メカミステリ/メンテナンス・マニア(「競作シリーズその弐 NTTT VS その他大勢」「お題:会話文のみ」) 投稿者:NTTT 投稿日:5月14日(日)23時51分
「ああ、藤田君。今日は、どうしてここに?」
「メンテ受けに来たんだよ」
「ああ、そういやそういう時期か。ま、ここんとこ事件もないし、ゆっくりしていくといい…と、思ったけ
ど、ちょっとだけ、意見聞いてもいいかな?」
「事件、ないんだろ?」
「事件とかいうようなものじゃないんだけどね、考えると、妙に不可解なことがあるんだよ」
「まあ、いいけどよ。マルチ、まだメンテ中だぜ」
「じゃ、終わった後で私の部屋に来てくれ」


「悪ぃ、マルチ、まだメンテ終わんなくてよ。なんか、まだ、かなり時間かかりそうなんだ」
「あ、なら、藤田君に先に説明しとくか。不可解ってのは、メンテナンスに関する話でね」
「どう、不可解なんだ?」
「藤田君にはわからないかもしれないけど、普通のユーザーは、なかなか定期的なメンテに来てく
れないんだよ」
「ま、面倒臭いんじゃねえかな」
「そうだろうね。だから、ユーザー登録をしてくれた人には、メールや手紙を送ってるんだけど、中に
は、それでも来ない人がいるんだよ。しといたほうが、絶対長持ちするのになあ…」
「ここまでいちいち連れてくる手間は、かけたくねえんだろうぜ。もっとサービスセンターを増やした
方がいいんじゃねえか?」
「まあねえ。将来的には、そうする予定はあるんだけど、まだまだ普及率が足りないのが痛いとこ
さ。でね、こっから本題。この半年に、12回もメンテに連れてくる人を、どう思う?」


