メカミステリ/バラバラ、殺人 投稿者:NTTT 投稿日:5月13日(土)13時10分
「で、今回のって、アレか?」
「そう、アレだよ。テレビで見たのかい?」
「ああ。デカいニュースになってるよな、ホントに…」
「あ、あのぉ…やっぱり、アレ、なんですかぁ…」

俺達がその事件について、『アレ』としか言わないのには、わけがある。
刺激が強すぎるのだ。特にマルチには。

バラバラ、殺人。怖ぇだろ?ただし、バラバラに関しては、人間ではない。
メイドロボなのだ、バラバラにされてあちこちに捨てられていたのは。

「ま、こうして3人、顔突き合わせて『アレ』とか言ってても、始まらないしなあ…マルチ、今回は、帰
っていいよ。私と藤田君で考えてみよう」
「だ、大丈夫ですぅ。マルチ、お手伝いするですー」
「ホント、気分わるくなったら、帰っていいんだからな、マルチ」
「ご主人様ぁ、信じてくださいですー」
「ま、それじゃ、警察から仕入れてきた情報を、最検討してみようか」


最初に警察に通報があったのは、夜の11時頃。

「残業の後、軽く飲んでたサラリーマンが、帰り道の公園脇で発見したんだよ。左足をさ」
「驚いただろうなあ」
「驚かない人のほうが、おかしいね。慌てて持ってた携帯使って、110番したんだけど、急行した警
察が発見したのは」
「メイドロボの、左足だったんですねー」
「うん。それから少しして、これも左手を発見した通報があってね、どうやら、メイドロボをバラして捨
てた不届き者がいるらしいってのは、警察でも見当がついた」
「で、そのメイドロボのユーザー捜しが、始まったわけか」
「実態は、軽犯罪の範疇なんだけど、あまりに迷惑な話だからね。今回は私はこっちで統轄するこ
とにして、所員を一人警察に行かせたのさ」
「専門家が追ったって、テレビじゃ言ってたな」
「まあね。でも実は、それほど簡単な話じゃないのさ。足とか手とかだけじゃ、なかなかわからない
からね」
「そうなのか?」
「そりゃ、当たり前だよ。マルチの足と、他のマルチタイプの足と、見分けつくかい、藤田君?」
「うーん、ちょっとわかんねえなあ。胴ならともかく」
「そうだねえ、胴ならともかく」

二人してニヤニヤ笑っていると、マルチにつねられた。

「それでも部品のいくつかには、製造工場の型番号とかがあるからね。近辺のユーザー登録をして
る人間と、その所有してるメイドロボををリストアップして、消去法で限定していこうと思ったのさ。そ
の時点では、頭部以外が続々見つかってて、かなり絞り込みが可能だったしね」
「なんか、本格的だよな。捜査網って感じで」
「まあね。ただ、所員行かせたら、すぐ頭が発見されちゃったから、用意は全部ムダになったんだけ
どね」
「頭だったら、持ち主を突き止めるの、簡単なのか?」
「頭部の頭脳部分は、キッチリ製造番号が刻印してあるからね。検索かければイッパツだ」
「そ、それで、お、おまわりさんが、その、持ち主の方の家に、行ったら…」
「そ。そのメイドロボのユーザーは、死体で発見されたと、そういうわけ」
「絞殺、だったよな。テレビで言ってた」
「うん。なぜかこっちは、バラバラじゃなかった。普通の死体、ってのもおかしいが、特におかしなこ
とをされた形跡はなし。サッパリわからんよ」


