりすぎだよ、ひろゆきちゃん…」
「茶々いれるからだ。途中で忘れちまったんだよ」
「耳、まだ痺れてる…」
「見せてみろ」
「えっ!い、いいよぉ」
「遠慮すんなって、ほら」
「う、うん…」
「こりゃ、耳垢溜まってるなあ」
「う、嘘っ!!」
「嘘に決まってるだろ」
「もう…」
「しかし、ちっこい耳だな」
「も、もういいかな…」
「ダメだ」
「…恥ずかしいよお」
「…真っ赤に、なってきたぞ…」
「ね、ねえ、もう、やめよ…」
「…そうだな」

「しかし、やまねえな…」
「そうだね…」
「あの日も、こんな雨の日だったな…」
「そ、それはもういいよぉ」
「なら、あかり、何か面白い話、知ってるか?」
「ええっと…あのね、志保から聞いたんだけど…」
「却下」
「えっ!」
「あいつの話は、ガセが多いから、ダメだ」
「そうかなあ…」
「付き合い長いんだから、いい加減気づけよ」
「でも、面白いんだよ」
「面白くするための脚色が、多すぎだって」
「それは、そうかも…」
「じゃあ、そうだな、ゲームでもするか」
「ゲーム?」
「そうだ」
「どんな?」
「しりとりとか、どうだ?難しいのは、得意じゃねえだろ?」
「あ、うん、しりとりなら、結構続くね。いいかも」
「普通にやったんじゃ、面白くねえからな。負けた方は一枚ずつ脱ぐことに決定」
「ええっ!!」
「ほら、さっさと始めるぞ。まずは『しりとり』の『り』だ!」
「で、でも、ひろゆきちゃん」
「なんだ?この期に及んで、逃げる気か、おい」
「でも、雨、やんでるよ」
「あ」

「いいお天気になったね、ひろゆきちゃん」
「しかし、すっかり晴れたな。あんなに降ってたっていうのに」
「ホントだね…あっ!!」
「どうした?」
「ほら、ひろゆきちゃん、見て、見て!」
「ん、何だ?」
「虹、虹だよ、ほら」
「どこだよ?」
「ほら、あそこ」
「…へえ、こりゃ珍しいや。2重になってるぞ」
「…わたし、2重の虹見るのって、これで2回目」
「ふーーん。ラッキーだな、それって」
「浩之ちゃんも、いたよ、その時」
「え、そうだったか?」
「見たよ、一緒に」
「そうか?」
「そうだよ。ほら、去年、屋上で…」
「そういえば、見た覚えがあるような…」
「でしょ?」
「じゃあ、もう、一年くらい、経つんだよな、あれから…」
「うん、もうすぐ一年…」
「…あれから、俺たち、イロイロあったよな」
「そうだね」
「でも、その割にゃ、なんていうか、あんまり、変わらねえな、俺たち」
「…ひろゆきちゃんも、わたしも、いつまでも、変わらない。それで、いいんだよ、きっと」
「そうなのか?」
「そうだよ。わたし、ひろゆきちゃんが、大好きだし、これからもずっと、ひろゆきちゃんのこと、大好
きでいたいから…」
「……あ、あかり、まあ、その、なんだ…」
「ひろゆきちゃん?」
「……帰るか?」
「うん、帰ろ」
「…しかし…」
「しかし?」
「しかし、よく考えりゃ…」
「何?」
「ああ…惜しいこと、したかな、とか、思ってよ」
「惜しいって?」
「教室で話してるあいだな…」
「話してるあいだ…」
「…ずーっと、俺たち、二人きりだったろ?」
「…そうだね」
「エッチの一回でも、やっときゃよかったかな、なんてな…」
「も、もうっ!!」

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