投稿者:NTTT 投稿日:5月13日(土)14時40分
「先輩!ほら、見てください!」

いつものように神社に行くと、葵ちゃんが嬉しそうに、サンドバッグを指さした。
みると、新しくなっている。新品だ。

「へえ、買ったのか」
「あ、いえ、作ったんです」
「え!?手作りなのか?」
「はい。前のは、いいかげんボロボロでしたから。結構、作るの、大変でした」
「ああ…ごめんな、葵ちゃん」
「え?何がですか?」
「ほら、俺、同好会の一員だってのに、そういうこと、全然気が回んなくてよ。二人で、会費とか溜め
たりしとけば、新しいの、買えただろうし、葵ちゃんに、そんな苦労させずにすんだのにな…」
「先輩、そんなこと言わないでください。先輩がいてくれるから、私、ここまで続けてこれたんです。
先輩は、側にいてくださるだけで、いいんです」
「葵ちゃん…」
「先輩…これからも、ずっと一緒に、頑張っていきましょうね」
「お、おう」
「あ、じゃあ、先輩、キックしてみませんか、これに。初キックということで」
「あれ?なら、葵ちゃん、まだ使ってないのか、そのサンドバッグ?」
「はい。どうぞ、最初のキックを、お願いします」
「いいのか?」
「いいんです。初めては、先輩にあげようと、思ってましたから」
「…なんか、エッチな表現だよな。それって」
「も、もう、先輩ったら」
「はは、痛ぇって」
「あ、ご、ごめんなさい」
「いいんだって。葵ちゃんなら、何されても、大丈夫だからよ、俺」
「もう…」
「よし、じゃあ、蹴るぜ」
「はい、お願いします。じゃあ、私、支えますから、思いっきり来てください」

 にゃー

「あ、葵ちゃん?」
「なんですか、先輩?」
「い、今、鳴かなかったか、その、サンドバッグ?」
「先輩、サンドバッグは、鳴いたりしませんよ。さあ、来てください」

 にゃー

「な、今、鳴いたろ、な?」
「だから、サンドバッグは、鳴いたりしませんって。お願いします、思いっきり」
「で、でもなあ」
「ちゃんと受け止めますから、お願いします」

 にゃー

「いや、だから、鳴いてるんだよ、それ」
「先輩、私に最初を譲ろうとしてくださるのは嬉しいですけど、私は、先輩に最初に蹴って欲しいん
です。さあ、遠慮しないでください」
「だからさ…」
「先輩、ひょっとして、私の作ったサンドバッグなんて、蹴る気も起こらないって、そういうことなんで
すか?」
「いや、そうじゃなくて」

 にゃー

「だから、ほら」
「お願いします。先輩だけが頼りなんです」
「どうしても、蹴らなきゃダメなのか、それ」
「何言ってるんですか!サンドバッグは、蹴らなきゃダメなんです」
「蹴らなきゃ、ダメか…」
「ダメです!」

 にゃー

「いや、やっぱり」
「ダメです!!この日のために公園で7匹も捕まえてきたんです!!」
「やっぱ入れとるんかあああああああああああっ!!!」



 にゃー



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