聖遺物 投稿者:NTTT 投稿日:5月20日(土)13時55分
「長瀬主任、こんな物みつけたんですよ。何なんですか、これ?」
「あら、懐かしいねえ。見ての通りだよ」
「ま、見ての通りと言われれば、そうなんでしょうけど…」
「しかし、まだ、あったんだなあ、すっかり忘れてたよ」
「開発レポートの束を入れた箱の底に、入ってたんです」
「てっきり、その後のゴタゴタで無くしてしまったと、思ってたからねえ…」
「これって、『あの』、マルチのですか?」
「見れば、一目瞭然だろ」
「確かに、『あの』マルチの物としか、思えませんよね」
「ああ。後にも先にも、こんな物を持ってるメイドロボは、マルチだけだよ」
「はあ…」
「普通のメイドロボが、こんな物を作ってもらえるわけがないじゃないか。人を心から愛することがで
き、また、人に心から愛してもらえるメイドロボだって、証拠だよ」
「まあ、そうなんでしょうねえ…」
「ある意味、愛の証しなんだよねえ、これ」
「主任、意外にロマンチストですね」
「男は、やっぱりロマンだろう、そう思わないかね?」
「まあ、そう考えると、ロマンチックな代物ではありますね、これ」
「だろ。しかし、どうしようかなあ…」
「どうするんです?」
「記念にとっておきたい所だが、やはり、マルチに返すべきかねえ…」
「マルチ、必要なんですかねえ…」
「藤田君との、大切な思い出を彩る品だからねえ」
「思い出、ですか…」
「そう、感情あればこそ、こういう物が、とても大事になるんだ」
「藤田君がこれを見たら、どんな顔をするんでしょうかねえ?」
「喜ぶに、決まってるさ。案外、探してたかもしれない」
「どうですかね、結構、恥ずかしいですよ、これ」
「一生懸命作った物なんだよ」
「まあ、そりゃそうですけどね」
「ほら、よく見ると、かなり丁寧な作りなんだよ、これ」
「そうですね、この周囲のグニャグニャなラインとか、結構丁寧ですよね」
「うん。なかなか器用なもんだろ」
「別に、主任が作ったわけじゃないでしょうに」
「まあね。でも、こういう丁寧な仕事を見るのは、嫌いじゃない」
「ま、技術者としては、ですね」
「しかし、二人にとって、必要でしょうかね。いまさらって気がしないこともないけど…」
「なあに、愛し合ってる二人には、こういう物もいい記念品になるさ。これがあったからこそ、あの夜
を迎えたといっても、間違いじゃないと思うよ」
「そうかもしれませんね」
「そうとも、早速返しに行かなくちゃね。君も一緒に来るかい?」
「そうですね。ちゃんと渡してあげましょう、この、手書きの卒業証書」

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