SOMEDAY  投稿者:NTTT


「あっついわねー、この部屋」

「悪ぃ。クーラー、なんか調子悪くってよ」

「・・・ったく、顔見たくなって来てみたら、パンツ一丁で、何やってんのよ」

「暑ぃんだから仕方ねえだろ!」

「・・・もうすぐ、秋だってのにねえ・・・ホント、今年の残暑は、厳しいわ・・・」






姉さん、元気ですか

姉さんがそっちに行ってから、もうすぐ一年経つのね

卒業もしてないのに「修行に行く」なんて言い出して、家中オタオタしたのが今じゃ嘘のように、皆
落ちついてます

なんか、薄情よね

それとも、「日常」ってのは、少々の不安とかはあっさり飲み込んじゃうくらい、力強いものなのかし
ら?

淡々と流れてるってのは、意外にパワーいることなのかもしれないわね

ま、皆がのんきに構えてるのは、セバスも一緒だから、ってのもあるんだけどさ

まさか、そっちにまで姉さんについてくとは、思ってなかったからね

お爺様がカンカンになって怒った顔は、今でも忘れないわ

セバスも、元気よね

最近、お爺様、寂しそうだったりするのよ

この前も、「源は何をやっとるのかのう・・・」ってね

その分、ツケはあたしに回ってくるんだから、いい迷惑

やれ帰りが遅いの、服装がだらしないの、部屋が汚いのって、大変

この貸しは帰ってきたら、しっかり取りたてるからね

覚悟してなさいよ





「で、模擬はどうだったの?」

「B。一応は圏内だな」

「やったわね、なんとかなったじゃない!」

「まだもうちょっと時間あるからな。ラストスパートかけるか」

「まさか、ここまで頑張るとはねぇ・・・」

「なんだよ、あきらめてたのかよ!」

「そんなことない。でも、見なおしちゃった」

「これでも根性あんだぜ。サッカーと格闘技で鍛えたからな」

「サッカーって、中学の頃の話じゃないの」

「あ、サッカー馬鹿にすんのか?すっげーハードなんだぜ」

「そうなの?」

「何言ってやがる」

「ちょっと、やめてよ、くすぐったいって、ダメ、ダメ、そこ反則〜!」





姉さん、あたしと浩之があれからどうなったか、知ってる?

知りたいでしょ

でも、教えてあげない

帰ってきて自分の目で確かめて

あ、でも一つだけ

浩之、志望の大学に入れそうです

なにせあたしが特訓してるからね

ホントは、すごく迷惑な話なのかも知れないけど

やっぱり、浩之にはキチンと大学で勉強してもらわないとね

なにせ、姉さんがいない今、「世界の」来栖川は、あたしの肩にのしかかってきそうなんだから

ま、浩之が興味なかったら、別にいいかな、とは思うんだけど

でも、立派な社会人ってやつになってもらわないと、お爺様が猛反対するだろうし

今でもお見合い攻勢をしのぎきるのは、しんどいのよ

かけおちなんて逃げ出すようなカッコ悪いまねだけは、したくないからね

でも、別に浩之には、好きに生きて欲しいかな、とか思うこともあって

姉さんがいればその辺のことも相談できるのにな

わがままに付き合わせてる気がして、時々浩之を後ろからギュッて

抱きしめたくなったりして

あはは、似あわなーい




「ねえ、なんか作ろっか?」

「お前、料理できねえ癖に、何言ってやがる」

「あら、お湯くらい沸かせるわよ。大体、ここの家、カップ麺しか食べるものないじゃない。冷蔵庫
も、なんにも・・・あら、入ってるわね・・・どうして?」

「オフクロが昨日帰ってきたんだよ」

「なるほどね」

「おら、どけ、作ってやるから」

「え、いいわよ、あたし・・・」

「一人で食うのは俺がヤなんだよ」

「う、うん・・・なんか、できること、ある?」

「お湯沸かせ」

「よしきた」






姉さん

ホントは、あたしが浩之とそういうことになっちゃったから、家を出たんじゃないの?

姉さんがそっちに行く前に、散々聞いたけど、首を振るだけで、答えてくれなかったでしょ

違うわよね

いや、どうなのか、まだ、納得できてません

でも、ダメよ

あたしだって、好きなんだから

戦わない人には、絶対渡さないんだから

誰にも、渡したくないんだもの

たとえ、姉さんにだって

欲しかったら、帰ってきて

勝負は時の運って、言うでしょ

絶対に、負けるつもりは、ないけど





「はー、お腹一杯」

「ふー、汗だくで気持ち悪ぃや。ちょっとシャワー浴びてくるわ」

「あ、あたしもー」

「お前なあ・・・じゃ、先使えよ。その間に食器洗うからよ」

「手伝うわよ」

「洗い終わったらすぐシャワー使いてえんだよ、俺は!」

「だーかーら、一緒に入ればいいじゃない」

「お前なあ」

「ふふ、耳、真っ赤にして」

「冗談言いやがって」

「冗談じゃないわよ。本気」

「ま、マジっすか?」

「マジ、マジ」

「はあ・・・昼間っから、変なことになってきたなあ・・・」

「いいのよ、生きてんだから」

「はあ?」

「生きてんだから、いろいろあっていいのよ。昼間っからこんなことしたって、OKなの」

「こら」

「早く食器洗っちゃお」

「お、おう・・・」






姉さん

早く帰ってきて

あたしも、浩之も

姉さんに会ったら

言いたいことも、聞きたいことも、見せたいものも

たくさん、たくさんあるんだから

初めて三人で話したときの続きのように

空白になったこの一年なんかどっかにスポーンって置いてきて

あ、三人だけじゃセバスが可愛そうよね

そう、四人でまた、昔みたいにくだらない日常ってのを

淡々と、しっかりと、続けていきたいのよ

いつか、ホントに、そう出来るように、いつも祈ってるの

あたしらしくないけど、ホントのこと

姉さん

部屋の掃除して待ってるから

帰ってきて

いつでもいいから






親愛なる姉さんへ

最近、掃除をセリオ任せにしない妹より








P.S 

こっちはこれから涼しくなりそうだけど、アフリカは一年中暑そうだから

体に気をつけてね

別便で日焼け止めを送ります

一番近い郵便局が500キロも離れてる事情はわかるけど

一度くらい、お返事下さい








P.Sその2

セバスからの定期連絡じゃ

姉さん、顔真っ黒になったとか、髪がモジャモジャになったとか、日本語すっかり忘れたとか

てんで、話になりません

セバスもいい年して、冗談きついんだから

しかってやった方がいいわよ




嘘よね?


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おまけ


「琴音ちゃん、誕生日おめでとう」
「藤田さん、覚えててくれたんですか!感激です・・・」
「そりゃそうさ。で、プレゼントなんだけど・・・」
「いいですよ、別に。藤田さんが覚えててくれてただけで、私・・・」
「いやいや、受け取ってくれよ、一生懸命なにがいいか考えたんだぜ」
「・・・嬉しい・・・そんなに、真剣に・・・」
「やっぱ、持ってないものがいいと思ってさ。琴音ちゃんって、犬は飼ってたし、ぬいぐるみとかも
持ってるし、足りないものって、何かなって」
「はい」
「で、結局、俺の遺伝子をいっぱいあげようと・・・」
「死ね」