「それは…すげえな…」
「すごいよねえ。でね、私も、さすがにちょっと、これはやりすぎかな、とか思ってね、前回、その人
がメイドロボを連れて来た時に、聞いてみたんだよ。普通、半年に一回でいいメンテを、どうしてこ
んなに受けにくるのか、って」
「で、なぜだったんだ?」
「ノーコメント。っていうか、『ちょっと事情がありまして…』みたいな答えしか貰えなかったわけさ」
「それ、すっげえ変だぜ」
「ま、だから君達に相談してみようかと、思ったんだけどね。今週、13回目があると思うしね」
「半年に12回、ってことは…月に2回か…」
「毎月、第2、第4日曜だ。来る時間まで一緒さ」
「毎回、同じバスで来てるからだろ」
「だろうね。でも、毎回、同じ時間のに乗ってきてるってことは、時間に正確な人なのかな?」
「あ、なら…」
「なら、なにかね?」
「神経症みたいなとこ、なかったか、そのメンテマニア?」
「なんだい、その『メンテマニア』ってのは?」
「いや、だって、そんな感じだろ。ちょっと、おかしいんじゃねえか?」
「…マルチと仲良く暮らしてる君には、見ず知らずの人をそんな風に言う権利は、ないと思うがね」
「作ったのは、あんただろ!」
「まあ、いいや。で、その、メンテマニアのことだけど、君の言うような印象は、受けなかった。ごく普
通の、家庭の主婦っぽかったよ」
「女かあ…」
「何かね?」
「いや、マジに変だなって、思ってさ。普通、こういうとこは、機械に強い男の方が、連れてくるもんじ
ゃねえのか?」
「でも、最近はメカに強い女性も、結構増えてきたよ。コンピューターの普及は、偉大だねえ」
「でも、普通の主婦みたいな感じだったんだろ?」
「そうだね。それに、機械には、やっぱり強くはないと思うよ。質問とか、全然してないみたいだったし」
「質問?」
「そ。普通さ、メンテに来た人で、機械関係の知識が多少なりともある人は、結構、メモ魔になっち
ゃうんだよ、ここ来ると。作業の妨げになるくらい、あれやこれや聞いてくるんだ」
「まあ、ここって、イロイロ珍しいもんとか、無造作に置いてあるから、好きな奴には、たまらねえかもな」
「ま、お客とコミニュケーションをとるのも、メンテの際の大事な仕事だから、別にいいけどね」
「あ、そういや、聞き忘れてた。そのメンテマニアの女が連れてくるメイドロボ、連れてくるたびに、メ
ンテしなきゃならない状態になってるのか?」
「なってたら、相談なんかしやしないよ。必要もないのに連れてくるから、不可解なんだってば」
「んー、何か目的が、あるってことなのかな…例えば、実は、ここの研究データを探ってる、スパイと
かよ…」
「うちは、仮にもエレクトロニクスの研究所なんだよ。市場にも出回ってないくらいの特製の最新機
器が、バッチリ目を光らせてる上に、物によっては、時々うちのスタッフでバージョンアップまでさせ
てる。そういう方面のセキュリティは、問題ないね」
「なら、誰か研究スタッフと、秘密のやりとりとか」
「だから、所員とも全然、話をしないんだってば。大体、行動が不可解だから、うちの所員、そのメ
ンテマニアが来たら、いつも注目してるんだ。特定の誰かと話とかしようもんなら、みんな聞き耳を
たてるね」
「じゃあ、メンテの間、そのメンテマニアは、何してるんだ?」
「座って、女性向きの雑誌読んでるよ。で、メンテ終わったら、さっさと連れて帰ってる。それだけ」
「それを、半年に12回かよ…」
「わけが、わからんだろ?」
「うーん…主婦っぽいって、言ってたな?」
「そ。まあ、どこにでもいるオバサンみたいなんだよねえ」
「じゃあ、メイドロボのほうかな…」
「ん?」
「だからさ、メイドロボの服とか、内部とかに、何か隠して持ち込んだり、持ち出したりするわけだ
よ。やっぱり、スパイだな」
「あんなオバサンが、んなことをするとも、思えんがねえ」
「ひょっとしたら、そのオバサンは、気がついてねえのかも、知れないぜ」
「どういうことだい?」
「雇われて、ただメイドロボを連れていってるって可能性も、あるだろ。主婦の小遣い稼ぎだよ。日
曜ってのが、いかにもそんな感じじゃねえか」
「ああ、なるほど…って、可能性は低いと思うんだけどなあ…藤田君だって知ってるだろ、メンテナ
ンスは、最低でも2人は必要な作業なんだ。片方にバレないようにして情報の受け渡しをするの
は、かなり大変だし、なにせ、注目の人が連れてくるメイドロボなんでね、大抵3人以上で、どこに
問題があるのか、徹底的にチェックしてるのさ。人目が多すぎるよ」
「ふーん…でも、なんか、スパイ臭いんだよなあ…」
「うーん、もっかい、警備システム見直すか…競争が厳しいこの業界でも、一歩、いや、二歩くらい
先んじてるつもりだったんだが…どこかに穴があるのかねえ…」
「あ、それだ!!それ、それ!!」
「穴?」
「違うって、警備システムだよ!!」


「うちの警備システムを、探っていたのか…」
「メイドロボの記憶のバックアップをとりゃ、映像からだけでも、かなりの情報がつかめるだろ。やっ
ぱ、ロボットがスパイだったんだよ」
「でもなあ、警備システムを破って侵入されたなんて形跡、今まで一度も見つかってないんだよ。よ
っぽど優秀な産業スパイなのかな?」
「だから、違うって。侵入するためじゃねえんだよ。逆だ」
「はあ?」
「18回もメンテに来て、不審に思われる危険なんて、普通のスパイが犯すかよ。多分、そのメイド
ロボ、警備機器のメーカーが使ってるんだ。工学の設備がなきゃ、メイドロボのバックアップなん
か、調べられねえって。来栖川の7研が、定期的に改造までして手を加えた最新機器のデータは、
喉から手が出るくらい、欲しいはずだろ」
「うわ、まいったなあ。イタチごっこかあ…どうりでここ最近、競争がやたら厳しいと思ったよ」
「対策の立てようがねえな、こういうのは」
「いや、まあいいさ。盗まれたって、もっといい物を作れるだけの技術とスタッフ揃えてるんだ。今度
は、警備機器のデータを盗まれないための警備システムでも、作ってみるかね。ほっほっ」
「オッサン、自信満々だな」
「あったり前さ。うちは世界の来栖川だよ」


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会話パターン5:ミステリにおける探偵とワトスン役