「メイドロボが嫌いな奴…ってのは、ないよな…」
「違うだろうね。それじゃ、人一人殺す理由がないよ」
「あ、あのぉ…その、バラバラのメイドロボさんから、記憶は…」
「ダメっぽいね。所員にやらせてはいるけど、頭部は損傷が激しくてさ。念入りに壊してるよ、犯人は」
「そうですか…」
「なあ、ただの愉快犯じゃねえのか?」
「警察は、その線をまずあたってるようだ。ただね、なんか納得いかないんだよ、私は」
「どうしてですかー」
「メイドロボをバラした経験がないとわからないだろうが、結構道具も使うし、時間もかかるし、かな
りの重労働なんだよ。うちは、そのへんのノコギリでギコギコできるようなヤワな物は、作ってないん
だ。私が愉快犯なら、途中で飽きちゃうね、絶対。両手両足に、胴体、首…素人が無理やりやった
感じではあったが、あそこまでご丁寧にバラす必要なんか、ないんだよ…」
「へぇ、バラすの、そんなに大変なのか…」
「ひえぇ!ご、ご主人様ぁ、そんな目で見ないでくださいですー!!」
「ただ見ただけだって!ま、でも、意味があるとすりゃ、あれかな…」
「何ですかー」
「死体を、早く発見させるため、とかな」
「どうして、早く発見させるんですかー?」
「アリバイ、かなぁ…」
「あ、アリバイなら、知ってるですー。この前、テレビで見たですー」
「へえ、マルチ、アリバイ物なんか、見るのかね?」
「はいっ。電車さんが、いっぱい出てくるんですー」
「…実は、鉄入ってるんだねえ、マルチ…」
「はいー、マルチ、きっと鉄入ってますけど、何か?」
「いや、そういう意味じゃなくて…まあいいか。でもね、藤田君、アリバイを作るために、わざわざそ
んなに手間をかけなくてもいいんじゃないかね?死体を早く発見させたかったら、電話一本で済む
んじゃないかな」
「まあ、そうだよな…」
「それにねえ、警察の鑑識もバカじゃないだろうし、死体の死亡時刻とか、かなり正確なんじゃない
かなあ…実際、鑑識の報告は、丁度そんなくらいの時間だったし…」
「被害者は、いつ死んだんだ?」
「メイドロボの左足が発見された時刻から、約2時間半くらい前ということだ。ま、被害者を殺してか
らメイドロボをバラして、それを捨てに行ったんだろうから、そのくらいは順当な時間経過だろう。ア
リバイ工作の入る余地は、少なそうだよ」
「うーん、そういうもんなのかなあ…」
「しかし、死体のそばでバラしたにしても、どっかよそに持ってってバラしたにしても、危険な話だ。
犯人は、やっぱり、愉快犯かな…って、マルチ、顔が青いね。ちょっと休むかい?」
「オッサンが、バラすバラす、って何度も言うからだろ!」
「あ、そうじゃありませんー」
「じゃあ、なんなんだ?」
「あの…犯人、わかっちゃいましたー!」


「やっぱり、アリバイなんですー」
「そうなのか?」
「はいー。犯人は、そのメイドロボさんを、先に、ば、ば、バラして…」
「先にかね?」
「はいー。そのあとで、そのご主人の首を…」
「絞めたってわけか」
「そうです。それから、メイドロボさんの、その、ば、バラバラを、2時間くらいしてから、ばらまくんですー」
「アリバイに、なるのか、それで?」
「あ、はいー。ばらまくまでの2時間くらいの間、ちゃんと他の人に会っておくですー。そしたら、その
人には、メイドロボさんを、バラバラにしてる時間が、無いように見えるですー」
「だ、だけど、それじゃ、被害者が、殺される前に、おかしいと思うんじゃないのか?自分ちのメイド
ロボが、目の前で、バラされてるってことに…あ、外で捕まえたのか?」
「どうかな。死体の発見された現場には、工具やら、バラした痕跡が残ってたそうだからね」
「ですから、そういうことをご主人の目の前でしても、疑われない人か、それとも…」
「「それとも?」」
「お家の中で切ったのは、頭だけかもしれないですー」
「どういう、ことなんだね?」
「犯人は、同じメイドロボさんを買って、自分の家で、バラすですー。それで、殺された方の家では、
ホントにご主人の首を先に絞めて、そのあと、メイドロボさんの首だけ切って、胴と首を持ち帰るですー」
「あ、そっちかも知んねえな。ばらまき用の胴体と足を先に作っときゃ、あとは首だけありゃいいもん
な。あ、でも、それなら、頭と他の部分で、工場の型番号とか、微妙に違ってるかも知れねえし、調
べてもらったら、すぐにわかるか…」
「…多分、同じ工場の製品を買ってると思うよ。ちゃんと調べて買ってないわけがない。なんてこった…」
「どういう事だよ?」
「メイドロボをバラす所要時間を正確に知ってる人間なんて、そうそういるわけがないんだよ。この
犯人は、詳しすぎる」
「じゃあ、ひょっとして、ここの…」
「君達は、もう帰れ。私は所員の外出記録を調べなきゃならん。特に夜の8時半前後に、11時前
後か…おそらく、すぐに戻ってこなきゃアリバイにならんから、どっちとも30分くらいだな…」
「しゅ、主任さん、でも、首の…」
「ああ、そうだよなあ、畜生…」
「マルチ?」
「…首が最後にみつかったタイミングが偶然でなかったら、そんな風に首を捨てられる所員さんは、
きっと限られちゃうんです…」
「…私が今回、自分で警察に出向かなかったのは、志願者がいたからなんだよ…なにが『主任は
休んでてください』だ!畜生!!」

オッサンは、両手を額にあて、しばらくうつむいていた。
俺とマルチは、黙って見ていた。
やがて、オッサンは立ち上がり、ドアを開けて出て行きながら、言った。

「また、何かあったら、頼む」

乾いた、声だった。